第15話 ナンシーおじさん

「え?排気量マウント?」


仕事の昼休みで萌歌は、涼子と一緒に各務原家の自宅の方で昼食のカレーうどんを食べていた。

涼子は料理が得意で文句のつけようがないくらい絶妙な味付けでまた食べたくなるような美味しさだ。

2人で食べていると涼子から突然排気量マウントの話題になったので、萌歌はどういうことか聞き返した。


「駐車場とかライダーがよく集まるスポットで、自分が乗ってるバイクより低い排気量のライダーを見つけては、大型アピールしてくる人がいるのよ」


涼子がそう言うと、萌歌は排気量が大小で優劣つけるような人がいることを知ってバイクの世界もいろいろ大変だなと思った。

萌歌の乗ってるエイプは100ccなので大型乗りからしたら玩具の乗り物と見下すような言い方をされるのだろう。

明日からGWがスタートするので、この大井川地域にも各地に住むライダー達がツーリングしにやってくるだろうから、少なからず排気量マウントをするライダーもいるではないか?と萌歌は思った。


「それはそうと、GWは仕事で大丈夫なの?今年は連休が長いんだから連休を取っても構わないわよ?」


涼子がそう言うと「2日も休めれば十分です」と萌歌は言った。

GWだからといってプロショップ各務原は通常通り営業する予定で、GWは意外にもツーリングで来るライダーがバイクのトラブルで駆け込みでやってくることが多いのでわりと稼ぎ時らしい。


萌歌はカレーうどんを食べ終えると、午後の仕事に戻った。

今日は、近所の人のスーパーカブ50の磨きとオイル交換作業で既に幸助がオイル交換の方を済ませてあるので、後は萌歌が綺麗に磨き上げれば完了だ。


この田舎ではカブを所有している民家が多いので、しょっちゅう修理や点検などの依頼がくる。

萌歌はスピーディーかつ丁寧にカブを磨き終えると、見違えるようにピカピカになったカブを近所の家まで自走で届けることになっている。


「店長、磨き終わったのでカブを返してきます」


萌歌がそう言うと「おう!気をつけてな!」と幸助は作業しながら右手を上げて言った。

萌歌はカブのエンジンを始動すると、5分程で着く近所の家までカブを運転していった。

普段リターン式を乗ってるのでクラッチレバー無しのロータリー式は多少違和感があるが慣れてしまえば案外楽に乗れる。


萌歌はカブを返却して料金を受け取ると、徒歩で職場まで戻った。

萌歌は国道362号線の歩道を歩いていると職場の近くの郵便局の駐車場に停まっていた2台のバイクと話し合ってるライダー2人の男女を見かけた。

わりと大きな声で話しているので、会話の内容がよく聞こえてきた。

萌歌はあるワードを耳にして思わず立ち止まった、男性ライダーの方が確かに「これって何cc?」と聞いている声が聞こえた。

萌歌は昼飯を食べている時の涼子との会話を思い出した、もしかしてアレが例の排気量マウントってやつなのではないかと。

女性ライダーの方は「250ccです…」と少し困ってるような感じで言ってるのが聞こえたので、萌歌は排気量マウントされてると確信した。

女性の乗ってるバイクはKawasakiのスポーツツアラー系で車体に250と書かれているからバイクに乗ってる人なら見ただけでわかるはずなのに、わざわざ聞いてくるのがいやらしい。

男性ライダーのバイクは、外車のリッターバイクだろうか?かなりゴツくて大きい感じに萌歌には見えた。

絡まれてる女性ライダーには申し訳ないが、仕事があるので萌歌は職場の方へ歩き始めた。

自分がバイクに乗ってる時にあんなナンシーおじさんに絡まれたら厄介だが、そもそも絡まれそうな所にたぶん行かないと萌歌は思った。


いや、待てよ?

こんな田舎で絡まれるってことは、他人事ではないのかもしれない…


「うーん…ナンシーおじさん恐るべし(笑)」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る