第22話 美剣はたたかうにゃ

美剣みけ


 「ご主人はおんにゃに会いに行っちゃったけど、わたしはわたしでできる女だという事を証明しなくちゃにゃ。」


 今日、ご主人は、辞めた会社の後輩である女の相談に乗らなきゃにゃいらしい。その女もご主人の後を追うように会社を辞めてしまって、にゃんでもその原因の一端がご主人にあるとか。


 「フフフ……そのおんにゃ、わたしの敵になるかもしれないにゃね」


 もしかしたら、ご主人の夜伽の相手はその女になってしまうかもしれにゃい。でも、わたしには、戦えるチカラという武器があるニャ。わたしは強いニャ。だから、追い出されるなんてことはないはずにゃ!


 もう、野良には戻りたくにゃい。ご主人がくれたご飯、とってもおいしいごはん。昨日、ご主人のお布団に潜り込んで寝た時のあの温かさ、あの安らぎ。もう、寒風吹きすさぶ寒い夜に車庫の冷たい地面に寝るのは嫌にゃ。


 「だから、わたしは、ここダンジョンで敵をたくさん倒すのにゃー!」


 そう思ってダンジョンの扉を潜り抜け、人の姿になったわたしはけいとらの荷台の上で敵が出てくるのを待っているのだが、一向に何もあらわれない。


 「おかしいにゃ? あの時はいつのまにかあの犬野郎がどこからともなくあらわれたのにニャ。いつまで待っても出てこないにゃ。」


 —――この場所は、ダンジョンに入って最初の玄室。美剣や佳樹はのちに知る事になるのだが、この部屋は最初の玄室という事もあり、比較的安全性が高く設定されているらしい。したがって、他の場所では時間経過によってランダムポップする魔物が、ある条件を満たさないとポップしないのだ。

 

 その条件とは、


 「ゔにゃぁああああああああああ! 怖気ついたか犬野郎! とっとと出てくるニャー!」


 大声や大きな物音など、魔物を呼び寄せるような行動をすることだった――。



 —―音もなく、灰色の毛皮を持つ狼が玄室の中に現れる。美剣の大声に誘われてポップしたのだ。

 思えば、佳樹と美剣が初めて魔物と戦った時も、二人はおたがいに互いの存在に驚いて大声をあげていた。


 出現した灰色狼に向かって、猫特有の瞬発力を持って美剣は一瞬で距離を詰める。そのゼロコンマ何秒かの間に、両手の五指からは50cmにも届く鋭いツメを伸ばし、一気に灰色狼の喉元を掻き切ってしまう。


「やっぱりわたしはとっても強いニャ」


 首から両断された狼の死体。返り血を浴びる全裸の少女の肢体。数秒後、狼のそれは消え去り、後には小さな石と毛皮が残される。


 「フフフ……これをたくさん集めればご主人はよろこぶのにゃね」


 大声を上げれば敵が現れることを学習した美剣は、叫んでは切り、叫んでは切りを繰り返していく。


 そして、軽トラの荷台には数多くのドロップ品である、魔石と毛皮がうずたかく積まれていた。


 「むう、たくさん集めすぎちゃったかにゃ。どうにかして、コンパクトにならないかにゃ?」


 美剣がそうつぶやいた瞬間――、


 荷台に置いてあったドロップ品は、一個残らずその場から消え失せてしまったのだ。


 「うにゃぁあああああああああ! せっかく集めたのになくなったにゃー!」


 


 その大声でまたポップした狼を屠りながら、ご主人になんて言おうか悩む美剣なのであった……。



 

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