第14話 恐怖、後悔。そして感謝。

 灰色狼を一撃で屠ったネコミミの美少女は、右手から伸びた長いツメを持ち、10代前半の容姿でそこに佇む。

 

 返り血を浴びた、その若々しい全裸の肢体はなにか背徳的な美しさを持ち、見る者の背筋に軽い震えを覚えさせる。


その姿は凛として――


「にゃー! わたしとってもつよいにゃー!!」


 なんか、台無しである。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 倒された灰色狼は、時間の経過でその体を光の粒子に変えて四散する。

 

 そのあとには、狼と同じ色を持つ半透明の小ぶりな石と、首から下の身体の体表分と思われる毛皮が残されている。


「これが、ドロップというやつか」




 灰色狼は強かった。オレ一人ならば、たぶん死んでいただろう。


 危険度が、下から2番目のFランクと聞いていたから――


 

 ダンジョンをなめていた。

 

 なんとかなると思っていた。

 

 準備もろくにしていなかった。



 頭をよぎるのは後悔、そして――――恐怖。




 ついさっきまで、オレはサラリーマンだった。

 

 命の危険なんて、感じたことなどなかった。

 

 そこの床に血をまき散らして倒れていたのは、オレだったかもしれない。




 そう思うと、身体全体がガクガクと震えだし、自分の意志では止められなかった。


 そんなオレを、心配そうに見ている猫耳の美少女。


 オレの命の恩人? 恩猫? だ。




「にゃん公、ありがとう。お前のおかげで助かった」


「あー、またにゃん公って言ったにゃ! でも、ご主人だって、わたしをかばって敵に突っ込んでいってくれたにゃ、とてもかっこよかったにゃ!」


 恐怖、後悔、自己嫌悪。

 命だけじゃなく、そんな感情までも、猫耳美少女の天真爛漫な明るさに救われる。




「今日のところは家に帰ろう。腹も減ったしな。」


「わーい! ごはんにゃー! おなかへったにゃー!」


「服も着なきゃならないし、それに……」


「にゃ?」


「それに……お前の名前も考えなきゃな……」






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