二章 いつわりの妃①
こうして紅姸は
「華妃様、おはようございます」
冬花宮にて三度目の朝を
「それでは支度させていただきますね」
妃の支度をするのは宮女の務めと清益からも聞いている。しかしどうにも抵抗があり、今日まで連日「一人で
他者がいると
冬花宮の宮女は
「あら。右手の
藍玉が言った。花
「これは痣ですから……消えることはありません」
「そうだったのですね。失礼いたしました」
花痣の意味を知らなくても、痣を持つ娘は
「次は髪の支度をいたします。もちろん、わたくしが行いますので」
藍玉は竹を割ったような性格をし、意を通す時は妃である紅姸を相手にしても
紅姸は、冬花宮に来るまで、他人に髪を
その胸中を、藍玉は知らない。彼女は楽しそうに髪を梳いている。
「華妃様の髪は
そこで紅姸は黙りこんだ。紅の髪は華仙一族の印である。この髪色は珍しく、仙術師
姉の
そのことを思い出していると、物音がした。これは藍玉ではない。紅姸は怯えたように
「……ひっ」
奥に、冬花宮の宮女がいた。薬湯を運ぼうとしていたらしいが、
「あ……申し訳ありま──」
「華妃様」
藍玉に
宮女はおそるおそるといった様子で、紅姸の
宮女の振る舞いから、
「……皆は、わたしのことが
「はじめのうちは仕方ありません。特に華妃様は物静かで落ち着いた方ですから、近寄りがたく思ってしまうのでしょう。それに……」
物静かで落ち着いた、と
「
「……
紅姸の動きはぴたりと止まった。紅姸が仙術師だと知るのは数名だ。
「ああ、誤解なさらず。華妃様のせいではありません。以前に宮城に来た方が仙術師という噂があったのです。そのため、また仙術師を呼んだと
「以前にも仙術師が来ていたのですか?」
藍玉は
「これまで、何人もの仙術師を秀礼様が連れてきました。ですが、華妃様もご存じの通り、この国の者は仙術を良く思っていません。それは宮女たちも同じ。その者は身分を伏せていましたが、
「それで、その仙術師はどこに?」
「
紅姸は息を
「華妃様の入宮に秀礼様が噛んでいることから、また仙術師ではないかと噂する者がいるのです。仙術を用いる、行方知れずとなる──そのような不安から距離を取りたがるのでしょう。このことは、わたくしから宮女たちに注意しておきます」
「大丈夫です。皆が恐れる気持ちもわかるので、そのままにしてください」
理由を知れば、宮女の態度も
(皆にとって仙術は不気味なもの……これも仕方の無いこと)
「華妃様はお優しいのですね。宮女たちの心に寄り
「藍玉も、わたしが怖かったら無理しないでください。支度は一人で出来ます」
「わたくしは華妃様のことを怖いなどと思っていません。ですからお手伝いをさせてくださいませ。ああ、それと振る舞いも。自信を持って、堂々となさってください」
「堂々と、ですか……
「華妃様。妃らしい言葉遣いを心がけましょうね。敬語は不要です」
「……わ、わかった」
藍玉は再び髪を梳きはじめた。さらさらと、髪の
紅姸はそっと目を
(わたしは帝をお救いするためここにいるのだから、宮城を調べよう)
そのためには後宮の妃や帝の容態など現在の
● ● ●
正妃である
紅姸は仙術師の身分を隠すためにも、妃として振る舞わなければならなかった。本来の妃としての習わしを行う。帝への
(
華妃に会うべく、妃や
その様子を藍玉が見ていた。くすくすと笑いながら花茶を置く。
藍玉特製の花茶は、紅姸の
「甄妃様にお会いして
問われ、紅姸は先ほどまで来ていたのが甄妃だと思い出した。
「……とても良い方……だと思う」
紅姸が
「甄妃様はお心優しく、
「確かに、
「それはわたくしも、甄妃様に同感です。華妃様の痩身は問題ですよ」
甄妃は紅姸の入宮に
「甄妃様は秀礼様の後見人でございます」
「後見人? てっきり、秀礼様のお母様なのかと……」
「いえ。甄妃様は子を
続いて藍玉が名をあげたのは永貴妃だ。こちらも今日挨拶に来ていた。
「永貴妃様は、現在の後宮を取り仕切っておられます。厳格な方でいらっしゃいますから、慣れぬうちは疲れると皆よく言っています。華妃様も気を張っていたのでは」
少々迷ったが、紅姸は
「第二皇子の
規定の
「残る妃は楊妃様ですが、こちらは明日以降ですね。
「では、今日はこれで終わり?」
問うと、藍玉は「まさか!」と笑った。
「何を
この身にのし
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