第19話 責任とは

 オレは、元同僚の早坂さんとの待ち合わせ場所である、某ファストフード店に向かっていた。


 こんな田舎にでも展開してくる某ファストフード店、恐ろしや……。

 



 ちなみに、ここはとっても田舎なので、全国展開のコンビニやら、ファミレスやらが開店するとなれば新聞の記事となって、開店日には行列ができるという土地柄である。

 そして、電車等の交通網が貧弱なため、その分、自動車は生活必需品と化しておりドライブスルーは大繁盛である。


 で、オレはそんな車至上主義の土地柄でバスに乗って店に訪れるという、まるで免許を自主返納した人のような行動をとったわけだが――



「先輩! おはようございます!」


「ああ、おはよう。」


「バスで来たんですね? そこのバス停で降りるとこ見えましたよ。」


「ああ、車がないのってこんなに不便だとは思わなかった。」


「じゃあ、帰りは私が送りますよ!」


「い、いや、ダイジョブ。たまにはバスも新鮮だから……」

(まずい、家に来られたらしゃべる猫みけがみつかってしまうかもしれない)


「そうですか? じゃあ、本題なんですけど、」


「ああ、再就職の話だったな。ハローワークとか行ってみたのか?」


「いや、とってもいいとこ就職先見つけたんで行ってないです!」


「へえ、どんなとこなんだ?」


「それはですね~、えへへ」


「……ん?」


「先輩のウチです!」


「へ?」


「ダンジョン探索者になって、先輩んちのダンジョンで探索するんです! いいと思いませんか!?」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





 なんと、早坂さんの再就職の相談というのは、俺んちにできたダンジョンで探索者をしたいというものだった。


 ダンジョンと言っても稼げるような資源があるかわからないこと、昨日オレが死にかけたことを例に出し、とっても危険であること、そもそもまだ若いのだから、もっと安定した堅実な仕事をするべきだと一生懸命説明と説得を繰り返したのだが……



「先輩。責任取って下さいネ?」


 この一言には逆らえなかった。


 もうちょっと大きな声で言われていたら、田舎の泥沼不倫カップル? としてこの店中のお客様たちの話題を数日間独占してしまったに違いない。


 しかし、うちにはしゃべる猫が闊歩している。どうやってごまかすべきかを考えていると、事態はさらに深刻な方に傾いていく。




「じゃあ、今日中に引越ししちゃいますね!」


 え?




「引っ越しって?」


「探索者って収入が不安定だってさっき先輩言ってたじゃないですか? だから、家賃のかかるアパートから先輩んちに引っ越すんです! これで、通勤時間も交通費もゼロですよ!」


 あれ~? この子ってこんな、人の話聞かずに突っ走る系だっけか?

っていうか、一緒に住むなんて、みけの事が無くてもアウトだろうに!




「いや、そうじゃなくて……。論点が……。いや、アパート引き払うなら実家に戻ればいいんじゃないか……? 田舎なんだし? 親御さんだって納得しないでしょ?」


「実家は兄がお嫁さんもらってますから私のいる場所はありません! 親は、納得しないどころか逆に喜びます! だから、先輩んち以外ありえないんです!」


 いや、その理屈はいろいろおかしいのだが……



「責任取ってくれますよねェ?」



 くっ……!





 結局、帰りは早坂さんの車で家まで一緒に向かう事になり……




―――こうして、同居猫が出来た翌日、同居人も増える羽目になるのであった。

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