第3話
「はーいどうぞー」間延びした中年男性の声がする…
「失礼します…」
コンクリートの壁で覆われた10畳程の部屋だ…
そこには真ん中に机が3個くっつけて置いてあった。
机の上にはかなり分厚い液晶のパソコンが一台…返事をしたであろう中年男性の前に置いてある。
それ以外の机の上にパソコンはない。
一人の女子社員が座るデスクには小瓶がズラリと並んでいて本人は足を組み鉄製のヤスリで爪をギコギコ磨いている。
彼女は時折ふぅっと爪に息を吹きかけると様々な角度からそれを眺め、何やら確認しているようだ…
え!もしかしてここの部署…3人だけ!?
「し…失礼します!私、本日付けでこちらに配属されました!大城と申します!」挨拶は大事…挨拶は大事…
「あ、大城くんねーよろしくー俺は富山です。ここの部長?になるかなー」中年男性は椅子を回してこちらを向くとまたしてものんびりと自己紹介した。
「よろしくお願いいたします!」俺は頭を下げる。
「いいよ…そんな深々と頭を下げなくても…」
富山部長は顔を赤らめると斜め下を向いてモジモジした。
「彼女は斎藤さん」
女子社員はギコギコと爪を磨きながら
「ちーす…」と挨拶?をした…
ちーす…は野球部特有の挨拶だと思っていた…卒業した今聞けるなんて…感動だぜ!!
「よろしくお願いいたします!」
「……」
斎藤さんはよく見るととても美人だ…
スッと通った鼻筋…
大きな目、長いまつげ…
そして何より長い手足に物凄くスタイルがいいぞ!!
安室奈美恵の生まれ変わりでは!?
安室奈美恵生きてるけど!!
何らかの形で生まれ変わったのでは!?
俺は斎藤さんを盗み見て興奮していると「きっしょ…」と斎藤さんが呟いた。
やべーバレた!
「斎藤さん…キツイ物言いはやめなよー」部長が新聞紙を団扇代わりにパタパタと仰いでいる。
「あの…前の部署とだいぶ環境が違うようでして…何をすれば良いのでしょうか?」
「あー…」
部長が何やら気まずそうにしている…
…なんだ?
「今日はもう仕事終わったの…お前…来るの遅えよ」
聞き慣れない乱暴な言葉に俺は顔を上げた。
「え?」
斎藤さんは面倒くさそうにこちらをゆっくり見ると「だーかーらー!うちは7時出勤16時退勤なの!じゃないと原料が取れねえだろうが!ボケカス!」と言った。
はぁー…なんだ!
ゾクゾクする!背筋が…
美人から罵倒される…悪くないな!!
しかし、今斎藤さんはなんと言った?
7時出勤、16時退勤と言わなかったか?
「斎藤さん…あまりキツイ物言いはやめなー」
「チッ…もう退勤時間なのに…10分もオーバーしちゃったじゃん!お前遅いんだよ!」待っててくれたのか…斎藤さん…胸がキュンとするぜ…
「残業代申請しておくから…やめて…斎藤さん…大城くんがかわいそうでしょー」
「チッ…」
斎藤さんは再び爪を磨く作業と向き合ったようだ。
「そうなんだ。大城くんーうちの部署は7時から始業なのーだから明日は6時45分には来てね。僕は6時半にはいると思うけど、あまり早すぎると開いてないからあんまり早く来ないでー」
部長は丸めた新聞紙で肩をトントンと叩きながらニコニコそう言った。
「え…?部長より先に出勤しなくても…」
「なんでー?僕管理職手当もらってるんだよー?なんで大城くんが僕より早く来るのー?やめてー?
……俺の地位を狙ってる…?」
部長は俺を怪しげな目で見てくる…
やめて!そんなこと思ってもいません!
「いえ…あの…はい!わかりました!」
俺は前の部署とのあまりの違いに戸惑いなんだか上手く話せなくなってしまった。
「お疲れ様ー!」
「ういっすー」
「お…お疲れ様です」
俺が挨拶を終えると解散となったようで、部屋から「はい、どうぞーどうぞどうぞー」と部長から追い出された。
グルグルと螺旋階段を上る…
ハァハァ…キツイ…
部長はなにやらご機嫌に歌を口ずさみながら…斎藤さんは無言で階段をスイスイ上がっている…
息が切れてるのは俺だけ…
ハァハァ…
ハァハァ…
俺は疎らに人が乗った電車に揺られ
なんとなく竹輪のことを調べてみようか…とスマホを開く。
「あれ?」
おれのスマホはバグなのか、いつもの検索バーはチカチカと蛍光色に光り輝いてなんだか様子がおかしい…
他のアイコンも…こんなんだったっけ?
…
なんとなくおかしく思いながらも検索バーをタップする。
キーボードが下半分に表示されているが…それはひらがなでも英語でも漢字でもない謎の文字の羅列に変わっていた。
「…壊れた?」
俺はガックリと肩を落とす…
くそ…
これじゃあ使えないじゃん…
何を隠そう俺はスマホ依存症なんだぞ!?
……
…
なんとなく外の景色を眺める。
まだ明るい…
なんだか俺はスマホは明日直せばいいか…となんとなく思う。
電話を受けることは多分できるし…
会社からの電話か…
いや…壊れたことに気付いていなかったことにしよう…
俺は途中下車し、図書館に寄ると竹輪の本を借りた。
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