第8話 脱サラダンジョン③

 ブチッ


オレの中で何かが切れてしまった。


「そもそもキミはだね~、普段から上司を通すという基本をないがしろにしてだねぇ~」


「いいかげんにしろ、このク〇主任。いや、〇ソ齋藤っ!」


「!!? なんだキミ! その口のきき方は!?」


「うるせえっつってんだよ! いい年して嫁ももらえないクソキモ野郎が! 若い女子の前でいい恰好したいからって重箱の隅つついたようなねちっこい嫌がらせすんじゃねえよ! 気持ち悪ぃ! そもそも、あの職務規定、ミスプリしたのってお前のいいかげんな仕事じゃねえか!」


「な……なっ!!!」


「それに、いい年こいて早坂さんに言い寄ってんじゃねえ! 気持ち悪いから何とかなりませんかって周りみんな相談受けてんだよ! ホテルのディナー予約したなんて下心満載で食事誘いやがって! 免許証見てそのツラと自分の年齢確認しろこのボケが! 嫌われ者だってこといい加減に自覚しろ!」


「キミぃ―――! 上司に向かって言っていいことと悪いことが!」


「うっせえ! てめえみたいなキモい馬鹿なんてもう知らねえよ! 金輪際オレに関わるんじゃねえ! 目の前に現れたら簀巻きにしてダンジョンにほうりこんでやるからな! 覚悟しろ!」 









――――――オレは、会社を辞めた。



 辞めるにあたり、部長と社長には、今日の事をはじめ、齋藤からこれまでに受けた仕打ちをすべてぶちまけた。あれだ。人間、本当に怒ったりあきれたりしているとうまく言葉が出てこないもんなんだな。社長の前でなんども口ごもっちゃったよ。

 それに、涙まで出してしまった。不覚だ。


 社長と部長は、オレは悪くないと、辞めることはないとオレを慰留してくれたが、もう無理だった。他でもないオレ自身があんなところに居たくないのだ。



 早坂さんには悪いことをしてしまったと思う。いつも、齋藤主任からのキモイ誘いや、あからさまな接近をされたときにはさりげなくオレに助けを求めてきたし、オレも出来る限りかばってきたが、これからはオレという防壁がいなくなってしまう。

 齋藤からのホテル誘いの件もオレがカミングアウトしてしまったので、これから彼女はこの職場に居づらくなるだろう。

 

 でも、オレがいろいろぶちまけたとき、そばにいた彼女は困ったような顔ではなく、どこか安心した、スッキリしたような表情をしていたのはオレにとっての唯一の救いなのかもしれない。





 そして、会社を辞めて昼過ぎに家に帰ってきたオレは―――――



 ダンジョンに足を踏み入れていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る