第48話 両開き

「? いっつも思うんにゃけど、どうしてかたいっぽうの扉しか開けないのにゃ? もう一枚の扉も開ければもっと入口が広くなって、けいとらだって通れるにゃよ?」


 美剣みけのこの発言に、最初は何を言っているんだこの猫はと思っていた。まあ、猫が話すという時点で普通ならばオレの方が何を言ってるんだと言われるだろうが。


 よくよく話を聞くと、車庫にできた穴から階段を下り、その先にあるダンジョンへの出入り口。その扉は片開きだとずっと思っていたのだが、どうやら美剣の話だとその扉は片開きではなく、なんと両開きになっているというのだ。


「うそじゃないにゃよ? ご主人もまにゃみも気付いていなかったのかにゃ?」


「ぜんぜん気づかなかったぞ? というか、今でも信じられないんだが」


 ということで、ダンジョンの入口に行ってみた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「オレには片開きにしか見えないぞ?」


「私もです。」


「ほら、ここにうっすらと線がみえるにゃよ」


「いや、説明されても全然わからん」


「にゃー、だったら開けてみるニャ」


 美剣はそういうと片開ドアの反対側、両開きならば反対側の扉のある位置へと移動し、しゃがんで何かをカチンと外した。


 すると、


「ほら、開いたニャ」

 

 確かに美剣の言う通り、その扉は両開きだった! さっき外したのはドアストッパーか?

 その幅は、単純にこれまでの2倍となり、軽トラも通れる幅となった。


「これは、隠し扉だったのか?」


 ダンジョンの中には、所謂隠し扉というものが存在する。特に鍵や罠などがかかっているわけでもなく、単に光線の加減などで気付かれにくくなっているもので、発見するには偶然の気づきや、壁を調べることが必要になる。


「美剣は忍者だから気づけたのかな?」


「そうだと思いますよ? 私もまったく気づきませんでしたから」


「にゃー、美剣は有能なネコなのニャー!」


 隠し扉の存在に一回気づいてしまうと、もうそれは扉にしか見えない。さっきまでは壁の一部としか見えなかったのに不思議なものだ。


「じゃあ、さっそく軽トラを地上に出してみるか」


 オレは運転席に乗り込み、軽トラのエンジンをかける。

 

 ちょうど、ガソリンもなくなってきたところだ。もう少ししたら、金属のガソリン缶を買って、ガソリンスタンドからガソリンを買ってきて給油しなくてはと思っていたところであり、ガソリンの使い道を店員に聞かれたら何と答えようか悩んでいたのだ。


「ちょうどいい、このままガソリンスタンドに……って、ええええええ!!!」


 ダンジョンの出口の扉を通過し、4WDを駆使して階段をガタゴトと登り切ったオレの視界に映るバックミラーには―――


 荷台の上で、立ち続けている美剣の姿があった。


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