第33話 機密情報

「こちらの方が旦那さんですかい?」


「ええ、そうよ」


「って、盾使いの兄貴じゃないっすか!」


「「兄貴(ですか)?」」


「ええ、あっしと組んだ時、真っ先に前に出て魔物の突進を止めてくれた盾の兄貴ですよ!」


「「はあ……」」


 おっと、いつの間にか兄貴認定されていたとは知らなかった。


 この男には覚えがある。一見、チンピラのように見えるが妙に礼儀正しく、武器が釘バットという個性豊かな人だった。

 彼の自己紹介いわく、高卒の19歳の吉岡慎吾よしおかしんごくん。なんとマナミサンと同い年だが出身市町村が違うので当然のごとく知り合いではない。他の3人の仲間たちと暴走族? 走り屋? をしているが、昼間は真面目に工場で働いているらしい。ちなみに、他の3人の武器は、バール、角材、ハンマーとバラエティに富んでいた。そのうち防災ヘルメットを被って火炎瓶でも投げないか心配だ。

 

 で、マナミサンが自己申告するところの旦那(ややこしい)のオレが現れたことでナンパじみた勧誘は終わりを告げたのだが、なんと吉岡君がオレの耳の近くに来てひそひそ話をし始めた。


「兄貴~、マナミのアネゴとしっぽりやってんすか? やっぱあの噂ってほんとなんすか?(ヒソヒソ)」


「いや、なにもしてないぞ。アネゴ云々はスルーするとして、ところであの噂って?(ヒソヒソ)」


「え? 知らないんすか? ほら、あれですよ! ダンジョンの中で致すと避妊いらずで超快感ってやつっすよ!(ヒソヒソ)」


「えええっ!(大声)」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 その時吉岡君から聞いた噂話は本当だった。


 翌日の国家試験後、探索者国家試験合格者だけに明かされる守秘義務のある情報の中にそれが含まれていた。


 なんでも、


①,ダンジョン内で性行為をした相手とは、第6感ともいえるようなパスが繋がり、戦闘における連携がより図り易くなり、死亡率の軽減に大きく資している。

②,ダンジョン内の性行為に関しては、原因は不明だが卵巣への着床は不可能、つまりダンジョン内では子孫を残せないと考えられる。なお、それに反して得られる快楽は、個人差はあるものの地上におけるそれと比して数倍と言われている。

③,性行為の相手は異性、同性を問わない。なお、同性同士の場合パスが繋がるためには互いに性器で達することが必要である。 


 というものだった。


 死亡率軽減のため、この情報を開示するのだろうことは理解できる。①の条項だけならまあ、広く周知されても致し方ないと思う。

 ただし、②に関しては、この部分だけが広まってしまえばいらぬ性犯罪や人権侵害の助長に繋がってしまうといった懸念があるのだろう。実際、昨日吉岡君がささやいてきたように、世の中にこの噂は広まりつつあるらしい。

 ③についてはどうでもいい。まあ、BLの世界なら受けと攻めが交代しないとパスは繋がらないことは分かった。オレには関係ないが。

 

 そういえば、講義を受けに来たその日に制服を着た女性に、オレがマナミサンをかどわかしているのではと確認されたことがあった。あの時のそれは、この情報に起因するものなのだろう。あの時はなぜそんなことを確認するのかと違和感があったが、この情報を聞いて納得した。

 実際、世の中の不埒な男性は魅力的な女性にダンジョンを案内してやると誘い、中に入ったらダンジョン攻略のためだとか言って強引にでもことを為し、その時の快感をもって薬物中毒のように離れられなくしていいように扱うといった犯罪が増えてきているらしいのだ。


 ちなみに、この情報を聞いた時のイケメン九嶋君たち3人はとっても顔を赤くして戸惑っていたな。カップルと、その彼氏の妹といった組み合わせだからな。

 まあ、頑張ってほしいものだ(何を)。

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