第9話 モブ勇者は資金を得る


 転移先は王宮のある高台の真下だった。


「王都にとうちゃ〜く! あ、気配遮断してなかった。見咎められると面倒だ、よっと!」


 路地裏でもかなりの人が行き交いしていて私が現れた瞬間にギョッとされてしまった。

 失敗失敗。てへぺろという古臭い表情を一瞬だけ行いつつ気配遮断を行って姿を眩ませた。

 

「地図魔法を視界に展開して目的地までのルート検索っと。次は右、直進して直ぐの角を左」


 ルート検索ののち軽い足取りで疾駆する。

 この国の王都は入り組んでいて街中を歩き回るだけでは目的地には到着しない。地図魔法の裏技を用いないと住民ですら迷う都市なのだ。

 これも隣国にある仮想敵国の兵達と魔族の流入を抑える手段なのだろうけど住人ですら迷う造りは流石にどうかと思う。

 勇者学園に通っていなかったら確実に迷宮入りしていただろう。これも雑用という名の使いでグルグル歩き回って得られた土地勘だから。


(お、見習い勇者はっけーん!)


 雑用要員はどうあっても平民だけなのね。

 同じ平民でも聖女様が除外なのは理不尽だ!


(でもこれって雑用をしている間が華だよね)


 卒業したら王都へ住めるのは極一部だ。


(試験で高成績をおさめて人員に選ばれた者だけが残れたもんね。下駄を履いた貴族様ですら残れる者と残れない者が居たし。それで魔族領には行かない下っ端勇者は国境線で敵国とにらめっこと。勇者と言いつつ普通の兵役だよね)


 それでも一般兵に比べたら多属性を持つから戦闘技術も相俟って生存率が無駄に高いけど。

 しかも2属性以上の属性魔法が当たり前に使えるし。一方で魔王討伐に向かった勇者様御一行は4属性と6属性で統一されていたっけ。


(雑用だった私もその中に含まれていたわ〜)


 各自の属性数は剣士と神官が6属性で主属性は光、重戦士と賢者が4属性で主属性は火だ。

 他の属性は個々に違ったが闇属性持ちは私以外は居なかった。私の主属性は無なんだよね。

 それと各属性はそれぞれに効果を持ち、


 ───────────────────

 属: 性 質 / 影 響 範 囲 /色

 ───────────────────

 無:時間・空間/全てに影響を与える/銀

 水:冷却・蒸気/火強風弱・土と整合/青

 火:加熱・焼却/土強水弱・風と整合/赤

 風:圧力・真空/水強土弱・火と整合/緑

 土:造成・促進/風強火弱・水と整合/茶

 闇:隷属・発酵/光相殺・光以外整合/紫

 光:回復・浄化/闇相殺・闇以外整合/白

 ───────────────────


 無属性以外は個々に影響を与えあっている。

 無属性は各属性からの影響を一切受けない。

 無属性は各属性に影響を与える事が出来る。

 それぞれの項目は一例に過ぎず、強弱の差だけで似通った効果を持つ魔法もあったりする。


(そう考えると私の主属性が最強と思うけど無属性が主属性となる者が少ないから雑用要員にしかならないんだよね。悲しい現実だけど…)

 

 あとは魔力感知スキルが無いと分かりづらいが魔力には色がついていて無属性が主の私なら銀色になる。ミウは光属性が主で白だった。

 これも本来なら当人しか見えないが鑑定結果で表れる結果板でも判別出来る。魔力感知持ちからすると内容は読めないが板は見えるのだ。

 そんな多種多様なスキルがポイントで取得出来ると知っているのは私だけなんだよね。

 皆一生懸命生やそうと努力しているけど。


(楽な方法があると示しても『平民がー』ってバカにして誰も聞かなかったもんね。そういえばミウも司祭様に知られると面倒だからって聞く耳を持たなかったっけ? なんでだろう?)


 今更、そんなことを考えても仕方ない。

 全て終わったことだから。

 アイク・ソーンの人生は終わった。

 これからはユヅキ・レークで生きるから。

 色々考えながら街を駆け抜けようやく目的地へと到着した。そこは冒険者ギルドの本部だ。

 気配遮断を解いて本部の敷居を跨ぐと、


「!? なんだ、あの美人?」

「初めて見る顔だな? 妙に神秘的というか」

「胸がデカッ!?」


 朝から寛いでいる冒険者達と目が合った。

 美人と言われて嬉しかった反面、胸に視線を注がれて不快な気分になった。デカくないし!


