第6話 モブ勇者は生活を改める


 ミウこと聖女様へと報告を終えた私は、


「大泣きしてたねぇ。何か悪い事をした気分だよぉ。お詫びすると後が恐いから我慢だね……」


 湯船に浸かりつつ先ほどの事案を思い出す。

 私と聖女様はひと月違いで孤児院へと放り込まれた同期生みたいなものだった。

 私の場合は街で拾われた浮浪児扱いだったけど、聖女様は商家の生まれで家が消失した関係で孤児院送りとなった。

 彼女の本当の名はミウ。

 親に付けられた名があった。

 そして孤児院に入って洗礼で書き換えられた。洗礼無きままなら本当の名で生きられるのだけど家名を持たない扱いになった場合は等しく戸籍の名を剥奪されて新名を与えられる。

 ミウの新名はアリシア・ソーン。

 私も剥奪されてアイク・ソーンとなった。

 ソーンの家名は所属していた孤児院の名だ。

 今では元に戻って家名無しだけど。

 洗礼時に新名を与えられ、広域回復のギフトと聖女職をあてがわれた。

 元々持っていた私は学園行きを脅迫された。


「奴隷落ちしないでと願われた事も要因ではあったかな。妹みたいで可愛かったし」


 当時は。という枕詞が付くけれど。

 襲われた時は不思議と恐ろしいと思った。

 目覚めると汗だくで跨がっていたから。

 だから何をしたのか問い詰めると、


『何があるか分からないから思い出を貰った』


 ぎこちない動きと共に笑顔で座り直した。

 今思えば何がしたかったのか?

 それだけが本当に謎だった。


「モブみたいなダサ男に懐くってどんな心境なんだろ。以前の顔を思い出してもパッとしない見た目だったのに。一応、鍛えてはいたからギャップ萌えだったのかな? あ、寒気がした」


 かつての自分と今の自分を比較して不快な気分になった。まぁ亡くなった身体の事をとやかく言っても仕方ない。今は綺麗になっているし変な男に捕まらないよう気をつけないと。


「容姿が侯爵子息の好みに当てはまってるし」


 それを考えると冗談抜きで殺したくなった。

 あのバカにとっては理不尽だろうがバカに殺されて奴の好みで生まれ直したのだ。

 貞操だけは何がなんでも護らないと。

 ともあれ、風呂からあがりバスタオルで水分を拭った私は浄められた下着を身につけた。


「入れるだけで汚れがなくなるっていいね」


 洗濯不要の篭は時間を無駄にせずに済むから大助かりだった。ブラは手洗いが必須だし。

 使用済バスタオルも篭に収めるだけで綺麗さっぱりとなり他のタオルを用意せずに済んだ。

 来客があるなら新規で用意するけど私1人なら枚数があっても意味が無いしね。

 下着姿でキッチンに移動して生成された水を飲み浄めた岩塩を舐める。果物があれば果汁を飲みたいけど今は贅沢を言ってられないのだ。


「寝床の確保は叶ったけど、生き抜くためには肉だけでは足りないよね。野菜が欲しい、繊維と栄養分が欲しい。余ったスキルポイントで追加スキルを取得するかな?」


 そう言いつつ余りポイントを使い、農業系のスキルを取得していった。当然、統合も済ませたので思いつくままに農作業が可能になった。


 ───────────────────

 スキル:農業術/採掘術、除草、剪定

         土壌改良、土壌回復

         種子創造、収穫

 ───────────────────


 採掘術は土地に埋まった石などを掘り起こすために取得した。熟練度を引き上げた状態で使い方を調べると、スキルを行使して畑区画をイメージするだけでボコボコと大岩が現れるとあった。そのうえスキルの効果で大穴空間が埋まるという。

 それと大岩に鉱石めいた代物が存在していたら抜き出すことが可能らしい。鉄鉱石があるなら欲しいけど、流石にそれは無理だろうな。

 除草と剪定等はそのままの意味だった。

 手間をかけず楽に片付けられるのはメリットが大きい。デメリットは簡略化されたことで生き甲斐が感じられない気持ちだけだろう。

 だが、種子創造だけは別物だった。


「ブドウ種、オレンジ種、リンゴ種、小麦、キャベツ、白菜、人参、大豆、ジャガイモ、サツマイモ、謎の種? 稲籾…。こめ!?」


 空間収納内へと出来上がる種の数々。

 目録越しに調べたら目が点になった。

 稲がある。水田を造れば米が食べられる。

 それを目にした私は稲の説明文を読んで更に目が点になった。


「えっと水田にせずともよい? 植えるだけで育つ。必要なのは土壌改良した土と魔力のみ」


 それを稲と呼んでいいの?

