大好きⅠ
セレスティアナイト家。
それは魔女の王族であり、代々スペードのQに抜擢される家系である。
お母様も例外ではなく、現魔王のQだ。
だから、わたくしにも同様の期待がされていた。
セレスティアナイト家に生まれた者はそれだけで高い魔力を有していた。その為、魔王候補のQになるには苦労しない。
そう、セレスティアナイト家に生まれれば、努力する必要すらない。エリートの家系だから。
でも、わたくしはエリートではなかった。
過去に2度そう思い知らされたことがあった。
1度目は母親に。
「ダメね。この程度では。【黒薔薇の園】の入学はしばらく見送りよ。うちで最低限度の教育を施してから行きなさい。今のあなたでは学園上位どころか平均値にすら届かないわ」
そう言われたのが、わたくしが8歳の時。
【黒薔薇の園】の入学試験に年齢の縛りはない。5歳の少女も受けられれば80を過ぎたお年寄りでも受けることが出来る。
わたくしが入学する予定だったのは12歳の時、けど、お母様がそれを許してくれなかった。
結局、わたくしが【黒薔薇の園】に入学したのは20歳の時。それまでの間は実家で厳しい教育を受けていた。
それはもう魔法が嫌になるほどの過酷な教育だった。
遊ぶことも友達を作ることも許されず、ひたすらに家に籠って勉強する日々……。
一般的に入学できるレベルの生徒は15歳以上、才能によっては多少前後する。
その一般的よりもさらに5年遅くわたくしは入学されられることになった。
5年。
それはわたくしの足りなかったものを埋める期間。他の人たちよりもそれだけ足りないものがあったということ。
メイ・ブーゲンビリア・セレスティアナイトはエリートではなく、凡人だった。
でも、わたくしはそれを努力で誤魔化すことにした。
勉強して勉強して努力して努力して鍛えて鍛えて暗記して暗記して経験を積んで経験を積んで積み重ねて積み重ねて積み上げて積み上げて、わたくしを偽る仮面にする。
そうやって手に入れたものがある。
「すごいですわ! メイお姉さま!」
「今期の成績も学園トップじゃないですか!」
「これぐらい当然ですわ」
「「流石です! メイお姉さま!」」
そう、これぐらい当然。
わたくしは入学してから約8年間、常に学園トップの成績を修めている。
負けそうになったことは何度もある。けど、そのたびに努力をして何とか今のポジションをキープした。
そして、今から2年前。彼女が入学してきた。
捨て子である名無しが入学してきたという噂は一気に学園中へ広がった。
その時、わたくしは彼女に少しの興味も抱かなかった。
だって、わたくしにはやらなければならないことがあったから。
家の義務や周りの期待に応えなければならないという責任感。それだけがわたくしを動かしていた。
お母様はよく言っていた、歴史に名を遺す偉大な人になりなさいと。
その為に、魔法の学問で新たな魔法の開発をしなさいと。
魔法の開発は容易には出来ない。数年で一つ出来ればいい方だ。それをまだ学生のわたくしにはほぼ無理に近い。それに、わたくしには新しいものを作るという才能はないのだから。
それでも、その期待に応える為、日々研究の毎日だった。
そして、3か月後、その日が訪れた。
「……………………………………え?」
プリムラが入学してきてから初めての中間試験があった。
今目の前にはその成績表が張り出されていた。
わたくしの順位は…………。
「2位……」
それが人生で初めての敗北だった。
母親を除き、同年代や大人にだって負けることがなかったわたくしが初めて敗北を喫した。
エリートでないと思い知らされたのはこれで2度目だった。
それから3か月後、彼女が発表した論文が世界の注目を浴びた。
内容は『付与魔法の拡張性』に関するものだった。
この論文に書いてあることが実現可能であれば、彼女は一度に数十個の魔法を生み出したことになる。
それは歴史的偉業。まず間違いなく、歴史に彼女の名は刻まれるだろう。
ああ、羨ましい。
ああ、妬ましい。
入学してたった3か月。まだあってもいないその人に対し、わたくしは悪意を抱いていた。
いつか見返してやろうと思って、いつものように努力した。
けど、さらに半年後、年末試験で、
わたくしはまたも2位だった……。
「どうしてですの!!!!!!!!!!!!!!! どうして! どうして…どう、して、よ……。あ、えっぐ、どうじで……どうじでなの……」
心が折れてしまった、だからわたくしはその場に泣き崩れた。
「ん? なんだ、この学園に泣き虫がいたとはな」
「あ、あなたは……」
見間違えるはずもない。
あの長い銀髪、整った顔立ち、聞いていた通りの見た目だ。
だからつまり、この人は……。
「プリムラ」
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