ラブゾンビ

「どういうこと?! 説明求む!!」


 休み時間になり、僕はプリムラを連れて屋上に来ていた。


「え~、こんな人気のないところに連れてきてどしたの? もしかしてぇ~、告白とか?」

「そのキャラやめて!」

「あはは、照れてる~」

「困惑してるだよ!」


 これ本当に朝会ったあの死神みたいなのと同一人物なのか?


「君本当にプリムラ? 朝、うちで会った?」

「そだよ~」

「何もかも違うけど。共通点、性別くらいじゃん」


 髪色も声色も性格も何もかもが違う。


「あ~、これ? これはね、付与魔法エンチャント解除ディスペル”」


 パチンッ! とプリムラが指を鳴らした瞬間、彼女の姿が今朝会った銀髪の少女に戻っていた。


「付与魔法による変装だ」


 そして、見た目だけでなく性格も元に戻っているようだ。

 さっきまでニッコニコの笑顔だったのに、今は感情が死んでいるかのような無表情になっている。


「付与魔法? そんなことで来たっけ?」


 付与魔法ってゲームで言うバフみたいなものでしょ? スピード上げたり防御力上げたりとかそういうんじゃないの?


「ああ、これは私が開発した新たな付与魔法だ。容姿や性格を付与することが出来る。潜入調査とかに便利だぞ」

「かい……はつ……?」


 なんかさらっととんでもないこと言わなかった?

 新魔法の開発なんて数年に1個出来ればいい方だし、もし成功したなら世界的なニュースになるはずなんだけど。


「あ、てか、見た目変えられるってことはその人間の姿も魔法で?」

「いや、これが本来の姿だ」

「人間じゃん!!!!!」

「人間だぞ? 今さら何言ってるんだ?」

「いや、だって魔王が何とかって言ってたから、てっきり魔族なのかと」

「魔族でもあるな」

「人間で? 魔族? ん? ハーフ?」

「学校に行かないからそうなる」

「いいや、僕はどうせ学校行ってても分かんなかったと思う」

「だろうな。いいか? 人間であっても魔族に分類される場合がある」

「あ、普通に会話続けるのね」

「異常に高い魔力を持って生まれた人間は魔族に分類されるんだ。ちなみにここの区分けは厳密に決まっており、魔族とされる魔力の規定値は……」

「あ、ごめん。その先は聞いても多分わかんない」

「そうか。中学生レベルの内容だが、やはりまだ無理か」

「小学生でも分かるレベルなら何とか……多分……」

「そこも自信ないのか」

「国語とか算数ならギリギリ。理科と社会は無理」

「これは教育し甲斐がありそうだ」


 なんでだろう。表情は全く変わらないのに、すごく嬉しそうに見える。

 けど、この人絶対ドSだから、僕的には何も嬉しくない。絶対スパルタ教育してくる。教育的指導とか言って鎌振り回してくるもん。


「と言うかなんで変装? 実は有名人とか?」

「ある意味ではそうだが、これはお前を守るためだ」

「変装……有名人……僕を守る為……は! もしかして、週刊誌対策!?」

「の方がまだマシだろうな。それよりももっと――――っとそろそろ休み時間が終わるな」

「え、なんか今、すごく重要なこと言いかけなかった?」

「放課後に伝える。憐太郎が無事だったらな」

「ん?」


 とんでもなく不穏なことを言われたような気がするんだけど。気のせいだよね。







 ――――放課後。


「気のせいじゃなかったあああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」


 僕は今、死ぬ気で校内を走り回っている。

 理由はもちろん、僕の後ろにいる人たちだ。


「待てや、ゴラァ!!」「てめぇを倒せばプリムラさんと付き合えるって聞いたぞ、ゴラァ!」「プリムラさんとはどういう関係なんだ、ゴラァ!」「同棲はマジなのか、ゴラァ!!!」「プリムラ様、しゅき!!!!」

「うわああああああ!!!!! こっちくんなあああああああ!!!!!」


 僕の後を追うのは数十人を超える男子生徒たちだ。

 どうやら、転校初日からプリムラに告白して振られた人たちの集まりのようだ。

 そして、僕に対する恨みから察するにプリムラが振る時に僕の名前でも出したのだろう。

 迷惑すぎる、あのドS死神もどき。いや、今はビチギャルさんになってるんだった。


「はぁはぁはぁはぁ……」


 とりあえず、使われていない空き教室に逃げ込み、男子生徒をやり過ごす。


「プリムラの奴、何を言ったんだ? どうすればあそこまでの暴徒を生み出せるんだよ」

「ふふ~ん、知りたいの~?」

「うおっ!!!!! おま、いつの間に!」


 教卓の下に隠れていたら、ひょこっとプリムラ(ギャルモード)が顔を出してきた。


「うんとね~、告白されたっしょ? そんで


『ごめんなさい。あーし、強い人が好きなの。例えば、同じクラスのレンタローとか。え? レンタローを倒したら?  そしたら、その人のことちょっと気になっちゃうかもー。でーも、レンタローが負けるとか絶対ないよ。レンタローはね小さい頃にあーしを助けてくれたあーしだけの王子様なんだ。だからきっと、大丈夫』


