第7話 モブ勇者は料理する
収穫を終えた後は風呂に入り直した。
「ふ〜ろ〜は〜お〜ち〜つ〜く〜」
前世の私は風呂が好きだった。
しかし先の生では風呂に入れなかった。
その欲求不満が溜まっていたからか、魔力が続く限り何度でも入りたいと思うようになってしまった。今の身体にも慣れてしまったし。
「井戸もあったけど完全に枯れていたし、湖から汲み上げるのも手間でしかないもんね〜」
まさに温水生成魔法様々である。
どちらかといえば転生特典様々かな?
この世界に転生した経緯は薄らとしか覚えていないけど、それで得られた画期的な隠しギフトだったから。
「もうずっとここに住み続けたいね〜。貴族様に見つかって追い出されるまででもいいから」
そりゃあ実力行使で拒絶してもいいけど国と敵対するのはかなり不味い。勇者学園の後輩共が国の一大事とか言って大挙してくるから。
1人2人ならまだ相対出来ても、50人以上が現れたら命の危険を意識するもん。
まぁ死んだら死んだで蘇生しそうな気もするけど何度も試したいとは思わない。それで生き返らなかったら確実に詰むのは私だから。
「ま、レベル100の元勇者だし、簡単には死なないけどね〜」
風呂からあがり昼間と同じように下着姿でキッチンに向かう。時期的に今が夏場だから薄着で居たいだけだ。あ、でもショートパンツとTシャツだけは着ておいた方がいいかも。
そう思いつつ空間収納に複数の服を作った。
「ショートパンツと思ったけどホットパンツが無難だね。上はカップ付きのキャミソールを着ていた方がいいかな…。少しでも楽したいし」
蚊などの害虫は居ないけど森に侵入した冒険者達が覗き込む事だってある。結界で覆われていてもスキルで内部を覗く事は可能だから。
なお、作った服は動きやすさを主としたスキニーパンツとかレギンスを中心とした。短パンも作ったから狩りに出る時はレギンスと短パンを履いて色違いのカラフル無地Tシャツと防矢防刃仕様のベストを羽織るだけでいいだろう。
先ほどの狩りは急だったからスラックスとブラウスを選んだけどね。
他にもフォーマルドレスとか浴衣とか用意したけど着る機会が無いことを望みたい。
そして黒いエプロンを身につけた私は、
「炊飯魔道具をどーん! 内釜に白米を入れて水で研ぐ〜」
思いつくままに魔道具を工作スキルで造って1度も試験をする事もないままご飯を炊いた。
「行き当たりばったり感はあるけど失敗しても食えるでしょ。状態異常無効があるからお腹を壊す事も無いし、回復魔法で治るし!」
次は収穫した野菜を刻んで鍋で煮た。
味付けは岩塩のみだが食えないことはないだろう。一応、採取したモーベ草も刻んで入れたから旨みが出ればいいけど。見た感じ苦そうな薬草を入れるってどうなんだって思うけど。
「体力回復ポーションの風味が美味しかったからいけると思うんだよね〜。コンソメ的な味だったし。ま、魔力回復ポーションが苦すぎたからそういう認識になったのかもしれないけど」
そこで、とても嫌な出来事を思い出した。
それはミウの作った魔力回復ポーションを飲んで、あまりにも苦すぎた嫌な記憶だった。
それがあったから自然回復出来る分量を把握しながら毎回魔法を使っていた私だった。
今は常態回復があるから必要無いけどね。
ご飯とスープが炊けるまでは暇なので、
「そうだ! 創薬系のスキルも取っておこうか」
暇つぶしで新規のスキル取得を行った。
薬草があっても創薬系のスキルが無いとポーションは作れない。この世界のポーションは教会がポーション利権を握っていて神官職が製造しているらしい。ミウも手伝っているが彼女が作ったポーションを飲みたいとは思わない。
「あれって頭痛薬を間違えて作ったんじゃ」
何故それを手渡したと思うけど。
私に手渡す時は悪寒がするくらいの笑顔だったから……流石に故意ではないよね?
