第7話 廃業寸前の自動車学校

3月25日の7:00。

誕生日が4月23日の萌歌は、教習所に入校する条件を満たしたので、職場のバイク屋が休業日ということで店長の幸助と共に近くの教習所に入稿手続きに行くことになった。

家の方に幸助が軽バンで迎えに来てくれることになっているが、まだ時間に余裕がある。

教習所に持っていくものを再確認していると家の固定電話に着信が入った。


『もしもーし、萌歌?アタシ、愛琉だけど…今って電話大丈夫?』


電話をかけてきたのは愛琉だった。


「少しなら大丈夫だけど…私、これから教習所に行くだら」


萌歌が教習所に行くと言った瞬間に、愛琉の声のトーンが一気に上がりめちゃくちゃ食いついてきた。


『え!?もしかしてバイクの免許取るの!?ちょっとちょっとぉ、そういうのは私にも教えなさいよー』


愛琉のこの様子だと絶対に入校についてくると思った萌歌は愛琉のことを誘ってみた。


「声が大きいよ…愛琉ちゃんも来る?職場の店長に送ってもらうことになってるから来るなら早く来りんね」


萌歌がそう言うと「今からすぐ行く!」と愛琉が言うと電話を切った。

電話を切ってから10分程経った頃、店長の幸助が迎えにきた。


「おはよう、萌歌ちゃん!準備はできてるかな?」


幸助が聞いてきたので、萌歌は従姉妹の姉が今から来て一緒に教習所に行くらしいので少し待ってほしいと言うと「初耳だ、従姉妹いるのか!?」と驚いている。


電話を切ってから30~40分が経った頃に愛琉がCB750FOURで良い音させながらやってきた。


「お待たせー!待った?……もしかして萌歌の職場の店長さんですか?はじめまして、従姉妹の二階堂愛琉と言います」


愛琉は幸助に挨拶をすると、幸助もペコペコと頭を下げて挨拶をした。


「はじめまして、各務原幸助です。プロショップ各務原という小さなバイク屋をやってます。君が萌歌ちゃんの従姉妹のお姉さんか!いやーめちゃくちゃ美人だね!しかもシーナナに乗ってるなんて良い趣味してるねぇ」


幸助に褒められて「いやぁ、ただのバイク馬鹿ですよぉ」と照れている姿を見て、単純な人だなと萌歌は思った。

愛琉も来たということで、バイクは萌歌の家の庭にカバーをかけておくことにして3人は幸助の軽バンで教習所へと向かった。


国道362号線をプロショップ各務原より下ったところに本当に教習所としてやってるのか?と不安になるくらい古い教習所が見えてきたので幸助は教習所内に左折して入っていった。


「え…ここの教習所ほんとに大丈夫??」


思わず愛琉は不安そうに言いながら教習所内を見渡している。


「おいおい、ここの教習車マーク2使ってるじゃないか…いくらなんでも古すぎるぞ…」


幸助の方を一気に不安になってしまったみたいだが、とりあえず3人は入校手続きをするために教習所の中へ入っていった。


待合室には5人くらいの高齢の人達が、高齢者講習待ちをしていて若い人がいる様子はない。

萌歌は住民票や身分証明書を持って受付に行くと、還暦過ぎくらいの女性の事務員が対応してくれた。


「あら、こんにちは。随分と若い子が来たわねぇ、ここは高齢の人ばかりだから…普通車の教習?それとも普通二輪車?」


事務員のおばさんは普通車か普通二輪車のどちらを受けるか聞いてきたので、萌歌は普通二輪車と告げる。

愛琉は申し込み用紙の教習車両一覧を見て衝撃を受けていた。


「え?ここって普通車、普通二輪、大型特殊しかやってないんですか?」


愛琉が事務員の人に聞くと、ここの教習所は入校者が非常に少なく高齢者講習がほとんどなので普通車、普通二輪、大型特殊の3つしかやってないらしい。

もっと驚いたのが普通車と普通二輪のAT限定教習を行っていないことだ。

バイクならともかく、AT車の普及率が9割を占めている令和の時代にAT限定はおろかAT講習すらやってない教習所なんて全国的に見てもおそらくここくらいだろう。

大型特殊に関しては自然災害の影響を受けやすく土砂崩れがある大井川流域では確かに必要になってくる免許かもしれないが、一般の人はほぼ取得しないだろう…


「早速、写真撮影を行うから轟さんはこっち来てもらえるかしら」


事務員のおばさんに言われてついていくと、個室で教習手帳に貼る写真を取った。

その後に視力検査をして、両眼とも2.0の彩葉は余裕でクリアするとまた違う個室に連れて行かれた。


「本当はちゃんとした適性検査をやるんだけど、時短するためにこの簡易的な検査をやるわね」


事務員のおばさんはそう言うと萌歌に学校のプリントくらいの紙を渡してきた。

そこには運転する上で基本的な知識に関することで、萌歌が運転に適しているか確認する簡易テストだ。

萌歌はササッと紙に記入して事務員のおばさんに渡すと「はい、オッケーね」と軽いノリで検査は修了した。


「うちの自動二輪の教官は1人しかいないんだけど、そもそも教習生は轟さんしかいないから今からでも技能講習やっていく?」


事務員のおばさんにそう聞かれたので「お願いします」と言うと、普通二輪コースの近くで待っているように指示された。

とりあえず萌歌は幸助と愛琉がいる待合室の方へ戻った。


「これから早速、初教習受けてきます」


萌歌は幸助と愛琉にそう言うと、愛琉は「終わるまで待ってるねー」と言いながら外の方に出ていった。


萌歌は普通二輪の準備室の方に行くと、貸し出し用のヘルメットとプロテクターが置いてある。


「意外と綺麗にしてるじゃんね」


そう呟きながらヘルメットを眺めながらしばらく待っていると、突然後ろから誰かに話しかけられた。



「君が、轟 萌歌くんかい?」

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