 ま、まぁ善は急げというし、ツナギに着替えた私は夕暮れ時になる前に住処前に放置していた畑区画にて農作業を進めた。

 風呂上がりなのに追加で汗を掻く。

 これはこれで必要な事だし仕方ないかな?



  ♢ ♢ ♢



 その後、大岩を畑から取り除き、大岩の中身から鉄鉱石やらミスリル鉱石を拾い上げた。


「まさかあるとは思いも寄らないよ〜!」


 アダマンタイトやらオリハルコン鉱石まで存在していて未開拓領域がハンパないと思えた。

 この森を開拓していけば一攫千金も夢ではない。その前に貴族様から奪われてしまうけど。


「鍛冶スキルが活きる鉱石尽くしだけど、これは死蔵かな。先ずは土壌改良を実行して…」


 畑に右手をかざし、スキルを行使する。

 すると指定した区画がボコボコとうごめき大量の魔力と栄養を宿した地面に早変わりした。


「うへぇ。魔力がごっそりもっていかれたぁ」


 区画に対して14000MPの消費だった。

 全部で4区画存在するので合計で56000MPもの魔力が埋もれたかたちになるだろう。

 なお、土壌回復は半分で良いらしい。

 新規開拓は余力がある時しか出来ないけど。

 そうして魔法で作った水を軽く撒き、空間収納から稲と小麦を優先して植えていく。

 野菜なども小さな畝を魔法で作り、支え棒を畝に挿しながら丹精込めて植えていく。

 謎の種は何が生えるのか分からないけど一応植えた。こちらも支え棒付きで。

 最後はため池脇に用意した薬草畑にも種を植えていった。


「モーベ草が体力回復ポーションの素材で、ナーキ草が魔力回復ポーションの素材か。初級・中級・上級・最上級と分類があるのは? 植生の魔力分布が影響しているのか、なるほど!」


 人族の多い地域なら初級。

 人族の少ない地域は中級。

 魔物の徘徊する地域は上級。

 魔族領は最上級の素材が生える。

 だから土地欲しさで魔族領まで出張るのか。

 それを知るとアホらしくなった。

 どのみちしばらくは死蔵となるだろう。

 使うことなんてしばらく先だろうから。

 植え終えてストレッチを済ませた私は、


「さて、稲と小麦の様子は」


 南東側に植えた稲と小麦を見に行った。

 そこには黄金の絨毯が… マジで?


「こ、今晩から米が食べられるとは」


 まぁ収穫しても直ぐに直ぐ食べられるわけではないけど。乾燥と脱穀と精米があるし。

 ということで早速、収穫スキルと空間収納スキルを併用して稲と小麦を収穫してみた。

 併用無しだと地道に刈っていくしかない。

 併用有りだと一瞬で刈りとれた。

 最初は生き甲斐とか言っていたけど便利なら使うに限るよ。時間も無駄に出来ないし。

 その直後、


「うそぉ!? 精米まで終わってるぅ。製粉も完了なのぉ!」


 視界へと〈精米完了〉の通知が表れた。

 数秒差で〈製粉完了〉も出たから驚きだ。

 同じように他の野菜を見て回ると新鮮な野菜が育っていた。流石に育つのが早過ぎない?


「まぁ、食材に困らないからいいかぁ」


 ちなみに謎の種はといえば、


「おっぱいが生えてる。こちらは殻付き卵?」


 恥ずかしい見た目の白い双実と無精卵が生えていた。本当にこれだけは謎だよね。

 どうも私が欲する食材が生えるらしいが。


「だから謎の種なのかぁ」


 一先ずの収穫はスキルに委ねておいた。

 卵の実は殻付き無精卵が生えるだけだった。

 乳の実は乳白色の液体が蓄えられていてがくの枚数で風味と見た目が違った。

 3枚はミルク味、5枚はヨーグルト味。

 7枚は生クリーム味、9枚はチーズだ。

 空間収納から取り出す時はミルク缶を用意してから注ぐだけだ。保管は食料庫行きだけど。


「乳の実かぁ。チーズはともかく見た目と感触までおっぱいって。他人には見せられないね」


 しかも柔らか過ぎて破れそうだった。


「今後はビニールハウスみたいな囲いを用意しようかな。男が訪れないとは言い切れないし」


 見本は誰のおっぱいだろうか? ミウかな?

 ミウってば凄いデカい代物をお持ちだから。

 義妹として見る事はあっても触れる事なく死んだけども。



  ♢ ♢ ♢



 《あとがき》


 ( ゚∀゚)o彡°おっぱい、おっぱい!



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