第42話 招き美剣

 美剣みけが倒したコボルドが落とした宝箱から、解毒ポーションらしきものがドロップした。


 「確か、解毒ポーションって中層以降でドロップするんじゃなかったっけか?」


 今いる所は地下1階。浅層も浅層、最も浅い階だ。こんな浅い階で解毒ポーションがドロップしたという例は、世界中でも数えるほどしかない珍しい事例なはずだ。


「昨日も思ったんだが、美剣が倒したときってレアドロップ率が異常じゃないか?」


「そうですね。私たちが倒したときは、宝箱からでも魔石しか出ませんでしたからね」


「そうなのかにゃ?」


 以前、軽トラの荷台に積まれたドロップ品を数えていた時にも思っていた。灰色狼がドロップした毛皮の数が異常だと。

 今にして思えば、あの時美剣が狼を倒していたのは最初の玄室で、大声をあげればポップする奴らで、通常の玄室でのエンカウントと違って宝箱は落とさない。

 レアドロップ品というものは、たいていは宝箱から出てくるもの。つまり、美剣は宝箱の出ない通常のドロップであれほどのレアドロップを引き当てていたという事だ。


「よく考えるととんでもないな。」


「そうですね。美剣ちゃんならこの階層だけでも大稼ぎできますね」


「にゃ~、美剣は稼ぎ頭にゃ~!」


 うーむ。どう考えても、これは美剣に何かしらのレアドロップ率向上の能力なり、なんなりがあるに違いない。最初は異質化した軽トラの恩恵かとも思ったが、それならばオレやマナミサンが倒したときも効果があるはずなのだ。美剣が倒した魔物だけが、レアな品をドロップするというのはそれしか考えられない。


「なあ美剣? 異質化して人間の姿になった時とか、レベルアップした時とか、なんかアイテムやお金に関する感覚とかなかったか? 『チャリーン』って音が聞こえたとか?」


「よくわからないニャ。けど、特に意識したことはないのにゃ」


 そうか、自覚は無しか。ステータスなどが見られない以上、この美剣の能力を確認する術はない。


 とりあえず、コボルドとのエンカウントで美剣の精神状態も不安定だし、宝箱の爆発で物干しざおもダメになってしまったので、今日のところは探索を打ち切った。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 車庫から出て、自宅に戻る。玄関で軍用靴を脱ぎ、合成プラスチック製のフルアーマースーツのベルトを緩める。ちなみに美剣はダンジョンから出ると猫に戻るのでオートで装備を外すことが出来る。まあ、着るときの手間は変わりない。

 持っていた盾を靴箱の脇に立てかけた時、ふと、目に入るものがあった。


 靴箱の上に飾られている日本人形や木彫りの熊。親父やおふくろ世代は、こうして玄関に色々なものを飾ったり置いたりして飾り立てていたものだ。

 両親が亡くなってからも、なんとなく片付ける気にもなれずそのままにしておいたのだが、その中に、あるものが置かれていた。


 そこには、人を招くように片手をあげて、『千客万来』と書かれた札を持つ猫の人形――が鎮座していた。


「「「これだ(です)(にゃ)!!!!!」」」



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