第3話 モブ勇者は家を建てる


 一先ず、気になったからやってみようの精神でスキル統合を実行してみた。


(えっと、統合するには該当項目を選んで獲得値もといスキルポイントを消費する……までは新規取得と変わらないかな?)


 最初に行ったのは多属性に光属性を加えた全属性化だった。魔王討伐後のレベルアップで得たスキルポイントを消費するだけなので大してスキルポイントは減らないかもしれないが、やるだけはやってみた。


(ポイント消費と同時にMP量が増えた!)


 その直後、6属性が全属性に変化した。

 それと同時にMPが9万弱から10万強にまで増えた。属性が増えるだけでMPが増えるとは思いも寄らなかった。


(これで大怪我しても自分で治療が出来る! さらば! 役立たずで守銭奴の神官職!)


 統合の結果、光属性の回復魔法を覚える事が出来たので大いに喜んだ私だった。


(この際だから勇者学園の在学中に取得したスキルを全て統合しておこうかな? 丸々同じだと疑われそうだしね。鑑定偽装していても見える者から見たら分かるらしいし……)


 それと同時に集めるだけ集めた無駄スキル。

 使い切れていないスキルを含めて統合していった。統合時には取得していなかった剣術や双剣術スキル等が自動取得されスキル熟練度の最大化もポイント不要だった。

 スキルと熟練度のリセットも一応出来るが1つにつき年1回なので躊躇するね。


(36種のスキル群が8種にまとまった〜!)


 まとまったとしても統合分の熟練度の最大化だけは残っているので余りポイントを800消費して全て最大値にまで引き上げた。

 そのままだと更新が反映されないため銀板を閉じて、手のひらを見つめた。

 すると統合後の鑑定結果はスッキリした。


 ───────────────────

  名前:ユヅキ

  性別:女

  年齢:18

  職業:弓術士

  属性:全属性

 レベル:100

 ギフト:遼遠偵察、原点回帰

 スキル:全属性/多属性、光属性

      魔眼/魔力感知、透視、暗視

         共感覚、複合照準

         照準隠蔽、自動照準

         遠視、解析鑑定、看破

     時空術/時間操作、空間収納

         空間転送、空間転移

     暗殺術/変装、疾駆、跳躍

         気配遮断、隠密跳躍

         回避術、罠感知

         罠設置、短剣術、槍術

         剣術、双剣術、投擲術

         射撃術、毒殺術、隠形

     交渉術/会話術、礼儀術、値切術

     工作術/付与、裁縫、解体

         木工、建築、鍛冶

         陶工

     家事術/炊事、洗濯、掃除

     魔力術/鑑定偽装、魔力操作

         魔力隠蔽、魔力圧縮

         魔力譲渡、常態回復

         瞑想

  耐性:状態異常無効、威圧無効

  称号:狩人、弓の勇者、魔王殺し

  状態:正常

 ───────────────────

  HP:30300/30300

  MP:14000/14000

  魔力:106050/106050

 攻撃力:3400

 防御力:1500

 敏捷力:5200

  体力:無制限

 精神力:無制限

 器用力:無制限

  知力:無制限

 幸運値:無制限

 経験値:1/303

 ───────────────────


 統合直後の情報より知った事だが視覚系スキルが魔眼として統合され碧瞳が薄く光る程度の効果を示した。


(白銀色かな? 瞳がキラキラしてる。情報は脳内にイメージとして浮かぶのね。これだと視野が確保出来るから安心かな? 背後からの不意打ち対策としても。魔王城門から出てレベルアップの確認中に不意討ちされたもんね……)


 これも魔力術に統合された魔力隠蔽を並行して行使すると碧瞳のまま視覚系スキルが行使可能になった。スキル行使は1つ辺り最低10MPの消費があるが10万を超えるMPを持つ私にとっては微々たる変化でしかなかった。


(統合前に追加された常態回復で毎秒100MPと100HPの回復が行われるから減ることも無いしね。私の人外化が加速してるよぉ〜)


