大好きⅡ
「ななななななななな、なんであなたがここにいるんですの!?」
わたくしが今いる場所は学園にある
学生では成績上位10名のみが入ることを許された聖域。
その為ほとんど利用する人がおらず、ほぼわたくしの個室のようになっていた。
だから、人目を気にせず泣いていたのに……。
「なぜ? おかしなことを聞くな。ここは知識を得るための場所だろう? 他に何か――ああ、誰かにバレたら困るようなことをするのにも適しているな」
「わたくしがやましいことをしていたみたいな言い方はよしてくださいまし!」
「分かっている。泣いていたのだろう?」
「泣いてませんわ!」
「しかし、ここは託児所も兼ねていたのか」
「人を子供扱いしないでくださいな! わたくしは今年で29ですわ!」
「29――。お前、メイ・R・ブーゲンビリア・セレスティアナイトか?」
「そう、ですけど。なんで分かったんですの?」
「ここに入れる者は限られているからな、年を聞いて当てはまるのがお前だった」
「あなた、わたくしを認知していましたの?」
「当り前だろう。ちょうど、お前を探していたところだからな」
「わたくしを……? 一体何の用ですの?」
「『イヴリスの第三空論』を知っているか?」
「バカにしないでくださいまし。魔法学者イヴリスが晩年に残したとされる実証のない3つ空想論ですわよね。どれも空想の域を出ないと笑われた理論。わたくしは嫌いではないですけど」
「流石だ。その知識を得に来た。ここにはそれを書き記した書物はあるか?」
「イヴリスの空想論をまとめた本であれば、『414D78524E』にあるはずよ」
「ん? 本の場所を覚えているのか?」
「当り前ですわ。ここにある書物は全て読みつくしたもの。どこにあるかまで覚えてしまったわ」
「――全てか。それはこの最下層にある魔導書を全てか?」
「何を言っていますの?
この
「へぇ~」
それを聞いて彼女は感嘆の声を漏らした。
「その本で調べるのは止めた。お前に教えてもらおう」
「な! なぜ、わたくしがそのようなことをしなくてはいけないんですの!?」
「? なんだ、ダメなのか? お前はよく人に勉強を教えているだろう? あれと同じ感じでいいんだが」
「あなた本気で言っていますの!?!?!?!」
「急に大声出してどうした?」
「どうしたもこうしたもありませんわ! あなた、わたくしの成績を知っていて?」
「学園総合2位だろう?」
「ええ、そうですわ! 2位ですのよ! あなたより下なの! そんなわたくしにあなたが一体何を請うというの!? というか、こんなあからさまな挑発は一体なんなのですの? 嫌味ですか!? 嫌味を言いに来たんですか!? 自分の方が成績がいいと、自分の方が若いとぴちぴちだとそう言いたいんですの!?」
「すまん、ヒートアップしすぎてて途中から何を言いたいのかが分からないんだが」
「だから、なんで成績の悪いわたくしに教えを請おうとするんですの!?」
「そうか、引っかかっていたのはそこか」
怒りでテンションがマックス状態のわたくしに対し、彼女は臆することなく、何事もなかったかのように、鞄から1枚の紙を取り出し、わたくし見せびらかせてきた。
「煽るのがお好きなようね!!!!!!!!!!!!!!」
彼女が取り出した紙は成績表。そして、そこには期末の成績順位が記載されていた。
私は1位、お前は2位と言わんばかりの当てつけ。
こんなの怒らない方がおかしい。
「よく見ろ。ここだ」
プリムラが指した場所は総合順位ではなく、学術試験の順位の方だった。
「総合順位は私が1位、他の分野に関してもほとんど私が1位だった。けど、学術試験単独の成績だけで言えば……」
「わたくしが……1位……?」
「そうだ。だから、私より頭のいいお前を探していた」
私が……1位……。
いつも総合順位にしか興味なかったから見向きもしなかったけど、よくよく見返すと、中間試験の時もわたくしは学術試験に限って言えば1位だった。
「で、でも、こんな成績……、あなたに学術で勝ったって……総合1位じゃなきゃ……」
「さっきから疑問なのだが、なぜ、お前はそんなに追い込まれているんだ? 何が不満なんだ?」
「決まっているでしょう! 歴史に名を遺す偉人になる為ですわ!」
「私みたいのか?」
「マウントやめなさいな! ちょっといい論文発表したからって! わたくしだっていつか新しい魔法を開発して見せるんですわ!」
「なんだ、魔法開発に興味があるのか」
「興味なんてありませんわ。魔法なんて大っ嫌いですもの」
