第2話 ダンジョンの現代史

 各国は、地下空洞の魔物を『人類の存在を脅かすもの』として討伐隊を派遣した。


 これには、単に魔物が敵性生物であること以外にも理由がある。


 地下空洞が発見されて後、決して多くはないが、各国の軍や警察組織はそこに生息する魔物を討伐して、魔石と呼ばれるその核を持ち帰ったり、そこに存在する植物や鉱石等を採取していた。

 それらの研究の結果、地下空洞から得られる資源は非常に有用であるということが判明したのである。つまりはカネになるのだ。


 地球上にない鉱石は、ダイヤモンドをもしのぐ硬さのものや、地球上のものと同様の性質を持ちながらも安易に加工できるもの、あるいは半導体等の製作に必要な、所謂レアメタルと呼ばれる金属の上位互換に属するものなど、まさに宝の山であった。

 植物も然りで、これまで不治とされていた病の特効薬が相次いで開発されたりしてもいる。


 これらの状況は、国という単位からしてみればもちろん国富のために地下空洞の資源は確保すべきものであり、また、富以上に重要なもの、すなわち軍事力にも直結するものであるため、各国は地下空洞の攻略に力を注ぐことになる。




 ――すべての地下空洞は国の所有物として管理されるべきではないか。

 

 当然、各国の指導者たちはその論法を振りかざしたが、そのような目論見は、民主主義国家においては通らなかった。


 民主主義において、個人は『財をもつ権利』を有する。地下空洞の資源がいかに有用なものとはいえ、公共の福祉とは言えない性質のものである以上は、いくら国といえども個人から強制的に徴用するわけにはいかないのだ。


 しかしながら、敵性国家である社会主義国家、全体主義国家が地下空洞を国有化して国策として攻略している以上、そのままでは経済的、軍事的にその国力は差が開く一方になってしまう。


 そのため、民主主義各国は、『国有地に発生した地下空洞は国有化』するとともに、『個人及び法人所有地に発生した地下資源を買取して国有化』する方針を打ち出した。

 また買取を拒んだり、交渉が決裂して個人や法人所有となった地下資源は民間所有を認めつつも、『高率の税金』をその所有権、および探索による収得物という果実に定めることとした。

 これにより、民間所有の地下洞窟であれば、登録制ではあるが民間人が攻略を進めることも可能となっているが、それによる生命財産への損失は自己責任とされることとなったのである。

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