我耽る、故に我在り(全裸)



美桜学園―—グラウンド





「改めまして、本日お手伝いして下さる、部活支援部のお二人です」


あれから体育着に着替え、如月先輩と私は部長によって他の部員に紹介されていた。


おかしいな、私部員じゃないんだけど……。


「部長の如月だ。本日手が足りないという事で、出来る限りのサポートをさせていただこうと思う。よろしく」


如月先輩がそう言うと、女子部員一同から、黄色い声援が激しく飛び交う。


確かに見た目、ルックス、更には生徒会に所属していたりと……スペックを見ても如月先輩に人気があるのは頷けた。


「一年の七瀬です、よろしくお願いします……」


先程とはうって変わり、凄い静かな空気。


唯一藍だけが歓迎してくれるように拍手してくれたのが、何より精神的に追い詰められた。


はいはいそうかそうか、皆イケメンが好きなんだろそうなんだろ! 九割女子だもんね、そりゃ皆イケメンの方に飛びつくよね! ちくしょう、藍以外皆予選落ちしちゃえ!


そんな私怨を抱えながら挨拶を終え、私は如月先輩から今日の指示を受けた。


午前中はタイムをひたすら計り、個々に伝えてあげてくれ、とのこと。


といっても、部員の方から話しかける様にと言ってあるからそこは安心してくれ。なんて言われたは良いが……。


おそらく私のところに、タイムを聞きにくる人なんて藍ぐらいしかいないだろう。


下手したら、藍すら如月先輩の方に行ってしまうんじゃないかとすら思える。


「ちなみに、私はちょくちょく顔を出す程度で、タイム計測はほぼ七瀬がやる事になる」


「いやいやいや!? ちょっと待ってくださいよ! その間、如月先輩何してるんですか!」



「ん? 新しく頼まれた荷物を部室に運ぶのと、個々の競技に必要な備品を設置したりとか、肉体労働ばかりだが……何だ? こっちが良いのか?」


「いえ! 精一杯タイムを計らせていただきます!」


私の思い違いだった。流石にそんな辛い事を後輩に任せるような人じゃないか。この前正直がどうとか言ってたし。


「……よし、ちょっと七瀬。百メートル走ってみろ」


「……はい? 私がですか?」


「まあ細かい事は気にするな、とりあえず私がタイムを計るから、走ってみてくれ」


「は、はぁ……わかりましたけど……」


突然のゴリ押しに、わけもわからぬまま私は走る事に。


「じゃあ、行きますよー!」


百メートル離れた如月先輩に、手を振り合図をしてから、私はとりあえず全力で走ってみた。


何も考えずひたすら前へと走る私。何故走るのかは分からないが、とりあえず全力で駆け抜けた。


後半で気付いたのだが、如月先輩や他の部員……主に男子からの熱い眼差しに気づき、かなり恥ずかしかった。


「と、とりあえず……走り……終えました…!!」


無事完走した私は、息も絶え絶えな状態で、そう如月先輩に言った。


「ああ、中々見事なものを見……いや何でもない。まあなんだ、おかげで今日一日頑張れるよ」


「は、はぁ……?」


な、何を言ってるんだろうこの人は……。そんな素人の走りを、見事とか持ち上げないでほしい。恥ずかしいじゃないか。


「あ、新手の嫌がらせでしょうか……?」


「いやこれは本心だ。できたら個人的にハードル走……いや、さあ早く始めるとしよう」


半ば強引に話を終わらせられ、私はタイム計測を任される事となった。


一体何が言いたかったのか……結局不明である。


「あぁ……暑い、非常に」


あれから、タイムの計測をしばらくやっているものの、とにかく暑い。


途中から麦わら帽子を貸してもらっているため、多少は防いでいるものの……やはり暑い。


前に、こちらに持ってきた制汗スプレーを早速使わせてもらっていた。良かった、これがあって。


「てか、何で麦わら帽子なんだろ……私に一つなぎの秘宝を探しに行けって事なのかな」


「あ、あのー今のタイム、どうだった?」


不意に話しかけてきたのは二年の陸上部だった。やはり上の学年だけあって敬語は使ってこない。


「えっと今のタイムですと……さっきより一秒程落ちてますね」


