やっぱり同棲生活を始めてもラブコメ展開になるとは限らない
「ふぁ~~~、いつの間にか寝てた」
布団に籠りながらスマホを確認すると、時刻は既に12時を回っていた。
いつもならプリムラが起こしに来るが、今日はゼラに気を使って起こしに来なかったのだろう。
ということはこれから毎日、ゼラと一緒に寝れば起こされずに昼まで寝れるのでは? 後で本人に打診してみるか。
「すぴーすぴー」
ゼラの寝息が聞こえる。
どうやら彼女はまだ眠っているようだ。
このまま二度寝してもいいけど、夕方に起きたらせっかくの休日を無駄にしてしまった喪失感に苛まれるので、仕方なく起き上がる。
「一応、起こしてあげるか」
不登校に休日と言う概念はないが、せっかくなのでゼラに一声かけておこうと、彼女の寝ているソファーへ向かう。
「おーい、ゼラ。そろそろ起き…………なっ!」
そこで僕は言葉を失った。
僕が動揺した理由は服装が乱れて下着が見えていることでも、口元からなまめかしく垂れている涎でもない。
「今すぐ起きて。ねぇ! 起きて! 寝るな!」
僕はゼラの肩を掴んで思いっきり揺さぶった。
「ふぇ……?」
ゼラはゆっくりと目を開け僕の方を見る。
「あれ? レン? なんでうちの部屋にいるの? 夜這い?」
「寝ぼけてないで、目を覚まして! 状況分かってる!?」
「んも~、なに~?」
ゼラは眠い目を擦った後、視線を下げた。
「あ」
そこで自分が今どんな格好をしているのかを把握した。
「レンのえっち」
「ごめん、今そう言うのいいから」
「む、ラブコメ展開はお嫌いなの?」
「違う。もっと他に目を向ける場所があるでしょ」
「男子高校生が女子のおっぱい以外にどこを見るって言うの?」
「うなじとか脇とか腰とかお尻とか太ももとかいっぱいあるでしょ……ってそうじゃない。話を逸らそうとしないで」
「別にそんなつもりはないんだけどなぁ。それで何?」
「何? じゃない。ソファーを見ろソファーを。ゼラが寝ていたソファーだ」
「ソファー? ……うわ! ズタボロじゃん! なにこれ? うちが寝てる間に何があったの?」
そう、ゼラが寝ていたソファーはナイフでめった刺しにしたかのようにズタズタに引き裂かれていた。
「とぼけないで。原因は間違いなくこれだから」
そう言って、僕はゼラの頭についている2本の角を掴んだ。
「イタイイタイ。引っ張らないでイタイ」
「君が寝返りをうつたびにこの角がソファーを引っ掻いて、こんなんになったの! 分かる? まったく、こんな凶器丸出しでよく平気で生活してられるね。うっかり他の人にあたったら大けがでしょ。カバーみたいなのないの?」
ゼラの角を触った感じ、鉄ぐらいの硬さはあった。
角の側面は刃物のように鋭くなっており、あそこで手を滑らせれば間違いなく斬れる。さらにその先端は鋭利になっており、錐のようだった。いや、違うな。錐より穴は空けやすそうだ。
現にソファーはその角の先端で穴だらけにもなってるし。
「カバー? オシャレ好きな女の子とかは使ってるね。ヘアアクセサリーとして」
「いや、そんなオシャレ感覚でやられても。こっちは身の危険を感じてるんだけど」
「でも、普通の魔族だったら角が当たったくらいじゃ何ともないよ?」
「ここ地球。人間の方が多い」
「でも、魔力がある程度高ければ、肉体強度上がるでしょ? だからへーきへーき」
それはつまり怪我するのは魔力が低い弱者が悪いってことでおk?
「てか、人間うんぬんは一旦置いておいて。普段、寝てる時、布団どうしてんのさ。毎日ボロボロになって買い換えてんの?」
「うんん、買い替える必要ないよ? だって、破れないもん」
「は? いやいや、僕のソファーをこんなにしておいて何言ってるのさ」
「それはうちに耐えられないソファーが悪い」
「え、なに? 喧嘩売ってる?」
「別にそんなつもりはないよ。ただ、このソファーの生地じゃダメってこと。うちみたいな角持ちはそれ用の布を使ったものしか使えないんだよ。布団もだけど、枕や服だって全部、それにしないと」
「布? じゃあ、今ゼラが着ている服も普通の布と違うのか?」
「違うよ。これはグレートモスが吐く糸を織り込んだ世界最強度の布だよ」
「グレートモス? なんだそれ? 虫?」
「魔界に住む最大級の魔界虫だよ。今度食べてみる? 布もいいけど、食べる方はもっといいよ」
「遠慮しときます。食虫に興味はないから……」
それにしても予期せぬところで、魔族との共同生活の難題が出てきたな。
あの布を使ったものでなければ、ゼラの角に当たった瞬間、破けてしまう可能性があるし、それだけでなくても、やっぱり角でつつかれたら、魔力による肉体強化関係なく痛いだろうし。
今後も面倒なことが増えていきそうだ……。
ゼラが来てまだ24時間も経っていないがこの先が思いやられる。
そんな不確定な未来に僕はため息を漏らすのだった。
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