第4話 モブ勇者は跳び回る


 完成した住処は寝室1部屋にリビングダイニングキッチン、鍛冶小屋兼風呂釜と風呂場、玄関と風呂場脇にトイレを併設した、実にこぢんまりとした家屋となった。

 一応、屋根裏にロフトベッドも設けたけど。


「こんなものかな。食材はキッチンに併設した亜空間の食料庫に放り込めばいいか。時間停止が凄いとは思ったけど腐らないなら大助かりだよね〜。追々、保冷庫と熟成庫も用意して……」


 窓は11箇所あり、内部の木扉は5箇所だ。

 その内、シャッター式の雨戸が付くのは寝室とリビングのみで他は金属製の格子で封じた。

 窓には透明な強化二重ガラスを設置しサッシも金属製とした。玄関扉だけは木製だがドアノブは金属とし複数の小さな金属棒を使う鍵を取り付けた。予備を含めて3本の鍵を作った。

 ロフトベッドがあるのはリビングの真上。

 梯子で登れば直ぐの場所に寝床が出来る。

 それ以外の天井は風魔法で動くシーリングファンをクルクルと回して空気循環させている。


「ト、トイレ!」


 トイレは陶器製で汚物諸共魔力に戻して水生成魔力として保存する空魔石を陶器便座内に設置した。

 空魔石は大ウサギから獲った物で中身の魔力を屋根の防水魔法で利用した残り滓だ。

 それを利用して洗浄水に使うのだから私の知恵も大したものである。

 自動取得の付与スキルが統合された以上は使いたいと思っても仕方ないよね。


「間に合ったぁ〜」


 これも光属性が使えるようになったので浄化魔法で戻すといえばいいだろう。

 突起を押すと洗浄水が魔石の魔力で瞬時生成されて奥にある排水トラップで魔力に還元されるのだ。それは造物魔法の上質なトイレットペーパーも同じように魔力へと戻される。


「追々木々から紙を生成しないとね〜」


 いつになることやらな呟きだが、風呂とキッチンの温水生成は専用魔道具を設置したので自分の魔力を用いて必要量の水が確保可能になった。こちらの排水は浄化魔法で浄められたのち外に設置したため池に集まる仕組みとした。


「スローライフといえば農業だもんね〜。あとで農業スキルを取得しないと〜」


 鍛冶小屋の地下には敷地全体に伸びる銅管を通し真冬でも耐えられる床下暖房を組み上げておいた。夏場だけは宅内経路を遮断して外のため池に戻す仕組みとしているが、冬場はため池の水を浄化しつつ吸い上げて室内を暖める。


「改めて思うと四季があるもんねぇ〜。まぁ1年が360日、1ヶ月が総じて30日、1週間が6日ってところだけは違うけど、1日が24時間制というのは驚いたね〜。時計が無くても24時間制ってなんぞって思うよね。ふぃ〜」