って言いながら頬を赤らめてみたんだけど、どう? いい演技だったっしょ?」

「最悪だよ!!!!!!!!」


 想像以上に余計なことしてやがった!!! 適当な嘘も交じってるし! しかも最悪なことに僕はこの学校にあまり登校していないから周りの生徒からの印象も最悪。そんな人たちに捕まったらどうなるか、考えたくもない。


「ここはどう逃げ切れるかを一緒に……ってあれ??」


 プリムラの姿がない……ッ! あいつまさか!


「あ! レンタローだー!!! こんなとこにいたんだね。じゃ、これから一緒にかーえろ!」


 廊下から僕の方を指さしながら、クソバカでかい声で余計なことをペラペラと喋り始めた。


「「「「「「「「「「うあぁぁぁぁぁぁぁあぁぁっぁあぁあ」」」」」」」」」」

「出たああああああああああ!!!!!!!」


 しかもなんかちょっとゾンビ見たくなってる!?!?!?!?!?!


「振られたことによる心の死、けれど、彼らは諦めなかった。人を好きになる気持ちを。それで得られる幸福を。だから、彼らはまた立ち上がる。何度でも、何度でも、その恋が成就するまで。彼らを言い表す言葉があるとすれば、“ラブゾンビ”」

「ちょっと軌道修正やめてもらっていいですか!? この状況でちょっとよさげなセリフ言ったところでカオスな状況には変わりないんだから! あとこの作品の作風も変わらないから!」

「ごめんちゃい」

「かわいくいってもダメ!!!!」


 そして、僕はまた逃げる。

 どこだ? どこならバレない? この人数を引き連れて学校を出るのは周囲へ被害が出かねない。何としても校内だけで逃げ切らなければ。


「こっちだ、こい」

「え?」


 どこを走っていたときだろうか。後ろから急に首根っこを掴まれどこかの部屋に連れて困れた。


「随分、人気じゃないか」

「委員長!!!!! 神!!!!!!!!!」


 僕が連れ込まれた部屋は生徒会室のようだった。


「ラブゾンビは行ったようだ。これなら……」

「逃げきれるね。どこかに裏道とか「恋バナが出来るな!」

「だから! 人のセリフに割り込まないで!!!!!!!」

「まぁ、落ち着け」

「鼻息荒くしてる人のセリフじゃないよ、それ」

「何を言っている。ワタシはいつも通りだ」

「じゃあ、その鼻血はなんなのさ」

「それよりも大事なことがあるだろう!」


 委員長はティッシュを鼻に詰め、強引に話を進める。


「君たちの関係について詳細に聞きたい。まずは出会いから頼む」

「いや、出会いも何もこいつが急に「あーしたちの出会いは今から十年以上も前のこと」

「だから、セリフ奪うなって! あと、その導入からしてフィクション確定なんだけど!?」

「プリムラさん、彼は無視して続きを頼む」

「りょ」

「りょ、じゃない! これ以上拗らせないで! 特にそこカプ厨に目を付けられるのはマズイ!」

「なん……だと……君たちにそんな過去が…………――――尊死」


 バタンと委員長が倒れた。


「って! いつの間にか話し終わってた!?!?!?!?」

「あははは、委員長っておもろーだねー」

「おま……お前、何言ったんだ!」

「ヒ ミ ツ♡」

「けど、まぁ、いいか。委員長の意識がないうちに……」

「エッチだー!」

「違うやめろ! 脳内ピンク! 逃げるんだよ!」

「この流れだとレンタローが委員長に悪したのがバレないように逃げる感じになるよね」

「誰のせいだ誰の。とにかく、どんな誤解が生まれようともここにとどまるという選択肢はない。速攻逃げる」

「その宛てはあるのかなぁ~?」

「多分大丈夫。ここは俺の地元川越。駅から離れたところに逃げれば、電車通学勢は追ってこないと思う。あとはどんどん知ってる人が少なそうな道に進んでいけば何とか撒けると思う」

「じゃあ、それでやってみよー」

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