勇者パーティを追放された四十路のおじさん、魔王軍の幹部にスカウトされる。

「ふう~、逃走成功」

 文化祭の話で盛り上がっている最中に僕は学校を抜け出してきた。

 あんなキラキラピカピカのイベントに参加できるわけがない。聖属性オーラによって存在をかき消されてしまう。

「とりあえず、家に帰ってゲームでも……」

「た、たすけ、て……」

「………………………」

 じんべい羽織って下駄履いている無精ひげを生やしたおじさんが道のど真ん中で倒れている。

「う、うっぷ……気持ち、悪い……」

 うん、関わらないでおこう。

 平日の昼間に倒れている酔っぱらいのおじさんとかろくなことにならない。

 僕はそのおじさんを避けて家に向かおうとした。

「待ってくれ、そこの少年」

 けど、制服を掴まれてしまった。

「水、水をくれ……」

「嫌です」

「最近の子、冷たくない!?」

「こんな怪しい人に関わりたい人自体そもそもいないと思いますけど」

「かっかっかっ! 確かにそうだ! ……うっぷ、やばい……笑ったら吐きそう」

「ちょ! 今ここで吐かないでください!」

「水、水……」

「わ、分かりましたから! 公園まで! 公園まで連れてきますから我慢してください!」

 このまま吐かれたら僕の制服が吐しゃ物まみれになってしまうため、仕方なくおじさんを近くの公園まで連れていった。

「ごくごくごく、ぷはー! 水、うまー!」

「それはようござんした」

「おじさん的には、水道水じゃなくていろ〇すがよかったんだけど」

「介護されてる身でなんて図々しいんですか!」

「かっかっかっ! 冗談冗談」

 なんだろう。この人、話し方が嘘くさくて何一つ信用できないんだけど。

「いや~、朝からずっと助け求めてたのに誰も反応してくれなくてさ~。おじさん、幽霊になっちゃったのかと思ったよ~」

「僕と同じで関わりたくなかっただけですよ。現実を見ましょう?」

「おかげで吐き気は収まってきたし、追い酒だー!」

「その酒瓶、どっから出したんですか!?」

「がばがばがばばばばばばば、アルコール最高!」

「文字通り浴びるように飲んでる!!」

「あ、少年も飲む?」

「未成年です!」

「大丈夫~大丈夫~。アルコールって医療でも使われてるじゃん? つまり、体にいいんだよ。健康飲料だよ~」

「さっき吐きそうになってたのはなんでだと思いますか?」

「え~~~~~? 何の話?」

「記憶障害起こってますけど?」

「細かいこと気にしな~い。ほ~ら」

「あ、もう。酒瓶こっちに近づけないでください。アルコールくさ……あれ? なんか甘くていい匂い」

「かっかっかっ! 酒瓶の見た目に騙されたな~。中身はカシオレだぞ~」

「アルコール度数10%以下!」

「度数強いの飲めないんだよねぇ~。酒は好きなんだけど」

「その見た目で酒に弱いのはなんですか? おじさんなのにギャップ萌え狙ってるんですか? キモいですね」

「か~~~! ゴミを見る目たまらないねぇ」

「僕、男なんですけど。興奮しないでもらっていいですか?」

「だって、君、可愛い顔してるでしょ? だから、つい?」

「警察呼びますね」

「あー待った待った。ごめんごめん。許して」

「警察呼ばれたくないんだったら、周りに迷惑かけないでくださいね。じゃあ、僕はもう行きますね」

「え~~~~。待ってよ~。もう少しお話してこ。少年の名前は?」

「……………」

「うっは~、警戒心たっか、その目! 別に悪さしようとかそう言うのないからさ。ちょっと助けてもらったお礼したくてさ。だから、何がお礼になるかなって、少年のこと知りたいんだ」

「お礼って……。そんなお金も家もなさそうな人に何を望めと?」

「いやいや、お金はあるよ? 家はないけど」

「どういうこと?」

「おじさん、動体視力がいいからね。スロットで生計を立てている。少年の求めるものなら大体買えるよ? ゲームとか」

「いや、家買えば? アパートでもいいけど。住所不定は日本じゃ生きづらいでしょ」

「実は身元保証人がいなくてねぇ、どこも物件貸してくれるところがないんだよ。本業の方もクビになっちゃったばっかだし」

「日本の不動産屋さんは優秀だ」

「あとはキャバクラとかプーソーとか行ってたりしてたら、家賃払うかねないしね~」

 この人ヤバすぎない?