 なお、統合後に鑑定偽装した偽装情報を見るとこちらは変化無しだった。従来通りのスキルがそのまま表記されているだけだった。

 ともあれ、魔王討伐後に背後からの斬撃で詳細を知る前におっちんだ私は女としての再誕後に遅れながらも検証を重ねたのだった。


「あ、お昼過ぎてる… 少し魔物でも狩ろうかな? ああ、寝床の確保が先か」



  ♢ ♢ ♢



 寝床の確保が先と思いつつ近くに現れた〈噛みつき大ウサギ〉を風属性の魔法弓で射って血抜きと解体を済ませ、手足の肉だけ焼いた。


「肉だけって不味いね。岩塩でもあれば」


 再誕直後にそこそこ大きなウサギを狩ったけど大きいだけあって大味だった。大きいというかこの辺りのボスなんだけど、このウサギ。


「以前はコイツに追われたっけ。追われて街にまで逃げて冒険者に助けてもらったまま孤児院に強制収容されたっけ。親無しの子供として」


 それを思い出すと恐怖の涙で塩味が付いて旨くなった。自分の涙で味付けしてどうなんだって思うけど今はこれでも十分過ぎると思った。

 全ての肉を食べ終わると、大ウサギの毛皮と魔石を回収しつつ空間収納スキルに片付けた。


「ごちそうさま、土に還って成仏してね」


 統合後は時空術スキルに変じているが使い方は以前と変化なかった。悲しいかな中身だけは元肉体に紐付いていたからか空っぽだった。

 大容量の空間収納に毛皮1枚と魔石が1つ。

 亜空という時の止まった空間にそれだけだ。


「東京ドーム10個分の王宮が100棟は入る空間内に毛皮と1キロに満たない魔石が1つ」


 以前のスキルを残したまま生まれ変わるというのも少々過剰過ぎると思えてならない。

 これが魔王なら十全に使い切るのだろうが私は人族の女だ。人外ではあっても人族なのだ。


「存在理由を考える前に寝床確保が先かな?」


 火の後始末を終えると次は森の中を探索しつつ寝床になりそうな空き地を探す。私が再誕した森は領主の居ない未開拓領域だった。

 一応、王家直轄領の扱いだけどその王家も両手を挙げて手を出さない危険地帯でもあった。

 辺境の外れ、湖畔の森と名が付いていた。


「魔王討伐後に魔物の駆逐と同時に開拓するとか聞いていたけど、魔族領から人族領へと戻るのに最短で3年はかかると聞いたから、戻って直ぐに魔王再誕で順繰りなんだろうなぁ〜」


 私を殺さなければ最短数分で戻れたものを。

 時計を見た時に気づいたが私が亡くなったのは今朝方の事だったらしい。

 それからほんの数刻で女として再誕した。


「1人だけ高位の空間転移スキルが扱えたから雑用要員のモブ勇者で選ばれて兵士達と共に魔王城へと直接乗り込んで殺されたか」


 乗り込んだ時点のレベルは私が94、筆頭勇者が99だった。他は家格の下駄により実力の伴わないレベルが上乗せされた89の者が大半だった。国王陛下の謁見でビビらないよう取得していた威圧無効が別の意味で役立つとは。

 状態異常無効も勇者学園で毒を盛られる事が多かったから取得していたんだよね。

 平民は帰れ的な腹痛過多な嫌がらせで。


「王侯貴族の選民思想の中では地獄を見るのは平民だけだね」


 終わったことを何度も愚痴っても仕方ない。

 獣道を南に向かって進むと湖が見えてきた。


「ここが湖畔か。水棲生物は何か居るかな?」


 水辺に立ち、魔眼の解析鑑定を行使した。


「川魚と齧歯類の魔物が居るくらいか、まぁ巣を突かなかったら襲われることはないかな?」


 水辺の周囲を見回すとかつて誰かの家があったような土台が存在していた。土台以外は風化していたが、使えないことはなかった。


「ボロい部分だけ空間収納へと回収して、素材へと還元。土台は土魔法で補強して…」


 隠しギフトの魔法書庫にて使える魔法を選択した。それは造物魔法というイメージした品物を魔力だけで造り出す画期的な魔法だった。

 造り出せない品物は有機物を除く生物だけらしい。簡単に生命まで造り出せたら神でしょ?


「おっと、先にパンツとブラとツナギを造ってから着ないとね。麻服もいいけど虫が入って痒い痒いになりたくないし、足も草鞋だけだし」


 先ずは白いレース地のパンツとブラを造って麻服を脱いで裸になる。誰も居ない森で裸になるというのも妙な開放感があっていいけど…。

 ただ、脱いだ途端に現実を思い知らされた。


「これは、また。あ、あとで整えようかな。誰かに見られることはないけど、必要な事だし」


 少々、女として考えさせられる状態だった。

 そして誰かに覗き見られる前にパンツを穿いて慣れた手つきでブラを身につける。


「よし、安心の安定感! 次はツナギを着て、安全ブーツを履いて」


 白いツナギと金属入の白いブーツを着終えると近場の生え過ぎた木々を風魔法で伐採した。

 一応でも間伐扱いだから不必要な伐採にはならないだろう。本数は数百本になるが柵とか家具を用意するには少ないと思えたから。

 多すぎれば薪として置いていてもいいし。

 伐採した木々を浮かせつつ皮を剥ぎ、火と風の乾燥魔法で程よい水分を残して乾燥させた。

 これをしないと木材には出来ないから。


「次は補強した土台に無属性の型を組んで、用意した鉄骨を網の目で編んで、土魔法で液体粘土を造って流して、銅管を埋め込んで♪」


 乾燥魔法の行使で住処の土間を用意した。

 これらは全て工作術スキルに統合した建築スキルなどを行使した作業だ。合間の魔法行使は作業速度を速めるために行った。

 こうしてものの数時間で鍛冶小屋と風呂と釜等を含む私の新しい住処が完成した。

 肝心の魔力残量は10万が残っていた。

 まさに常態回復様々である。



  ♢ ♢ ♢



 《あとがき》


 精神年齢ではお婆さんだよね?

 肉体年齢に引っ張られる感じかな。

 ステータス周りの修正を行いました。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る