(あ、Tシャツで形が丸見えだからか。今更ベストのファスナーを閉じるのも意識してる風に見えるよねぇ? ん〜? 有象無象と思って無視しよ! 乳首が見えているわけではないし)


 なるべく不快な顔を表に出さず無関心を決め込んで買取所へと向かう。酒を飲む冒険者達のエロい視線は私の尻に刺さりっぱなしだけど。

 そこは受付の奥に存在する解体小屋だった。


「すみません。買取いいですか?」

「はいはい。少々お待ちください」


 しばらくすると職員が来たのでカウンターにドカドカと素材を置いていく。それとナーキ草以外は空間収納から直で取り出していった。


「ナーキ草を30束とオーククイーン1匹分、メイジ1匹分、オークの赤子を6匹分、ジェネラル2匹分、雑魚を5匹分の計15匹をお願いします」

「!? こ、こんなにですか? す、全て解体済みですね。鮮度は…! 新鮮そのもの!?」


 あらら、職員達の目が点だ。

 物量からして相当だもんね。

 骨はなく肉だけの塊が15匹分だから。

 一応、キングの肉もあるが全て生ハム用なので、所持したくない吐き気がするブツを優先的に売る事にした。捨てても良かったけど利益になるなら売らないともったいないしね。


「それとオークキングのブツもお願いします」

「!? オ、オークキングの!!」


 担当になった職員が男性で良かったよね。

 女性なら確実に悲鳴をあげてると思う。

 それ相応の見た目だからモザイクが欲しい。


「しょ、少々お待ちください。番号札は3番です。査定が終わりましたら呼び出しますね」

「お願いします」


 査定中は表に戻り依頼票などを見て回る。


(フムフム、オーク討伐は銀等級から受け付けているのか。私は初心者扱いで鉄等級ね。鉄等級は薬草採取と雑用か。ここでも雑用なのか)


 そして規約が書かれた羊皮紙を眺めた。


(登録料は商家以上だと銀貨になるのか。金持ちの娯楽と思われないための措置かな? 初回登録は鉄等級から始まって依頼累計数が100回毎に等級が上がっていく。銅等級から銀等級の間には昇級試験がある。銀等級から金等級の間も護衛依頼の試験が入る。実力者なら例外的に銅等級からスタートも可能と。銀等級は…)


 あらら、銅等級まででいいや。

 銀等級から勇者の指名依頼が入るとあった。

 どうにも勇者と聞くと鳥肌が立つんだよね。

 内情を知るから余計にそう思うのだけど。

 引き続き規約を読み進めると、


(依頼を放置したり失敗累積が溜まると降格処分もあると。冒険者間の殺し合いは禁止、決闘でも殺害行為は犯罪扱い。喧嘩での殴り合いまでは可なのね。打ち所が悪い場合は遺体を検証して裁判に…。最悪、貴族の1人勝ちかもね)


 裁判となると事前に言質を取っておかないと詰むのは平民の冒険者だけだ。争い事で貴族に勝つには用意周到な防衛手段が必要だと思う。


(伝令記録魔法を改良して言質記録魔法でも編み出すか? それを認識票風の金属板に付与して、魔力を与えると周囲の音を全て拾う的な)


 そう考えつつ空間収納で造って首にかけた。

 認識票と鎖の金属は全て銀で出来ている。

 見た目的にシルバーアクセサリーに見えるが表面には私の名と年とレベルが刻まれている。

 しかも更新されると書き換わる仕様だ。

 規約を読み尽くしたあとは、


(今の内に用紙の記述でもしよ)


 受付脇にある登録用紙を手に取り、必要事項を記していく。査定時間がかかるみたいだし。


(名前と年齢、職業と属性とレベルか。自己申告でいいなら隠す方がいいよね?)


 記す間に受付を眺めて悩んでしまった。

 それは鑑定水晶なる物が存在していたから。


(隠すと面倒な事になるよね。たちまちは機能を鑑定してみるかな… 判別するのは名前、性別、年齢、職業、属性、レベルまで。鑑定偽装は看破されると。うへぇ)


 なので魔眼の解析鑑定で鑑定水晶の魔道具を鑑定してみた。触らずとも分かるっていいね。


(偽装すべきはギフトとスキルと称号まででいいか。隠すのはあまり良くないみたいだし)


 意図せず全属性であることが晒されてしまうが致し方ないだろう。それをしないとレベルだけでは魔物討伐の証拠として弱いのだ。この世界ではレベルより属性が優先されているから。

 それがなんでかは知らないけれど。

 しばらくすると受付で番号が呼ばれ、


「買取合計は銀貨500枚です。内訳はナーキ草が最上級に分類される魔力含有量でしたので1束が銀貨10枚で計300枚。オーク肉も銀貨10枚で計150枚。例のブツが銀貨50枚です。ギルドカードはお持ちですか?」

「持っていないので登録もお願いできますか」

「分かりました。では登録料の銅貨2枚を差し引いた残金を… 口座登録もご希望ですね?」

「ええ、飛脚ギルドに支払う銀貨1枚を差し引いた貨幣を口座に入金していただけますか」

「承りました。用紙をお預かり致しますね」


 事務的なやりとりの後、鑑定水晶に手を乗せて淡々とした登録作業が行われた。まぁ属性とレベルを見たのか職員の目が点になったけど。


「オークを単身で狩れる腕をお持ちですので銅等級と致しました。銀等級の腕もお持ちのようですが試験が必要ですので如何致しますか?」

「いえ。銅等級のままで大丈夫です」

「承知致しました」


 それと先ほどから規約を熟読していたためか説明は無かった。依頼達成数が銅板のギルドカードに記されているので、たちまちは100にならないよう注意しつつ請け負うしかないね。

 到達したら昇級試験があるけれど。



  ♢ ♢ ♢



 《あとがき》


 しがらみを回避するスタイル。



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