ふたを開けたら地獄




翌日――朝 部室





「おはようございまーす」


教室を通り過ぎ、この部室に行くのが少々怖かったが、昨日の書類を信じて直接来てみた私。


「おはよう、時間にルーズじゃないのは良い事だな」


先に来ていた如月先輩が、挨拶交じりにそう言う。


良かった、イメージ的に遅刻とか許さなそうと思っていたら、ビンゴのようだ。


「ははは……まあ、時間にうるさい人がいるもので」


「例のお友達かな? 聞いている限り恋人のようにも聞こえるが」


「ち、違います! ただの友達です!」



突然の台詞に、思わずたじろぐ私。どうしてそうなる!



「冗談だよ、冗談。そんなに慌てなくても良いじゃないか。それとも、本当に……」



私の反応に微笑しながら、そう茶化してくる如月先輩。



「違いますっ!」


これが噂に聞く後輩いじりってやつだろうか?


「さて、一通り新入部員を弄った所で、補習を始めるとするか」


「いや体験入部です。部員ではないです」


さりげなく、部員に仕立て上げようとする所を、冷静に指摘する。


「何だ、昨日入部する空気になっていたと思ったが?」


「別に、入部するとは言ってません」


「ふむ、あと少しだったか」


考えるような素振りを見せながら、そんな事を呟く如月先輩。


「もしかして、本当は部員いないんじゃないですか?」


「そんな事はない、決してな」



それだけ言うと、ホワイトボードを引っ張り出して、何やら書き始めた。


デカデカと書かれた言葉は『慈善活動』。


「補習という事で、今から七瀬には罰として、慈善活動をしてもらう」


「……はい?」


何を言っているのか、さっぱり分からなかった。


ん……? 私は罰を受けているのか? いや違う、簡単な事だ……ハメられたんだ、私は。



「し、してやられた……雑用を手伝わせる事が、真の狙いだったのか」


「雑用と言うな、慈善活動と言え。ほら早く支度しろ、そんなノートなんて広げていないで!」


「まともに勉強しない事は、確かに嬉しいけど…何か腑に落ちない!」


半ば強制的に外へ連れ出され、良くも悪くも勉強から解放されたのだった。







太陽が燦々と輝く中、グラウンドにいる私達。


昨日は、夕方だったからまだ良かったものの、今回は完全なる午前中……太陽がこれでもかと日光を浴びせてくる。


「また運動部の手伝いですか……?」


「ああ、ちなみに今回もまた陸上部だ」


ちょうど、昨日と同じプレハブの近くに来た所で、藍を見つけた。


「あー美紀ー! こっちこっちー!」


こちらに気づいたようで、手を振りながらそう自己主張している藍。


もう軽く暑さで頭がやられかけている中、どうにか藍に手を振りかえす私。


「おはよう美紀ー! って、やっぱり部員だったんだねー! しらなかったよ!」


「ちょうど昨日、部に入ってくれると言ってくれてな、こちらとしては嬉……」


「だから部員じゃないです! そして藍も悪ノリはやめましょう!」


「えー! 滅多に美紀を弄れる時なんてないからさー、たまにはと思って!」


部活のスポーツウェアを着た藍が、そうハニカミながら私に言ってくる。


そんな笑いながら言っても許しません……。


「それで藍、今日は何をやれば良いの?」


暑いので、早急に室内へ行きたい私は、急かすように尋ねる。


「ごめんごめん! 今日はね、タイムの計測とかをお願いしたいんだよね……」


その言葉を聞き、一瞬、硬直した私。流石に動揺を隠せなかった。


そ、それって……グラウンドにずっといるって事じゃん……!!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る