第9話 エンスト連発


「よし、ヘルメットとプロテクターはちゃんと着けたな。萌歌くんが乗る教習車は、このCBR400Kだ」


佐倉教官はシャッター付きの車庫から、CBR400Kという昭和末期の教習車として使われていたバイクでどんなに古い教習所でも令和のこの時代に使っているところは…おそらくここだけ…


「萌歌くんは、まだ15歳と言ってたな?つまり免許を取るのも初めてというわけだが、クラッチやシフト操作を聞いたことはあるかい?」


佐倉教官に聞かれてたが、当然MT車の構造なんて全くしらないので「全くわからないです」と素直に答えた。

佐倉教官は、スタンドをはらって乗車するとミラーの調整をしてメインキーをONにしてセルでエンジンを始動した。


「萌歌くん、いいか?まず発進のやり方を見せる」


佐倉教官は、ひとつひとつの手順をゆっくり説明しながら見せてくれた。

まずは左手でクラッチレバー、バイクがわからない人に説明するならば自転車の後輪ブレーキのレバーがバイクのMT車ではクラッチレバーになっている。

クラッチレバーを完全に握り、左足のステップにあるシフトレバーを下に一回踏み込むとギアがローに入る、つまり1速だ。

バイクのMT車は基本的にリターン式と呼ばれるシフト操作が一般的となっていて、シフトレバーを踏み込むとシフトダウン、逆に下からつま先でレバーを持ち上げるとシフトアップとなっている。

ギアの配列は1速→N→2速→3速→4速→5速となっていて1速と2速間がニュートラルとなる。

佐倉教官は発進の流れをスムーズに操作して、萌歌に見せながら説明した。


「私はクラッチを切ってシフトをローに入れた、スロットルを少し開けて回転を少しあげてクラッチを少しずつ繋いで行くと車体が進み始めただろう?これが半クラッチという繋がり始めるところだ!このままゆっくりクラッチを完全に繋いでスロットルを開ければバイクは走り始めるぞ」


佐倉教官は流れを説明すると、軽くコースを走って萌歌の前で停車した。

バイクのエンジンを切って、バイクから降りると萌歌に手順通りやるように言った。

萌歌は説明を聞いた通りに周囲を確認してバイクのハンドルをしっかり両手で持つとスタンドをはらってバイクに跨ったが、両足が着かない…

右足をステップに置いた状態でようやく左足が踵が少し浮いて足が着くといった感じだ。

萌歌はミラーを調整するとメインキーをONにして、ニュートラルランプが点灯してることを確認するとクラッチレバーを握ってセルでエンジンを始動した。


「萌歌くん、シフト操作するのに地面に着く足を切り替えられるかい?」


佐倉教官に言われて、右足を地面に着いて左足をシフトレバーになんとか切り替えるとギアをローに入れた。

萌歌は再び左足を地面に着いて、右足をステップに置くとクラッチを繋いで走り出そうとした瞬間にストンとエンジンが止まってしまった。

萌歌があたふたしていると佐倉教官が言ってきた。


「それがエンジンストール、いわゆるエンストと呼ばれるものだ。先ほどの萌歌くんは少々クラッチを繋ぐのが早すぎたのとそれに対してスロットル開閉が伴っていなかった」


萌歌は佐倉教官に言われた通りにギアをニュートラルにしてクラッチを握ってセルでエンジンを再始動した。

再びギアを1速に入れると発進しようとクラッチを繋ごうとしたら、またストンとエンストをした。

それを5回も連続で繰り返してエンストしてしまった。


「うーん…感覚がわからない…」


萌歌がそう小声で呟くと、佐倉教官がダメな点を指摘してくれた。


「萌歌くんはクラッチを繋ぐのが早すぎて半クラッチを適度に使えてないんだ、スロットルを少し開けつつゆっくりクラッチを繋いでいって走り始めたら回転が落ちるからそこでクラッチレバーを数秒間キープするんだ」


萌歌は「はい、わかりました」と返事するとクラッチレバーを握ってエンジンを始動すると、ギアをローに入れてスロットルを少しあけつつクラッチをゆっくり繋いでいくと回転が落ちて進み始めたのがわかった。

萌歌は数秒間半クラッチの状態をキープすると、「よし、もう完全に繋いでいいぞ」と佐倉教官に言われて萌歌は完全にクラッチを繋ぐと見事に発進に成功した。


「よし!ローのまま少しだけスロットルを開けてゆっくりコースを回ってくるんだ」


佐倉教官がそう言うと、萌歌は言われた通りにコースをふらつきながらゆっくり1周して戻ってきた。

萌歌は佐倉教官の近くまでくると「よし、スロットルを戻してクラッチを切れ!」と言われたのでクラッチを切って停車した。

速度が全然出ていないのでブレーキを使う必要がない。


「どうだ?まだローでしか走ってないがバイクは楽しいだろう?よし、今日はさっきやった外周をあと2、3周やったら終了だ!さぁ2周目行って来い」


佐倉教官にそう言われると、萌歌は2周目に入った。


結局、3周したところでチャイムが鳴って本日の萌歌の技能講習はおわった。

萌歌は佐倉教官に「初日にしてはよく頑張った」と言ってもらえてエンストを5回もして凹みそうになったが嬉しかった。

佐倉教官から次回の予約をしてから帰るように言われたので、萌歌はヘルメットとプロテクターを元の場所へ戻すと最初に受付をした事務の方へ向かい、次の教習の予約をして幸助の軽バンを停めた駐車場まで向かった。


「おっ、萌歌おつかれ!初日の教習はどうだった?見てたわよ〜、萌歌エンスト連発してたでしょ〜?(笑)」


教習が終わって戻ってきた萌歌にいじわるをしたくなった愛琉は、1番見られたくなかったエンスト連発のシーンを指摘されて顔を真っ赤にするほど恥ずかしかった。


「は、初めてなんだからしょうがないじゃん!」


萌歌はムキになって言うと、愛琉と幸助が笑っている。


萌歌は思った。


次からは1人で教習所に来よう…



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