第9話 冒険のはじまり
会社を辞めて、昼過ぎという早い時間に家に帰ってきたオレは―――
ダンジョンに足を踏み入れていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
本当は、ダンジョンを国に売って、その金を頭金にして新しい車を買おうと思っていた。そして、いつもと変わらない毎日を送るのだと本気で思っていた。
でも、心の片隅では、ダンジョンで稼いで独立できるのでは。そんな思いがあったことは否めないだろう。
もとより、
ほかになにか良い仕事でもあれば、すぐにでも辞めてやるとも思っていた。
それが、何の因果かダンジョンが見つかった日の休暇の件で難癖をつけられたことが退職の直接の原因となったこともなにかの運命だとも思えてきた。
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その日、帰りの途中でホームセンターに寄って買ってきたアウトドア用の手斧を、今オレは手に持っている。
あとは足甲に金属板の入った安全靴に、厚手のジーンズと腕部分が合成皮のスカジャン、防災用のヘッドランプ付きヘルメット、手が滑らないようにイボ付き軍手といったいでたちだ。
ダンジョンの中には魔物がいるはずだ。我が家にできたそれは、危険度は下から2番目のFランク、出る魔物の強さはそれほどでもないと推測される。
とはいえ、当然のことながら命の危険はある。学生時代にラグビー部に所属していたとはいえ、オレに格闘技の経験はない。さすがに無手で挑むわけにはいかないと思い、手斧を買ってきたのだ。結構高かった。
職場を辞めたばかりの、怒りとあきらめのないまぜになった表情で斧を購入するオレの姿は通報ものだったんだろうなと我ながら思う。
相手はどんな魔物なのか全くわからない。もし、人型の魔物だったとしても、武器を持った相手にタックルをかますのは背中をさらすことになり自殺行為でもある。
生息しているであろう魔物の情報は調査隊の人たちも、いかに親切とはいえ漏らせない情報らしく、直接自分の目で確かめるしかないのだ。
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ダンジョンに繋がる下り階段は、幅は結構広く3ⅿほどで、高さも同様だ。傾斜はそれほどきつくなく、子供の歩幅でも上り下りはそれほど負担にはならないだろう。
階段を下りきると、目の前には扉が現れる。その扉は、階段の幅に比べて小さくて狭く、せいぜい大人が二人並んで通れるくらいの幅の片開きになっていた。
この扉の向こうは、日本でもなく、地球上のどこかでもないかもしれない。
地上のルールも、常識もが一切通用しない別世界。
自分自身の命は、自分自身でしか責任を持てない世界。
そんな、近くて遠い、未知の世界。
そんな扉の向こう。
ダンジョンに、今、オレは―――
冒険が始まる。
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