水色が澄んでいた日。

ももいくれあ

第1話

いつまでも騒がしい店内。

どこからともなく押し寄せてくる会話の嵐に、

渦の中を彷徨って、何度も何度も叫んでいた。

止まらない足音、やまないお喋り、夥しい笑い声、時折聞こえる咳払い。

そのすべてが、ただただワタシの鼻腔を突いて、キリリと痛んだ。

擦り切れそうなココロ。崩れ落ちそうな膝。燃え上がる脳内。

いつのまにか、迷子になった。

どこ?

またきてしまったのか。

不安定な鼓動のリズム。

時折襲う大きな波。

胸の奥がツキンとした。

ワタシは、やっぱり、手に取っていた。

透明の液体を。

それは、とっても苦くて、酸っぱくて、喉の奥に刺激が残るその透明の液体。

舌にしびれが残り、喉の奥はイガイガした。

その液体を手に取って、封を切ろとした瞬間、ワタシの記憶は飛んでいた。

真っ黒な闇の中。

病みの遠くに引きずりこまれた。

まただっ。

油断していた。

こめかみに軽い痛み、喉の奥の刺激、胃に訪れた不安定な漣。

ワタシは逃げることにした。

急いでっ。

間に合わなくなる。

いつもの場所に逃げるために、その液体を飲み干した。

景色は変わり、いつの間にか森の中を歩いていた。

軽い靴で。

軽やかで、しなやかで、穏やかで、健やかで、そんな水の音が耳に届いていた。

どこ?

いつもの場所にこれたようだ。

成功。

よくやった。

ワタシはワタシにコトバをかけて、ココロの底で微笑んだ。

いったい、どれだけの時間が経ったのか、

分からないのが幸いした。

ここに辿り着くまでに、幾つもの壁を乗り越えた。

ワタシはすっかり横たわっていた。

いつものソファー。いつものブランケット。いつもの砂時計。

準備は整っていた。

ワタシはワタシの朝を迎えるための準備を整えられたようだった。

成功。

よくやった。

今回はギリギリだった気がしていた。

小刻みに震える肩には、そっとカノジョの手が添えられていた。

ここまで来れば安心だった。

ワタシがそのことに気がつくまでには、数時間を要したけれど、

ワタシの視界にはカノジョが映っていた。

ぼんやりと、霞んではいたけれど、

それは、紛れもない。

ねじ曲げようのない。

誰かに支配されようもない。

追いやられてしまうような容易いものではない。

そういう、安全で、安心な、コトだった。

いつまで経っても朝は続き、

ワタシはカノジョを確認し、

カノジョもワタシの意識を確認した。

晴れていた。

澄んでいた。

穏やかだった。

そして、少しだけ張り詰めていた。

そんな空気が流れていた。

いつもの朝が、ようやくやってきたようだ。





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水色が澄んでいた日。 ももいくれあ @Kureamomoi

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