第10話 軽トラとの再会
オレは今、自宅の車庫内に突然現れたダンジョンの入口、扉の前に立っている。
仕事はさっき辞めてきた。もはや、オレはこのダンジョンを命がけで攻略して生計を得るしか生きるすべはない。
だが、準備不足は自覚している。今のオレの装備は手斧以外は普段着に毛の生えたようなものだ。
なら、何を準備すればいいのか。その情報を得るために今日はダンジョンに潜る。
いわば偵察だ。
ダンジョンは危険だ。平和ボケした日本の日常とは違い、オレの命を的確に狙ってくる魔物がこの中にはひしめいている。
覚悟を決めて―――
扉を開けて、中を覗き見る。
扉を開けただけでは、中を見ることはできなかった。この世と彼方の境界線、扉を超えないと向こうの世界は知覚できないのだろう。
手斧を構え、扉の向こうに身体を滑り込ませる。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そこは、広い部屋。
学校の教室でいえば、4つ分ほどをくっつけたような広さだ。
魔物の姿は―――ない。
壁や床は、土なのか、石なのか、素人目では判別できないが、おいそれと削ったり穴を穿ったりすることはできないような、介入の拒絶という明確な威圧感を感じる材質。
その壁や天井は、原理は全く分からないがかすかな光を放っており、部屋の中は予想していたよりも明るく、ヘルメットについているヘッドランプの必要はないようだ。
部屋には、今オレが通ってきた扉を両開きにしたような、大きな扉が3か所、各壁にそびえたっている。その扉の幅は両開きの2枚合わせておおよそ3メートルくらい。普通車が余裕で通れるくらいだろうか。
そんな部屋の中の一隅に、オレの愛車の軽トラが鎮座していた。
軽トラが停まっている部分の床は、セメントを固めたコンクリートに見える。これはおそらく、地上にあった、大穴と化した車庫の床材がそのまま巻き込まれたのだろう。
見た感じ、軽トラのどこにも破損やへこみは見られない。地上にあった時と同様、きれいな元の状態でそこにある。
外見上は壊れてはいない。中身はどうだろう。動くだろうか。
そう思い、運転席に近づいていく。だが、その途中で自分が無意味なことをしようとしていることに気が付く。
【異質化】していない物品は、ダンジョン内では一部を除いてすべての動力が作動しないのだ。バッテリーの電源を補助にしてエンジンをかけるガソリン動力の自動車など、作動するはずがないのだ。
仮に、【異質化】していれば話は別だ。だが、異質化しているものの場合、そのほとんどは地上にあった時のものとは大きくその姿、外見も変わっているのが常である。
見た感じ、地上にあるのとまったく同じ見た目のこの軽トラが異質化しているとは考えられないだろう。
もはや、乗る事の出来なくなったオレの愛車。
軽トラの運転席に近づき、なにか感慨深い感情のままにそのドアを撫でる。
「おまえには、親子2代で世話になったな」
もともとは親父が乗っていた軽トラ。
10年以上前の型だが、これまでろくな故障もせずに頑張ってくれた。
感慨に浸るのを終え、次のエリアにでもいこうかと思ったその時、
軽トラの幌の中でガサゴソと、何かが動く音が聞こえた。
魔物か―――!?
オレは軽トラ後部に回り込み、慎重に、斧を構えながら、幌のカバーをめくりあげた。
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