 お花摘みのあとは内部で使う家財道具も造物魔法で造り出した。火を扱うところは極力近い場所に纏め煙の流れは風魔法の換気扇で鍛冶小屋と風呂釜の煙突に繋げた。

 屋根からは1本の煙突しか出てないけど。

 3口コンロの魔道具も耐熱ガラス板に局所加熱魔法を付与した。使用者の魔力で一定時間温めて100度に達すると自動保温する仕様だ。

 与えた魔力が切れると保温と加熱が止まる。

 魔力を補填すればその時点の温度から最大温度にまでジワジワと再加熱するのだ。


「残りは寝室のベッド、マットレスと毛布か」


 大ウサギの毛皮を使ってもいいが今は処理が出来ていないので生臭さ勘弁で空間収納の肥やしとなっている。これも追々処理しないと。

 ひと通りの準備を終えると腹が空いてきた。


「まだ畑が手付かずだけど、狩りに行くかな」


 周囲の柵は出来上がっているが畑だけはまだだった。魔力を使い過ぎたか知らないけれど、元勇者といえども空腹には勝てないようだ。


「それか成長期ともいう? 18歳だし」


 狩りに行く前に汗臭いツナギを脱衣所で脱ぎつつ、浄化してチェストに片付けた。

 そして黒いスラックスと白いブラウスを造り出して羽織った。ズボンが簡単に脱げないようにサスペンダーも装着して。

 サスペンダーには造物魔法で用意した解体短剣の鞘を挿すだけにした。弓と矢は弓術魔法だけで賄えるから装備不要だ。

 魔王を撃ち抜いた実績のある魔法だからね。


「とはいえ対策を取られると意味ないけど…」


 そうなると実体矢を用いるしかないけど、って勇者に関わらないって決めたのに、どうして討伐しようと考えるかな、私って。


「参ったなぁ。私、勇者学園に毒されてる」


 1人しか居ない家の中でブツブツと呟く私は玄関の鍵を閉めて空間収納へと片付けた。


「1人に慣れていても、やっぱり寂しいね…」


 扉に鍵を掛けると同時に柵の周囲へと魔物防御結界が発生し、魔物共を排除する空間に変化した。女子の新生活で防犯機能は必須でしょ?

 盗賊とか家主以外の不審者も排除するけど。



  ♢ ♢ ♢



 いざ狩りに出ると前方にイノシシ型の魔物群が居た。ん? イノシシが2足歩行してる?


「鑑定してみるかな。目に魔力を集中して」


 魔眼によって解析鑑定するとイノシシではなく茶色いオークの群れであることが判明した。


「この森にも居たんだねぇ。住処が襲われる前にやっちゃおうかな?」


 判明した直後、暗殺術スキルを用いて気配を遮断した私は跳躍ののち木々を跳び回る。木々の枝を通り抜けるスキルは隠密跳躍といい、敏捷力が高くないと使えないスキルでもあった。


(オーク共に気づかれていないね。キングの周囲に雑魚オークが10匹、ジェネラルが3匹、メイジが2匹、クイーンが2匹か)


 そうしてオーク達の背後に回り、光属性の魔法弓を作り出して構える。矢も同じ光属性だ。

 与える効果は麻痺であり魔力隠蔽を施したので気づかれる事はない。流石に連射すると気づかれるので途中で分裂する指定も追加した。

 魔眼で獲物を見つめ隠蔽した目印を自動であてがう。これは魔王ですら気づけない目印だ。


(自動照準と照準隠蔽で目印付与完了!)


 そののち、魔法矢を放ちオークの群れが連鎖的に倒れる様を見届ける。メイジを優先しつつ魔法矢が刺さる。連鎖的に全ての魔法矢が刺さり不意打ちを食らったオークの群れはピクピクと身体を震わせて地に伏した。

 2射目は水属性の魔法弓と矢を選択した。


(効果は大出血、射貫くと同時に血抜きして)


 2射目も1射目と同じようにオークの群れに刺さった。刺さった直後より、穴を穿たれた部分から噴水の如く血液が噴き出した。


(足裏を選んで正解だったね。頭なら血糊がべっとりで解体が面倒だったし…。失血量も最大になったから空間収納へとご案内!)


 こうして18匹のオークの群れは大量の血液だけを地面に残してその場から消えた。消えた直後に視界へと〈解体完了〉の通知が表れた。


(あら? 空間収納に解体が追加されてる?)


 と思ったら工作術スキルと時空術スキルが連携した関係になっていた事に気がついた。


(ああ、お試しで鉄筋を造ったから、それで内部製造と解体が可能になったのかぁ。残存血液やら臓物は魔力に分解されると。便利だわ〜)


 空間収納の目録を視認するとオーク肉の塊が部位毎に30セット出来ていた。クイーンが子を宿していたようでそれも肉扱いされていた。


(子供であろうとも魔物は魔物だよね。おそらくは巣を探す旅でもしていたのかもね。それなら子供も美味しく頂いてあげないとね〜)


 流石に1人で食べきれる分量ではないけど。

 最後に流血跡を乾燥させて血粉となし、森に狼が寄りつかないよう警戒した。


「この分だと年を取るまでに残りそうだな…。売って貨幣に変えるのもアリだけど……」


 だが、しばらくの間は街には行けない。

 幼子では無いにせよ家名無しの人族は強制的に孤児院行きになってしまい、入れられると同時に創成神の教えや、大変ありがた迷惑な勇者は素晴らしいという謎の洗脳を喰らうから。


「隷属無効のお陰で効かなかったけどね♪」


 一先ず、狼達に感づかれなかったので木々を跳びつつ住処へと戻った。血生臭い戦闘にはならなかったけど生臭い流血を見たあとなので風呂に入って気分を一新させようと思ったのだ。


「ついでに整えようかな…」



  ♢ ♢ ♢



 《あとがき》


 人知れず魔物を射る女狩人か。



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