僕が世界で一番嫌いなもの
「丁寧に魔力が練り込まれた純度の高い炎だ。だが……」
炎に包まれるプリムラだったが、彼女が息を吹きかけた瞬間、一瞬にして炎が霧散した。
「は?」
「えぇ……」
プリムラのチート主人公ムーブに
「魔法の練度は申し分ない。だが、それを最大限生かせる魔力を持っていないのが惜しいな。魔力量は下の中と言ったところか。その辺の有象無象を消し炭にするくらいは訳ないが、圧倒的魔力差のある相手には意味をなさないな」
初期装備じゃラスボスにダメージ与えられない的なことかな?
って言っても
「そんなこと俺が一番分かってんだよ。だから……」
「あれって……」
上着で隠れていたから分からなかったけど、腰のところにホルスターのようなものがあった。
「…………拳銃?」
「それはまだ閉まっておけ」
「っ!」
一瞬にして、
「それから私はお前の敵ではないぞ。さっきも言ったが、お前を部下にしたらどうだと
「なんだ、おめぇ、いい奴じゃねぇか」
「そうだ」
「そっかー」
ごめん、
「と言うことで、今日から彼にはうちに住んでもらう。いいな?
「え? 待って? 今、僕意識なかった? 話が飛んでるんだけど」
「だから、さっき言っただろう? 彼をスポットにしたらどうかと」
「それは聞いてた。でもね、僕はいいよとも言ってないし、そっからうちに住む流れになるのがもうおかしい」
「っち」
「なんで? ねぇ、今なんで舌打ちしたの? ねぇ」
「女子の考えてることくらい察せるようになれ。男だろ?」
「ネットで叩かれればいいのに」
男はエスパーじゃないんだよ。
「
「うっ」
バレてーら。
「だから、私が決めることにした」
「横暴だ!」
「それに、彼をこのままあのテントに住まわせたままにするつもりか?」
「あれは本人の意志じゃん! 自主的にやってるんだよ!? ねぇ
「彼なら荷物をまとめにテントに行ったぞ」
「来る気満々じゃん!」
「よく考えろ、
「よく考えても分からないけど」
「お前は自分が命を狙われていることを忘れているのか?」
「……そうでした」
「私は警戒されている。だから、狙われるとしたら私がいないタイミングだ。そんな時、彼がいれば、助けになるだろう」
「でも、
「幹部クラスは厳しいだろうが、その他雑兵ならどうとでもなるだろう。それに彼には隠し玉もあるしな」
「さっきの銃のこと? あれなに?」
「まだ知らなくていい。それにあれを差し引いたとしても、彼は手元に置いておきたい」
「そんなに?」
「これを見ろ」
プリムラはタブレットを取り出し、動画を再生する。
それは学校の中庭の映像だった。
「これは?」
「さっき中庭で彼がうちの生徒と揉めた時の映像だ」
そこに映っていた映像はほんの数秒。
「え……がっつり炎魔法で燃やしてるけど、この人たち大丈夫なの?」
「ああ、意識はなかったが、無傷だった」
「無傷? いやいや、あの炎食らってそれはないでしょ。めっちゃ火傷してそうじゃん」
「よく見てみろ。地面の草木や彼らの制服に焦げ跡がないだろう?」
「本当だ。でもなんで?」
「炎の温度を調整したのだろう。恐らく暖房くらいの熱量だろう。それでも彼らは気を失った。それはつまり、焼かれたと脳が錯覚するほどのリアリティある魔法だったということだ」
「温度調節なんて、熱くするのは聞いたことあるけど、炎の性質を無視するほどの低温にまで下げることなんて可能なの?」
「普通は無理だ。だが、ずば抜けた技術力があれば可能だ。あれほど技術レベルの高い魔法を使いこなせる者など世界に10人もいないだろう」
「プリムラの評価が思った以上に高くてびっくりしてるんだけど。やっぱり、血筋? 才能ってやつ?」
「何を言っている?」
「え?」
「魔法で血筋が関係するのは魔力量だけだ。あれは生まれながらに上限値が決まってしまっている。技術力は多少の才能の差はあるが、彼のレベルはその枠をとうに超えている。あれは間違いなく日頃の努力の成果だ」
「努力……」
それは僕が世界で2番目に嫌いなものだ。
「普通の人間であれば、あれほど魔力量が低ければ、魔法に見切りをつけるんだがな。彼の何がそこまでのモチベーションを保たせたのか少し興味はある」
「やっぱり才能じゃん……」
魔法の才能じゃない。
彼には努力できる才能があるんだ。
僕だったら、魔力量が低いって分かった瞬間、努力なんかしない。
どうせ出来ないから。無理だから。頑張っても何も変わらないから。
そんなことするくらいなら、ゲームしてた方がいい、漫画読んでた方がいい、楽しいことに時間を費やしたい。
こういう話を聞くたびに思う。
僕は努力が嫌いだ。
それで結果を出している人も嫌いだ。
努力すれば何でもできるみたいな風潮にするから嫌いだ。
でも……。
「すごいなぁ……」
それすら出来ない僕のことはもっと嫌いだ。
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