第13話 モブ勇者は元聖女の話を聞く


 私の名はアリシア・ソーン、18歳。

 最近まで聖女を担っていた元聖女だ。

 元の名はミウ・レークであり、偶然か必然か私の愛する人も同じ家名を名乗っていた。


「ミウ、くっつき過ぎだよ〜」

「別にいいでしょ。ユヅキの胸も柔らか〜い」

「く、くすぐったいよ〜」


 元聖女に至った経緯は少し複雑で事の経緯を話すとなると昔話を語らないといけなくなる。


「それで公爵様は?」

「好きにしろって」

「よく許してくれたね?」

「伯父さまも憤慨してたから」

「フォフ公派への牽制もあるのね」

「それもあるかな?」


 それは今から6年ほど昔。

 辺境にある湖畔の森にて当時の私は両親に愛されながら育てられていた。私の家は小さいながら商家であり、湖で採れた魚を調理しては庭先で料理として振る舞っていた。良く食べに来ていたお客様は辺境街の冒険者達だった。

 その平穏が崩れたのは夏の昼下がりだった。


『火竜が出たぞ! 逃げろぉ!』


 何処からともなく火竜が現れ、私は家と両親を一瞬で失った。どうも火竜のブレスが直撃したらしく一瞬で全てが消し炭になったらしい。

 その時の私は岩塩の採取中だった。


「あらら、大ウサギの巣にそんな過去が?」

「大ウサギは元々居なかったけどね。あそこは肉の貯蔵庫でもあったから…」


 その憎き空飛ぶ大トカゲも私の愛する人が射殺してくれたけどね。大きな骨から肉やら臓物が切り出される姿を見て驚いたもの。

 火竜は燃やすだけ燃やし尽くすと気を良くしたのか飛び去っていった。岩場で立ち尽くしていた私を救ったのは逃げ延びた冒険者だった。

 私はそのまま親無しとして孤児院に連れて行かれてしまい女性神官から叱られているユヅキと出会った。


「あの時は女性神官の下着が無かったから」

「僧衣を捲って怒られていたんだっけ?」

「うん、中身は女だったし、気にするだけ」

「損でもないけどね? 身体は男の子だし」


 最初見た時はパッとしないイタズラ小僧かと思ったね。何をするにしても突拍子もない事を始めては大顰蹙を喰らっていたから。


「大顰蹙? マジで?」

「女性神官だけでなく司祭様も内心で嫌っていたみたいだよ。闇属性持ちも含まれるけど」

「あぁ、それで食事が少なかったりしたんだ」

「私は多すぎたからユヅキに渡していたけど」


 同じ時期に入ったから部屋も同室だった。

 食事の件もそうだけど2人で1部屋だったから色々と見られたりしたんだよね。普通なら男の子と同室なのは嫌って思うけどユヅキは男の子には思えなくて不意に問いかけた。


「性別を偽ってないかってね」

「ドキッとしたけどね。問われた時は」

「でも、教えてくれたでしょ?」

「2人しか居なかったしね」


 そして他の世界から転生してきた女性だと知ったのだ。名前の呼び方が同じだとも。

 最初は信じられない話だった。

 でも、夢物語に聞こえる話なのに説得力があって本当の事だと思うようになった。

 ユヅキに隠れて拭っている時もこそっと教えてくれた。女の子の日の安心安全な対処法を。

 見られているのに恥ずかしくなかったし。


「義妹だと思ってた」

「なにそれ、酷い!」

「今後は嫁と思うよ」

「絶対だよ、絶対だからね?」

「ぜ、絶対、思います」


 ユヅキとの楽しい日々は3年続いた。

 気がつけば常にユヅキを目で追っていた。

 そして好きになっていたことに気がついた。

 初恋は冒険者だったから直ぐに気がついた。

 ユヅキの顔は好みでは無かったのにね。

 中身に惚れたといえばいいだろうか?