「くっそーまた落ちてる……どうすりゃいいのさ……」


「先程から連続して走っているようですし、疲労が原因かもしれません。あちらにスポーツドリンクがありますので、少し休憩をなされてはいかかですか?」


「そ、そうかな? 確かにそうかも……? ありがと、少し休んでみるよ」


私の言葉を真剣に受け止めてくれたのか、そのままお礼を言いながら、日陰の休憩場所へ歩いて行った。


ふふふ、私ほどの者になればこれぐらいの気遣い、余裕なのだ……! と胸を張って自慢してみる。


まあ、本当はさっきからずっと走ってるからっていうだけの、当てずっぽうなんだけどね。


「美紀ー凄いね、選手の体調管理もバッチリなんて」


突然背後から現れた藍が、感心するようにそう呟く。


「び、びっくりした! そ、そんな事ないって、たまたまだよー」


「そんな謙遜しちゃってー。実際に結構休憩所で話題だよ? あの新しい子、マネで欲しいって」


「ええ!? そんなまさか……いや、褒めてくれるのは嬉しいけど」


しかし、的確に理解しサポートしてるわけでもなんでもないので、微妙な所である。


「ま、そんなわけでこの後もよろしくねー! で、私のタイムどうだった?」


「え、えーっと藍のタイムはね……十一.八八。さっきより二三も速いよ!」


計り始めた時から思っていたが、元々かなり速くないか藍って……。


「おおーやったー順調順調! これで大会は万全かな」


「にしても藍、かなり速くない? 先輩達抜いてトップクラスじゃん!!」


「そ、そんな速くないってー! ボルトに比べたらまだまだだよー」


「人類最速の男と比べたら誰だって遅いよ!! 十八秒の私なんか殺されるレベルだよ!!」


気楽に言う藍に、思わず声を大にしてツッコむ私。


「藍ってそもそも、何で陸上部入ったのさ? やっぱり足が速かったから?」


「いや……別にそういうわけじゃないんだけど。幼馴染に、走るの速いし好きなら、陸上部やってみればって言われてね」


どこか照れた様子でそう答える藍。おや……これは何やら色恋沙汰の香りが……?


「こ、こいつはくせえッー! リア充のにおいがプンプンするぜッー! こんな純情には出会った事がねえほどになァー!」


思わず勢いに任せて、あのお節介焼きで有名な人の名台詞をもじってみたが、当の藍は茫然としていた。


……ミスった。相手は姫華じゃないんだった。


「り、リア充なんかじゃないよー」


どこかぎこちなさを感じさせつつも、そう答える藍。やはりネタは分かっていないようだった。


うう……姫華だったら、絶対ネタ理解してノッてくれたのに……。


「……っとと、あんまり話してると先輩に怒られちゃうから、また後でね!」


ハッと思い出したのか、足早にスタート地点の方に戻っていった藍。


にしても藍は良いなぁ……足は速いし、リア充だし……良い事だらけ、人生楽しそうだなぁ。


まあ人は人、私は私、って考えるしかないかな。


髪型も、藍は短髪で容姿すら全然違うし! 一緒にして考える方がおかしいよね!


「はぁー今頃姫華は、悠々自適に夏休みを満喫してるんだろうなー……」


思わずため息が零れ、私は何となく空を見上げた。






――その頃、姫華はというと。





「このぬいぐるみ、もしかして美紀のおっぱいと同じ柔らかさなんじゃ……? だ、だとしたら世紀の大発見よ……!」


全裸で抱き枕を揉みしだきながら、ベッドで転がりまわる姫華。


「でも、ボリュームがちょっと足りないわね……」


「ま、いいわ。さて、今日のランチを探そうかしら」


そう呟きながら、スマホを取り出し検索を始める。


「桃髪、巨乳、ツインテ……と。あ、良いわねこれ」


ゆっくり右手が下半身に伸びていき、段々と荒くなる息遣い。


「…………あっ」


灼熱の中、外で汗をかいている美紀をよそに、一人涼しい部屋の中で額に汗を浮かべながら、姫華は自分磨きに耽っていた……。


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