二章 いつわりの妃②
花は心地よい。
牡丹に触れようと手を
(
紅姸の
妃宮は
(
紅姸は息を
重圧を放つそれはゆっくりと移動し、ついに──開け放たれた門から、血のにおいが濃く香った。
(いた。鬼霊だ)
鬼霊は
ぐっと手に力を込める。だが今は
(いま花渡しをできなくとも、鬼霊の
紅姸はじっと門の方を睨みつける。鬼霊が姿を見せた。黒の
鬼霊の左胸に
鬼霊は紅姸に気づかず、こちらに向かってくる気配はない。
そうしているうちに鬼霊の姿は塀に
見えなくなったからと鬼霊が浄土に渡ることはない。
門扉から身を乗り出して消えた先をじいと眺める。すると、背後から声がかけられた。
「そこで何をしている」
「先ほど鬼霊を見ました」
「鬼霊が? 気配はしないが」
「消えてしまいました」
「ならば
「いえ……」
そう答えながらも引っかかることがあった。
(胸の紅芍薬は水に
鬼霊が咲かす紅花の
(鬼霊のことは後にしよう。まずは
深追いする時間はない。紅姸は秀礼と共に光乾殿へと向かった。
光乾殿は帝が住まう殿である。
だが、空気を重たく感じるのは衛士の
(秀礼様が言っていた『鬼霊か
他者に強い
秀礼は鬼霊と
(かすかに血のにおいがする。呪詛だけじゃない……どこかに鬼霊がいる)
鬼霊独特のにおいがした。鬼霊がいる場所から強く放たれるので、
あたりを見回すが鬼霊は見当たらない。視界にあるのは光乾殿の庭に植えられている
その時、前を歩いていた秀礼が足を止めた。紅姸も木香茨から慌てて視線を
「
「どうも。秀礼様も変わらず元気なようで。それでこの
韓辰と呼ばれた宦官は、秀礼を相手にしても
秀礼と数言交わした後、韓辰の視線は紅姸に向けられた。
「
「ああ。
これに韓辰は、
「残念ながら、本日はまだお目覚めになっていませんよ。昨晩はひどく
「では謁見は厳しいか」
韓辰は
「しかし……秀礼様が仙術師の娘と言っていたから、期待したんですがね……
痩せ細っているなどは確かにその通りだが、初対面の者に
「声が大きいぞ。あと、その発言は彼女に失礼だ」
「おっと。これはすみません」
秀礼に指摘されて韓辰は謝ったが、それは紅姸に向けてではなく、秀礼に対してのように感じられた。秀礼は声量を絞り、韓辰に言う。
「彼女の力は本物だ。私が確認している」
「今度こそうまくいくといいんですがね。実は
その物言いから、秀礼が今までに仙術師を連れてきたことは本当だと判断した。おそらくは韓辰も仙術師を快く思っていないのだろう。
「とにかく、お会いできないのなら仕方ない。我々は
「わかっていますよ。こっちのことは任せてください」
韓辰は紅姸を良く思っていないが、秀礼には
帝への謁見は成らなかった。病の原因を
紅姸と異なり、秀礼はこれを想定していたらしい。そのことに気づいたのは冬花宮に戻ってからだ。彼は
「紅姸。
帝には会えずとも得られるものがあるかもしれないと、秀礼は考えているのだろう。その意図を
「光乾殿の気はよくありません。
「私もそう思う。あの場所に長くいれば
「鬼霊の才、つまり鬼霊や呪詛といったものに
「私だけが目眩を起こしたというのは鬼霊の才を持っていたためか」
「その通りです。秀礼様の身のうちにある鬼霊の才が、呪詛の気配を感じ取ってしまったのでしょう。わたしも、長くあの場所にいれば同じようになっていたかもしれません」
「鬼霊の才は、私よりもお前のほうが
鬼霊や呪詛を感じ取ることができるのだから、秀礼も鬼霊の才を持っている。だが、同じ鬼霊の才でも優れているのは紅姸だ。紅姸は、宮女の鬼霊が
「光乾殿の話に戻りましょう。呪詛が関係していると思いますが、それだけと断定はできません。鬼霊のにおいが混じっていました」
「なんだと。呪詛か鬼霊のどちらか、ではないのか」
「呪詛ならば鬼霊が放つにおいはしません。それに鬼霊だけであれば空気があれほど淀むこともないでしょう」
息苦しいほどの
「帝の身を苦しめるのは、鬼霊と呪詛の二つと考えます」
後宮の花詠み仙女 白百合は秘めたる恋慕を告げる 松藤かるり/角川ビーンズ文庫 @beans
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