吉報

「あぁ! もう! ぜっんぜん電話でないんだけど!」

 プリムラに電話をかけまくっているが一向に出る気配がない。

 青髪の女性、システィさんが言った通り、プリムラたちのところにも敵が現れているのかもしれない。

 僕の目の前では白撫しろながパワードスーツで飛行しながら、システィさんと戦っていた。

 そして、僕と同様にハートの魔王候補であるリリアナは静観を決めていた。

 けど、いつ僕の方に来るか分からないから警戒はしないといけない。

 って、警戒していたところで何かできるのかと聞かれたら困るけど。

「頼むよ、白撫しろな。負けないで。負けたら僕が大変なことになっちゃうんだから」

 僕の祈りが届いたのか、システィの動きが急に止まった。

 そこへ白撫しろながすかさず、右腕のブレードで斬りかかる。

「よし!」

 勝った。そう思ったが、


「ちょっとタイムです」


 システィさんは右手を突き出し、タイムを宣言した。

 なんで?

「少しだけじゃぞ」

 そして、白撫しろなはそれを受け入れた。

 なんで?


「それは本当ですか!?」

 指をこめかみに当て、誰もいない方を向いて叫ぶ。

 恐らく念話で誰かと話しているのだろう。

「どしたの~~? トラブル?」

 面白そうと思ったのか、リリアナは空中をふらふらと飛びながら、システィに近づく。

「どうやら、エリザベートがやられてようです」

「ありゃ? あのおばさんそんなに強かったの? 魔法使えないって言ってたじゃん」

「はい、ですが、メイに敗れたわけではないとのことです。エリザベートを破ったのはその場にいたもう一人の青年、神代梗夜。まさか、彼がエリザベートを倒せるだけの腕とは思いもしませんでした」

「大丈夫そう?」

「いいえ、作戦が大きく狂います。作戦ではプリムラの強さの秘訣であるメイを倒し弱体、その後、うちの最大戦力であるクリームヒルトを弱体化したプリムラに当てる。こうすることでクローバー最大の敵を排除する手はずでした。しかし、エリザベートは負け、クリームヒルトには連絡がつきません。このままでは……」


 なんか、敵の補佐役の人、大変そ~。

 と、そんな人ごとのようなこと思っていた。いや、実際、他人事なんだけどさ。


「なんでしょう? その声はアイズですか。今、取り込み中なのですが」

 困り果てているシスティの元にまたもや何かの通話が入ったようだ。

「はぁ!? 風真燕時!? 元勇者パーティーのメンバーと接敵した!? どういうことですか!」


 なんか風真さんの名前が聞こえた。あの人も巻き込まれているのか。


「エリザベートの敗北、クリームヒルトとの連絡切断、風真燕時の参戦、そして久井目白撫。どうして、こうもイレギュラーばかり起こるのでしょうか。……いえ、これはクローバーを侮っていた過失でしょう」


 思考をまとめたシスティはリリアナに進言する。


「リリアナ様、申し訳ございません。私のミスです。ここは一旦引きましょう」

 なんかわかんないけど、帰ってくれる? やったぜ。

 話していた内容は分からないけど、梗夜君と風真さんが何かしてくれたみたいだ。後でお礼言わなきゃ。

「問題ないよ。このまま、進めて」

「ですが……」

「依然として、相手の最大戦力はプリムラなんでしょ? だったら、問題ないじゃん。あれ、私の劣化品だよ」

「分かりました。では、そのように」

 あれ? 帰らないの? マジで?

「どうやら、タイムは終わりのようじゃな」

「ええ、再開させていただきます」


 うわぁ。また白撫とシスティが戦い始めたんだけど。

 これいつ終わるのさ。


「暇なら私の相手してよ」

「い゛!」


 いつの間にか真後ろにリリアナが立っていた。

「早く闇の魔力を使ってよ。じゃないと――」

「っ!」

 リリアナのプレッシャーが一気に跳ね上がる。それと同時に左目から黒い魔力が可視化出来るほど溢れ出る。



「――死んじゃうよ?」




*****************************




 アイズがシスティに風真燕時のことを報告した直後、唯野家の庭では――。



「上司への遺言はもういいのかい?」

「はぁ……はぁ……」

 アイズは全身から血を流し、膝をついていた。

 そして、彼女の左腕は燕時の足元に転がっている。

「……化け物がっ!」



――すでに決着がついていた。

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