 それからしばらくして15歳を迎えた。

 洗礼は15歳を迎えていない者達も同じ日に行われ、それぞれの古い名前は一斉に剥奪された。私はミウからアリシアへと名前を変えられ、ユヅキはアイクへと変えられた。


「アリシアの意味はなんだった?」

「浄い乙女とか言ってた」

「へぇ〜。納得だわ〜」

「アイクは?」

「ま、魔族」

「は? 何それ」

「魔族の意味だって」

「何それ、酷い!!」

「闇属性持ちだからでしょ?」


 名前の意味を知ればイラッとくるね。

 ユヅキは過去の事としてあっけらかんと笑っているけど。あの名付けも後になって知ったけど名鑑という書物から選んでいるだけだった。

 神が定めたと発していたけど全て嘘だったんだよね。内部に入って知る新事実ってね。

 そうして洗礼の最終段階はギフトと職業の付与だった。私は広域回復のギフトと聖女職だ。

 ユヅキ自身は元々持っていたらしく対象外とされていた。なんでも生まれながらにして勇者候補だったらしい。

 司祭様が憎々しげに脅していたのは、今にして思えば闇属性持ちに何でって感じだろうね。


「それは私の言い分なんだけど?」

「まぁまぁ。落ち着いて」


 あの奴隷落ちという話はでまかせだった。

 そちらの方がお似合いだとか言っていた。

 それでも指示が出ている以上は本人の意思確認は必要だった。脅してでも追い出すやり口は我慢出来なかったけど。


「で、でまかせ、マジで?」

「ふふっ、困ったことにね」


 それから1ヶ月の旅路を終えて私達は王都に移り住んだ。ユヅキは勇者学園へ入れられた。

 私は王宮へと丁稚奉公に出る羽目になった。

 それと共に私とユヅキには母方の親戚が後見人として選ばれた。


「伯父さまかぁ」

「伯父さまだったねぇ」

「辺境の騒ぎが伝わらなかったの?」

「司祭様で止められていたって。派閥違いで」

「ああ、フォフ公派だもんね。あのクソ司祭」


 私が行ったのは先輩聖女の雑務だ。

 総勢数千人も聖女が居ると有り難みがなくなるよね。そのうち力の劣る者は孤児院へと戻されて女性神官になるしかなかった。

 力ある聖女は昇格し大聖女の補佐になるが。

 勇者学園でも似たような事がまかり通り、


「何度毒殺されそうになったか。これも名前のせいだろうね、きっと」

「でも、生きてるじゃない」


 ユヅキは何度も辛い目に遭っていたらしい。


「まぁ裏技を知ったからね」

「あ〜、何処に耳があるか分からないから聞かなかったアレ?」

「聞いてくれなかったアレ、なんで?」

「聖典にね、自己鑑定に出てきた文字列には触れるなって書かれているのよ」

「そんなのあったの?」

「あったのよ。古い聖典には無かったから誰かが書き記しただけだと思うけど」

「だとしたら魔族かなぁ。ガチの」

「ど、どういうこと?」


 合間合間の会話は置いといて。

 そんなある日のこと。王宮へと訪れた侯爵家の御令息から仕事中に言い寄られた。


『お前は平民だから一生雑用のままだ。流石に可哀想だから俺の側妻として囲ってやるよ!』


 とか、


『俺はレベル90になった。絶対参戦出来る』


 とかね。当時はユヅキが実力で91になっていた事を知っていたから鼻で笑って返した。


「胸ばかり見て嫌だったけど、中身の伴っていない90ってそんなに凄いんですか? 私の愛する人は実力で91ですけど? ってね」

「そんなことを言ったの?」

「言ったの。そしたら顔を真っ赤にさせて胸を揉ませろとか騒ぎだしたから、実力で99になって魔王を倒してきて下さいって約束したの」

「そんな約束を? だから…。斬られたのね」

「ま、まぁ、生きて帰ってきたんだし、ね?」

「それなら私が代わりに揉んであげるよ」

「! うん! 直で揉んで!! 脱ぐから」

「冗談だよ」

「えーっ!」


 結果的にレベル99にまでのし上がった。

 変態のなせる技だね、あれだけは…。

 ユヅキも裏技尽くしで唯一空間転移スキルを取得して高成績で卒業し無事に勇者となった。

 それでも平民あがりだから雑用要員だ。

 それは聖女である私も同じ雑用要員だった。

 各地から救援要請が入ればあちこちの領地に行って治療しろという勅命が降りたから。


「あ〜。それで?」

「何か知っているの?」

「侯爵子息が手を回したとか騒いでた」

「魔族領で死ねばいいのに」


 そこまでして引き剥がしたいとはね。

 勅命を受け、夜襲の前日に時間を作って部屋を訪れた。まぁ、その丁度良い日だったから。


「まさか寝てる私に跨がっていたのって?」

「うん、食べちゃった!」

「全く記憶に御座いません」

「でも、産んでいいよね?」

「それは、まぁ、うん、いいけど、さ」

「やった! でも、それはそれだから…」

「そちらはそちらでやると?」

「もちろん!」

「まぁいいか」


 その後、夜襲報告を受けて取り乱した。

 あてがわれた部屋で大泣きした。

 そんな中、大聖女に神託が降りて私の解任と逆賊に関する情報がもたらされた。

 私から襲った事が聖女達にバレてしまい引き継ぎが翌日から行われた。白い目で見られて辛かったけどフォフ公の顔に泥を塗ったから伯父さまからは褒められた。


「で、1週間前に引き継ぎを終わらせたと?」

「半ば強引にね。火竜が現れたと騒ぎになったから戻る時期を早めて急いで戻ってきたの」

「ところで何処で私だって気づいたの?」

「ん? ユヅキの癖かな」

「癖?」

「誤魔化す時だけ目が泳ぐの。それで鑑定して嬉しかったなぁ。女の子になってもユヅキはユヅキだから。私の愛情は変わらないよ?」

「そ、そんな癖があったなんて…」

「あれは完全に無意識だと思うよ」


 女として生き返ったユヅキから聞いた。

 魔王と同じギフトを得たのは警告だと思う。

 教会を私物化しようとしている勢力に対する警告だと思う。魔王は3年で復活する。

 それをどう捉えてどう動くのかを女神様は見ているのだろう。勇者の事にしてもそうだ。

 実力に見合わない家格の高い者を討伐に向かわせるのは権威を示すには丁度良いだろう。

 だがそれでは、失敗したら大事になることが明白だ。現に私以外にもフォフ公の顔に泥を塗った者が4人も居るのだから。


「1人は王太子殿下の婚約者だけどねぇ」

「残念ながら一方的に婚約破棄されたよ」

「おぅ、可哀想に」



  ♢ ♢ ♢



 《あとがき》


 真面目な話の合間にイチャつく2人。



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