「ますます意味が分からない。何をしていんだ?」
「魔法は嫌い。お母様に無理矢理教え込まれて、わたくしの青春時代を潰したんですもの。でも、それを使って名を残せとお母様は言った。だから、わたくしは新しい魔法を作って歴史に名を刻むんですわ」
「そうか、それは随分とまぁ――
傲慢な考え方だな」
「別にそんなんじゃ……! ……わたくしは!」
「確かに0から1を生み出せるものはすごいだろう。尊敬されるだろう。歴史に名が残るだろう。でも、
お前は400万を知っている」
「知っているからって、それに何の意味がありますの」
「歴史や学問は1だけじゃダメなんだ。その1が積み重なって歴史となり学問となる。その為に必要なのは覚えてもらうこと。もし、この世界の誰にも忘れ去られてしまった理論があるとすれば、それは0に戻る。だから、歴史を紡ぎ語る者が必要なんだ」
「それはつまり、わたくしには魔法の開発は無理だから諦めろってことですの?」
「そうじゃない。歴史に名を残せずとも、歴史を作ってきた人たちがいると言いたいんだ」
「例えそうだったとしても、それはわたくしじゃなくてもいいはずですわ! 覚えるだけなら誰にでもできるはずですわ!」
「この学園で『イヴリスの第三空論』を知っていたのは、お前だけだ」
「それはそうでしょうね。それは授業では習わないですもの。知っている生徒の方がいる方が驚きですわ」
「いいや、学園の教師も含めて誰も知らなかった」
「!」
「お前は覚えるだけなら誰にでも出来ると言ったが、実際にこの学園で覚えていたのはお前だけだ。誰にでも出来ることじゃない」
「それ……は……」
「それに知識とは一朝一夕で身につくものではない。400万冊の暗記など、例えそれが出来る才能があったとしても、全てを読み切れる者などいないだろう。1日に何千冊と読まなければならないからな。だから、それはお前が絶えず努力してきた証だろう。どうせ後世に残すなら私はお前のような奴に語り継いでほしいと、そう思っている」
「あ…………」
それは初めてのことだった。
結果を出すのが当たり前。そして、それは親のおかげ、才能があったから、そう言われてきた。
でも、この人は今日初めて会ったにもかかわらず、わたくしの仮面を見抜き、その上で認めてくれた。
わたくしは親の期待でもなく、見知らぬ誰かの期待でもなく、
「それでもまだ自分の存在価値を認められないというなら、私と一緒に研究でもするか?」
わたくしはこの人の期待に応えたい。
だから、差し伸べられたその手を取ったのだ。
******************************
「メイ! あんた、まさか、強引に四重魔方陣を解く気か!」
「あの魔力放出量からしてそうでしょうね。けれど、彼女の魔力量では解除は不可能。このままでは……」
「死ぬだろう。運よく抜け出せたとしても、魔方陣で拘束している手足は失うだろうな」
そうモブ魔女たちの言う通り、このまま魔力を放出し続けたらわたくしの命は持たないかもしれない。
「それがどうしたというの! 手足くらいなくなったって構わないですわ! それに臆するような覚悟でお母様に反抗していませんわ!」
「それどころじゃねぇぞ! 死ぬかもしれねぇっつってんだぞ!」
「わたくしの野望があなた方ごときに阻まれるというのなら、それも構いませんわ!」
「覚悟ガンギマリ野郎が! どこの少年漫画主人公だよ!」
魔女Aが距離を詰めてくる。
「こっちは死なれたら困るんだよ! その前に意識を奪い取る!」
彼女は大きく振りかぶった拳をわたくしの顔めがけて振るおうとした。
が、
「うっ!」
横から割って入った来た人影に蹴り飛ばされ、民家へと突っ込んでいった。
「あなた……どう、して……」
今日1日ずっと見てきた人。けれど、その雰囲気は今までのそれとは違っていた。
さらに、その人は左肩から可視化できるほどの黒い魔力を放出していた。
「何故、わたくしを庇ったのですか!?
彼の唐突な乱入にわたくしはさきほどまで吐き出していた魔力を止めていた。
「野望ってのは、つまりやりたいことがあるってことだろ?」
彼は振り返ってわたくしの瞳を真っすぐに見る。
「やりたいことがあるなら、生きるべきだ。
「あ、あなたこの状況が分かっていますの?」
「分かっている。
君は魔法を使わない、何かの魔法で身動きが取れない。
だから、戦えない君の代わりに、俺が戦おう」
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