第2話 プロショップ各務原
自宅のある青部駅を通り過ぎて、祖父が生前働いていた職場までは自転車で30分程だ。
萌歌は休むことなくほぼ立ち漕ぎで自転車を走らせたので25分と少し早めに着いた。
「おじさん、こんにちは」
萌歌の祖父が働いていたのはプロショップ各務原という小さなバイク屋で、元々浜松市の三ヶ日町本坂に住んでいた祖父や両親だったが萌歌の父は茨城の極道一家の長男で家業を継ぐつもりがなかった父は親に反発して絶縁されて当時交際していた萌歌の母の実家の婿養子となったが、同じ極道一家を破門にされた男に幸せなカタギの生活を手に入れたことを嫉妬され両親は萌歌が1歳の時に殺害されてしまい、それ以降祖父と2人暮らしで逃げるように榛原郡川根本町に流れてきた。
「おぉ!萌歌ちゃんか!今日はどうした?」
各務原幸助、48歳ながら夫婦で小さなバイク屋を営むプロショップ各務原の店長。
祖父の宗次郎と萌歌が榛原郡に流れ着いた時の姿が普通の雰囲気ではなかったので、幸助が声をかけたところ宗次郎が自分達に起きた悲劇を話すと幸助がこの地で生活できるようにいろいろ力になってくれた。
宗次郎自身が元々バイク屋で勤めていた経験があることを知ると、幸助は即戦力で働いてくれると思ったのか宗次郎を自分のバイク屋で働かないかと誘ってみたところアテがなかった宗次郎は迷わず了承して病気で亡くなるまで孫娘の為に精一杯働いた。
「おじさん、中学卒業したらここで働かせて下さい!」
萌歌のその言葉に幸助だけでなく妻の涼子も驚いた。
「萌歌ちゃん!?高校に行かずに働くってこと!?」
妻の涼子は慌てて萌歌に近づいて両肩に手を添えながら言った。
身長145cmで体重は32kgとかなり小柄で、祖父の宗次郎が亡くなってから痩せたような感じがした。
萌歌の外見は亡くなった母の萌にそっくりで、2重の目元で童顔なところはどちらかというと父の歌寿に似ている。
「私には頼ることが親族が誰もおらん!唯一相談できるのは、おじさんとおばさんだけ」
萌歌の言葉に夫婦は黙ってしまった。
大事な中学3年生の時期に親どころか親戚すら頼れない少女になんて言ったらいいのかわからなかった。
「奨学金を借りることはできないのか?今の時代高校くらいは出ておかないと就職にほんと困るぞ??」
幸助もろくに勉強はしてこなかったタイプだが、一応高校は最低限出ているし妻の涼子は専門学校を出ている。
令和というデジタル社会を生きていくのに中卒では不安要素しかない。
「奨学金を借りてまで進学は考えておらんし、そもそもお金がないじゃんね」
萌歌の決意は固かった。
幸助は萌歌の眼を見た、宗次郎を誘った時と祖父と同じ眼をしている萌歌を見て幸助は決めた。
「…よっしゃ!萌歌ちゃんがそこまで覚悟決まってるならもう何も言わん!中学卒業したらうちで働きな!ただ、仕事をするってのは大変だぞ?最初はほとんど雑用ばかりだがそれでも大丈夫だな?」
幸助が少し強めの口調で言うと、萌歌は「よろしくお願いします、店長」と深々と頭を下げた。
話をしている間に今日の営業時間が終了したので、店を閉店する準備に取りかかった。
「萌歌ちゃん?せっかくだし今日はうちで晩ごはん食べて行きなさいよ」
妻の涼子がそう言うので、ありがたくご馳走させてもらうことになった。
萌歌は中学卒業と同時に就職先が決まった。
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