第16話 猫との時間。
ダンジョンの出口の扉を開けようとして―――ふと気づく。
すっかりにゃん公の全裸を見慣れてしまい気にも留めなくなっていたが、これは世間一般からすれば、かなりの異常事態だ。
「とりあえずこれを羽織れ」
「にゃっ?」
車庫から家まで数メートルの距離ではあるが、もし全裸の少女を車庫から連れ出す姿を近所の誰かに目撃されたとしたら……!
間違いなくオレの人生は社会的に詰んでしまう!
とりあえずスカジャンを羽織らせるが―――――下半身の生足が生々しい。
これではだめだ。とりあえず肌色部分をすべて隠さなくては。
「いいか? おれは家に戻ってなにか着れる物を持ってくるから、お前はそれまで車庫の中でおとなしくして待ってるんだぞ?」
「なんか愛人みたいでドキドキするにゃ」
「その知識ぇ」
とりあえず猫耳の間の頭頂部をチョップしておく。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ダンジョン出口の扉をくぐる。
ん? 待てよ? ところで、にゃん公ってダンジョンから出られるのか?
在り方を大きく変えた【異質化】したものはダンジョンから持ち出せないはず……
猫から人になるほどの変化をしたにゃん公は外に出られないんじゃ……
そう思いふと振り向くと、にゃん公の姿がない! さっき羽織らせたオレのスカジャンが足元の床に落ちている!
「にゃん公! どこ行った!?」
――まさか、まさか
消えてしまったのか? 【異質化】したものを無理に外に持ち出そうとして
「にゃん公! 返事をしろ! 消えるな!」
すると、なにやら足元のスカジャンがもぞもぞ動いている。そして、スカジャンの下から顔を出したのは――三毛猫だった。
「にゃにゃにゃん? にゃにゃにゃにゃん! (ご主人ったら、私が消えたと思ってそんなにあせっちゃってくれるんですニャ? ふっふっふ、かわいいごしゅじんさまですにゃ!)
「にゃにゃにゃにゃにゃ――(これはわたしのことをこころから愛しているという証拠――)」
ずびしっ!
「ゔにゃーーーーーー! にゃにゃにゃ! (いたいにゃ! なにするにゃ!)」
「なんかイラっと来たからチョップした」
「にゃあ”ーーーーー」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――――裸の美少女を近所の人に見られる心配もなくなったので、普通に全裸? の三毛猫を連れて家の中に戻ってきた。
「で、ダンジョンから外に出ると猫に戻ると。」
「にゃっ」
「そして言葉もしゃべれなくなると。」
「そうらしいにゃ。あれっ?」
「しゃべれるじゃねえか!!」
「私もびっくりニャ」
おいおい、ダンジョンを出ても【異質化】の影響が残っているだと?
しゃべる猫なんて、こいつはいよいよ、にゃん公の事を周りに知られるわけにはいかないぞ?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「はあ、今日はいろんなことがあったな」
「おつかれさまですにゃ」
「で――、飯にするわけだが」
「ごはんですにゃ!」
「その前に、野良で薄汚れたお前を洗わなきゃならん」
「にゃっ!?」
「先に風呂だ!!」
「風呂はいやですにゃーーー!!」
このあと、めちゃくちゃシャンプーした。
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