第2話

「なあ、大城」

同期が俺に話しかけてくれてやっとひと心地つく。

「おはよう…」

「お前コンビニの店員ストーカーしたの?」

「は?」

「その話題で持ちきりだぞ!」同期は楽しそうにニヤニヤ笑った。


ヒソヒソヒソヒソヒソヒソヒ素ヒ素

ああ…なんだってこんなに騒がしいんだ…

ヒソヒソヒ素ヒ素砒素砒素砒素砒素…


なんだか居心地の悪いままその日を過ごし

終電でフラフラと自宅に帰った。


途中コンビニの前で例の店員がスマホでも操作しているのか俯いて立っているのが見えて

面倒くせぇなぁ…と思う。

俺は遠回りをすることに決めてコンビニの手前で曲がる。


ああ…面倒くさい…

あの勘違い女め…

俺は心の中で悪態をつく。


ああ…眠い…

身体がダルい頭が痛い…

なんでこんな不幸ばかりが俺に降り注ぐんだ…


俺は部屋につくとシャワーを浴びるのもそこそこにバタリとベッドに倒れ込んだ。

…疲れたなぁ…






「なあ、大城…お前疲れてるのか」

「は?は…はい…まあ…」

俺はいつの間にやら出社していて…なんだこれ?流石にヤバいぞ…と内心焦る。

どうやってここに来て…どうやって部長の前に立ってるんだ?

無意識になんか変なことしてないだろうな…

ああ…自分が信用できん…


そしてなぜ部長は俺に疲れたかと聞いているんだろう…

俺はなにかしたのか?

居眠り?

やだ!!

なにこれ!記憶ないの怖い!!


「大城、お前竹輪部署に異動な!」

「え?ちくわ?」

「そう。竹輪作るんだよ。お前はこれから」

「え?」




大学を卒業して

大手メーカーのIT関連の仕事に就いた。

俺の未来は華々しい!!と就職が決まったとき…そう思った。

同級生の友だちの中では比較的早く内定をもらって浮かれていた。みんな俺の就職先を羨ましがっていた。



俺の入社数ヶ月前にその会社は唐突に倒産した。



打ちひしがれる俺に2年前に卒業した先輩から突如連絡がきた。



「なあ、久しぶり!困ってるんだって?

うちの会社来いよ!お前みたいな人材を探してるんだよ」と


俺は神はいる…!そう思った。


まあ、それは貧乏神だったんだけどな…

先輩は俺が入社後数ヶ月で辞めた。


なんか…こんな怪談あったよな…


男が雪山で歩いているとかまくらがある。

そのかまくらの中には女が一人いてこちらに気付くと手招きをした。

大層美しい女で

フラフラと近付くと

「おいしいお酒もありますよ…」と女は七輪の上で焼けた美味そうなツマミを指差す。


疲れたし少し位…とかまくらに入ると

女はお酌をしてくれてもてなしてくれた。


しばらくすると女は急に立ち上がり「よっこらしょ」とかまくらから出る。

ほろ酔いで気分が良くなった男は急にどこに行くんですか?と女に尋ねると

「あなたが代わりになってくれたので、やっとここから出ることができました。ありがとう」と妖艶に微笑んで去っていくのだ…


身代わり…

そんな言葉が頭を過る…



でもまだやりたいITの仕事ができてるから…


俺はブルーカラーはいやだ…

ホワイトカラーのデスクワークをしたいんだよ。

ま、ブラックだけど…





でも、ついにその一筋の光も取り上げられてしまった。

「パソコンは置いていけよ。あっちでは使わないからハハハㇵ」

部長は机の上をのそのそと片付ける俺にそう軽口を叩いた。


…竹輪部…パソコン使わないのか…

竹輪作るのにパソコンはいらないか…

まあ…

そうだよなぁ…


俺は私物を詰め込んだダンボールを抱えると「お世話になりました」と頭を下げて今まで所属していた部署を去る。

後ろで部長が「あいつ挨拶だけはできるようになったな!」と他の社員に大きな声で言ったのが聞こえた。






竹輪部はこのビルの最下層にあるようで、エレベーターで1階に降りたあとはひたすら階段を下った。

それはグルグルと螺旋階段のようで目が回る…



もう下りられねー!!と思ったその時…



木でできたドアに表面がボコボコしたガラスがはめられた扉が現れた。ガラスには『竹輪部』と書いてある。


随分と古びた扉だ…

昭和を感じる…

これがエモさなのか…



天井の蛍光灯が切れそうなのかチカチカしてる…


「や…やっと着いた…」



俺はダンボールを一度床に置きその扉をドンドンと叩くと

「すいませーん、本日付けで異動になりました。大城と申しますが…」と声をかけた。

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