第29話 国家資格講習③

 実技研修が始まった。

 センター内の運動場兼射撃場、そこに今回の受講者である30数名が集まっていた。


 研修の内容は、まずは探索で主に使われている銃や剣などの武器の実物の実際の取り扱いの講習が行われる。

 剣やなぎなた、斧や槌、ナイフなどの取り扱い、素振りなどのほか、銃器は実際に模擬弾の射撃訓練までを行った。

 さすがにバズーカや火炎放射器のような大型武器は射撃までは行わないが、それでも実物を使った操作模擬訓練には緊張感を感じた。


 その後はVRヘッドをつけての仮想模擬戦がメインとなる。




 なぜここまでの徹底した講習を行うのかという理由も、講習の中で説明される。

 

 それは、ダンジョンでの死亡率が決して低くないということからだ。

 

 専門的に探索をする自衛隊の精鋭たちでも死傷者の数はゼロではないし、ましてや民間の探索者などは、年間の死亡率が1割を超えるのだ。じつに、10人に1人は命を落としているという実情がある。

 

 国としてはダンジョンの探索を効率的に進めたい以上、国家試験合格者を少しでも増やしたい反面、探索の人材である探索者の質を上げ死亡率を下げるというのは、まあ、納得が出来る。



 だが、それにしては納得のいかない数字もある。国家資格を持たずとも探索が許可されているダンジョン所持者が、資格を得ずに探索をした場合の死亡率が5割を超えるのだ。

 いくら探索は自己責任とはいえ、この数字は高すぎる。国からの説明では、個人の財産たるダンジョンの持ち主に対して、探索を禁止したり制限したりすることは権利の侵害になるため、抑止の仕様がないとの事だ。

 もちろん他の見解も存在し、そのように所有者が死亡したダンジョンは国による国有化が容易になるからあえてそのようにしているのではないかという陰謀論的な見方もまことしやかにささやかれている。


 確かに、オレの家にダンジョンが出現した時の調査隊の人たちからは、自身で探索する事に対する危険の説明や、強い注意もなかった。

 もし、この死亡率の数字をあの時点で知っていたら、一人で突入することはなかったであろう。実際死にかけた。

 調査隊は国に売ることを進めるような口ぶりであったし、陰謀論的見解もさもありなんとも思えてしまうのだが、推測で物を述べて当局にマークされるのも困るので、そのことは考えないようにしよう。




 得られる知識や情報に対し様々なことを考えているうちに講習は進み、いよいよVR模擬戦の時間がやってきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る