その時のミウの表情は実に不可解だった。
一先ず、必須スキルを取得して統合した。
───────────────────
スキル:創薬術/錬金、調合、分解
合成、抽出、瞬冷
───────────────────
そのうえで薬草に触れるとレシピが見えた。
「体力回復ポーションのレシピが銀板で出てきた? えっと、主な材料はモーベ草と聖水? ああ、光属性と水属性の複合魔法で生成した水か。それを50度で30分茹でてから瞬冷スキルで急速冷却すればいいと。温度管理が肝か」
ポーションは簡単な製法で作られていた。
モーベ草は生で使うと腹下しだった。
ナーキ草は生で使うと頭痛薬だった。
「な、生で飲ませられたのかぁ〜!?」
どうも故意で飲ませられていたようだ。
まぁ聖水を用意するには光属性が必須だから既得権益となっていても不思議ではないけど。
「じ、自分で飲む分には問題は無いかな?」
売り物にするのはナーキ草だけとしよう。
風味的に美味しいモーベ草は残してね。
鍋が沸き出したのでアク取りしつつ、もう片方のコンロに別の大鍋を置いた。ガラス板毎に分割した3口コンロにしてて良かった!
聖水魔法の聖水と刻んだ薬草を茹で始める。
「指定は50度で30分、保温は無し。このコンロも使いようによっては便利かも。事前に温度と時間指定も可能だし。通常時は100度固定だけど売れるかな? いや、止めとこう」
貴族様のお抱えになると地獄が待ってるし。
気ままなスローライフが遠ざかってしまう。
しばらくするとご飯が炊けてくる香りが室内に充満する。そうそう、換気しないとね〜。
「その間にフライパンを乗せてオーク脂を塗って雑魚オークの肩ロースを…。美味しそうな匂いがする。上白糖と生姜と醤油を混ぜて…」
私の最初の晩餐は割と豪華になりそうだ。
野菜畑で生姜も育ったし、謎の種からは糖の実と
糖の実は黒い蜜が入ったブドウのような実が生った。それを収穫スキルで少量の上白糖へと精製した。精製せずに使うと黒糖だけど。
醪の実はトマトのような見た目の黒い球だった。しかもこれは収穫した日から段階的に発酵する実だそうで1日目は醤油、2日目は色が薄くなって練り味噌、3日目なら半透明になってお酢、4日目なら透明な酒精となるらしい。
「酒精… 岩塩を入れて料理酒とするか、そのまま飲んでもいいよね。状態異常無効があるから酔わないけど味わいだけは感じたいし〜」
それもあって醤油と味噌とお酢以外の実は気温が一定な枯れ井戸の中に熟成魔法を付与した篭を収めた。酒精は熟成させた方がいいと思ったから。ただ、そのままだとカビが生えそうなので、枯れ井戸には照明魔法を付与した魔道具を吊しておいた。主に虫除け的な用途だ。
生姜焼きが出来上がると小皿に盛り付ける。
「味見は? ん〜! 美味しい!」
汚れたフライパンは浄化魔法で洗浄した。
その後も思いつくまま実験を繰り返す。
「あ、岩塩があるから抽出スキルでにがりが採れないかな? 量は少ないけど採れたっぽい」
少なからずにがりが採れたので次は収穫した大豆を水に浸け、時間操作スキルで吸収時間を加速させた。その間にフライパンがあったコンロに別の鍋を置いて茹でる準備を行った。
「そのまま茹でて潰すのは魔法でいいかな?」
準備の間に体力回復ポーションが茹で上がったので瞬冷スキルを行使しつつ大鍋を持った。
一瞬で冷却される大鍋とポーション液。
半透明の青色の液体を鑑定すると、
「さ、最上級…。少量でも効果が高いかぁ」
土壌の魔力量が多かったためか世間には売りに出せない代物が出来上がった。
「完全に非売品だ。リビングに飾っておこうかな。劣化防止魔法を付与した試験管を作って」
たちまちは時間に余裕があったため必要量の試験管を造り出してポーション液を麻布で漉しつつ杓子と漏斗で注ぐ。試験管立ても追加で必要数造り出し、テーブルに置いて専用ガラス栓で封じていく。室内が照明魔法で浄められているから個々の浄めは行っていないけど。
「大鍋で300本。少し作りすぎたかも」
と、ともあれ、出来上がった大量の体力回復ポーションはリビング棚に並べて飾った。
使う事があればここから持っていけばいいだろう。使う事が無ければ無いで問題は無いし。
「さて、大豆を茹でて潰して湯葉と豆腐を作らないと〜。茹で水と冷却水は聖水を使うかな」
♢ ♢ ♢
《あとがき》
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