 酒、金、女。ダメ人間の役満じゃん。

「じゃあ、もうお礼とかいいから、僕はもう帰りますね」

「あー待って待って、少年。いや、――――――唯野憐太郎ただのれんたろう君」

「っ! なんで僕の名前を!」

「さっき抱き着いたときにちょっとね。学生証を見させてもらった」

「あの一瞬で?」

「ああ、十分だ。それさえあれば。どんな人間の個人情報も抜き取れる」

 そう言って甚平をふわっと広げると、バタバタバタバタバタと何かが大量に地面に落ちた。

「これって……身分証……?」

 運転免許、健康保険所、学生書、社員証などがおじさんの足元に散らばっていた。

「今日、おじさんが助けを求めたのに無視した人たちの個人情報、いる?」

「いりませんって! というか、なにしてるんですか!? 窃盗は犯罪ですよ!」

「え~~~? これは~彼らが落としてったのを拾ってあげただけだよ? それとも僕が盗んだところでも見たのかい?」

「いや、見てないですけど……」

「でしょ~? おじさんこれから警察に届けようと思ってるんだ。やっさしー」

「あの、それはもういいですから、僕を呼び止めたのは何なんですか?」

 こっちの個人情報は抜かれている。

 それはつまり、無視したらどうなっても知らないよ? という脅しだ。

 ここは穏便にいこう。

「あ、そうそう。さっきも言ったけど、おじさん、家ないんだよね~。だから、今晩泊めて」

「いや~、それはちょっと……」

 一応うちには女の子と呼べなくもない人がいるわけで、こんな人をうちで泊めるのには抵抗がある。

 後は単純に居候たちと揉めそう。

 おじさん、胡散臭いから家に泊めることによって、のちのち僕に何かしらの問題ごとに発展しそう。

 それからそれから、酔っぱらいの介護とかやだし、この人とこれ以上関わりを持ちたくない。

 と、色々と考えていた時。


「こんなところにいたのか、憐太郎れんたろう


 プリムラ(ノーマルモード)が公園にやってきた。

 恐らく、僕を探しに来たのだろう。

「お! カワイ子ちゃんはっけ~ん! なになに? 少年の彼女?」

「違います。ただの居候です。」

「と言うことは、この子とひとつ屋根の下、お泊りが出来るってこと!? 絶対行きます!」

 どうだろう。僕の予想だと、おじさんが返り討ちに合う未来しか見えない。

「ふむ、これはどういう状況だ?」

「あー、これはね。かくかくしかじかで」

「別にいいだろう。うちの幹部になってくれるのなら」

「…………………はあ!?!?!?!?!??!?!?!」

 え、待って。プリムラさんは今なんておっしゃいました? 幹部? 誰が? このおじさんが?

「ちょちょちょちょちょちょちょちょちょちょちょちょ! いいの! ………これを!?」

「ちょっとちょっと、おじさんを差し置いて何の話だい? 幹部がとか」

「しらばっくれるな。お前ほどの男が気が付かないはずはないだろう」

「あ、バレてーら。魔王候補の幹部って話だろ? うん、いいよ。でもその代わり、一晩じゃなくて永住させて下さい!」

「ああ、もちろん。現に今の幹部たちは全員憐太郎れんたろうの家で暮らしている」

「いや~、やっとおじさんもおうちを持つようになったか」



「待って!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」



「なんだ、急に大きな声を出して」

「プリムラ! いくら人が集まらないからって、こんなダメ人間拾ってくることないでしょ! 数合わせでももっとまともな人とかにしなって」

「なるほど、憐太郎れんたろうは彼のことを知らないのか」

「え? いや、あんな知り合いいないし、いたとしても記憶から消してる」


「彼の名は、風真燕時かざまえんじ。元勇者軍諜報部隊総隊長にして、勇者軍の幹部のみ入ることを許された勇者パーティのメンバーだった男だ」


「なんかすごそうな人ですけど、……敵じゃん!?!?!」

「いや、彼はつい最近、勇者パーティを追放されている。だから、勇者とは何の関係もないフリーの人材だ。スカウトしても問題あるまい」

「つ、追放されたんですか……。それってもしかして、追放系ラノベみたいなこと? ホントは実力あるけど、勇者軍がそれに気づかず首にして、でもその後勇者軍ではてんわやんわになったみたいな。そして、足手まといだと言われて勇者パーティを追われたとか?」

「ああ、違う違う」

「?」



「彼は勇者軍の女性にセクハラをしたとして、追放されたのだ」



「追放理由、真っ当だった!!!!!!!!」

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