第32話 真☆解説編~ウソを信じ込ませるには、真実の中に紛れ込ませるに限る~
──リィノに撫でられること数分。
「あ、いたいた。セオ、リィノ、こんにちは」
ニッキーの声がする。
俺とリィノは声がする方に目を向け、声が聞こえたのという合図も込め、軽く手を振る。
「ええ、こんにちは」
リィノが俺が何も言わずに会釈するようになったよ。成長したなぁ。
「こんにちは、ニッキー……それに、ユルネ」
「ああ。この前のお茶会以来だね、カラス」
ユルネは俺たちがプリンケプスに来て一年未満の新人だと知ると、積極的に事務所まで訪問しては、リィノに愛でに来ている。
何か魂胆のありそうな接し方をしているが、実害はないし、リィノが楽しそうなので、俺は様子見することにしている。
……友だちなのかもな。
エルフとハーフリングは、この
ま、リィノに女友達ができるのはいいことだ。
人格形成には、同性の相手必要不可欠なところもあるからなぁ。異性のカラスだけじゃ、女の子のデリケートなところまでフォローできないしぃ。ちょっとさびしいけど、リィノの成長を心より願っている俺的には喜ばしいことだ。
あと、女の子同士が楽しげに話す光景は尊いものですよ。
思わず、見入っちまったぜ☆
「おや、あんたら、普段着のままなのかい?」
言われてみれば、ニッキーもユルネも普段のものとは少し違っていた。
ニッキーは帽子だけだけど、形こそどこにでも売っている普通のものだけど、キラキラパーティーモール的なものが巻き付いて、光っている。
ユルネは服全体にキラキラパーティモール的なものの他にもオーナメント的なものもつけて、ものすごくキラキラしている。
人間クリスマスツリーかな。
「俺もリィノも星の海感謝祭はどういう祭りなのか知らないからな。こういうキラキラしたものをつけるのが、流儀なのか」
カラスの、俺の中のカラスの本能が刺激される。
「そうだね。このキラキラは、我々は今日帰ってくる霊魂たちを心から歓迎しています、という意思表示みたいなものだからね」
「へ~」
そういう祭りだったのか。
文化圏が違うと、考え方が違うのはよくあることだから、その地域独特の催しの意味や意思、装飾に対しては、鵜呑み一択だ。
「それにしても、よくこんなにキラキラしたものがあるね」
サイリウムか?
光る魔力の粉でも、振りかけているのかな?
「カラスは洋服店に行っていなかったから知らなかったのようだねぇ」
「あ~、セオの生活圏には見当たらなかったのかもね。ここ最近調査書を夢中で、遠出も気分転換もしていなかったようだから」
……ああ、うん。俺の行きつけの食堂や食品売り場には、小物類が一切置かれていないからな。
道具屋に行っていたら、ニッキーの帽子みたいなものが売られていたかも。
「そう思って……セオ用にと、こういうもの持ってきたけど、つけてみるかい」
ニッキーがポケットの中から取り出したのは、キラキラをふんだんに使った王冠のような頭飾り。
「え、いいの」
しかも、俺好みの青と黄色。
思わず身につけたくなる配色だよ。
「いいよ。いいよ。日ごろからお世話になっていることだし」
「じゃ、遠慮なくお願いしまぁす」
頭飾りをニッキーに着けてもらう。
お祭りテンションが上がる、上がる。
「……」
リィノが羨ましそうにこちらを見つめてくる。
そうだよね。
カラスの俺でさえ、普段しないお洒落をしてみたくなるほどだ。
リィノなら、もっとかわいくてきれいなものを着るチャンス。
そのチャンスをものにしないでどうする。
「祭りの衣装をレンタルしてくれる店とか近くにあるか?」
今から購入するのは財布の中身的に厳しいのと、こういう場合は一式見繕ってくれる店の方が悩みが少なくて済む。
今年は軽く感覚をつかむぐらいで、お気楽に、雰囲気に溶け込みたい。
「ああ、それなら少し遠いがあっちにあるねぇ。せっかくだし、リィノもおめかししないかい」
自然な誘導、ありがとう、ユルネ。
「そ、そうね。そうする」
俺の姿をチラチラと何度も見てから、リィノはユルネについていく。
リィノのおめかしが終わるまで、野郎二人はお姫様たちのお帰りを、このままベンチで待つとしますか。
それに、ニッキーには言いたいことがあるし、ね。
「ねぇねぇ、ニッキー」
俺はくちばしで先ほどまで読んでいた新聞をつつく。
「そうだね……セオには下手に隠し事をせず、答えたほういいよね」
俺のその仕草を見たニッキーは俺が言い出したいことが何かを察したのか、困ったように笑うと、長い話になるだろうとベンチに腰かける。
訓練されているなぁ。
まぁ、ご飯をおごるってところから、ある程度俺も察していたけど、さ。
多少危険な橋を渡ることになっても、答え合わせは、しておきたいのさ。
「新聞記事を鵜呑みにするわけないだろう」
そもそもポルックスは、真珠のネックレスを回収せず、捨てていたじゃん。
そのおかげでユルネと出会えたわけで。
「と、いっても、新聞記事に書かれている事実が、プリムス王国の人々には都合のいいことなのだろう」
でもまぁ……事実をそのまま書かれたら……ただの醜聞にしかならないだろうから、新聞記事の内容のままでいいと思うよ。
俺もなんだかんだ言って、汚い大人なのよ。
多少のごまかしは目をつむるよ。
「……セオは察しがいいな」
否定も肯定もしないということは、俺の違和感はやはり真実に近いということか。
「ま、今は表に出せなくても、ちゃんと記録として残しているのだろう」
プリンケプス警備隊基地でも、俺の知らないどっかの機関の倉庫に眠っている状態でもいいのだ。
「ああ」
「そうか。それならいいさ。俺はアルカナム興信所調査員として必要な事実は……アルカナム・ポルックスはクーニー・サズオクベを吸収したことと、その弱点は毒であること」
クーニーの個人情報、とくに身体能力に関するものや、彼女の死因である毒の種類と成分は教えてもらった。
特にニッキーがポルックスを倒したときの状況は事細かく、図解付きで調査書に記載し、アルカナム興信所本部に提出した。
俺の仕事的には、完璧に近い。
「クーニーが殺害された背景……とくに、誰がどのタイミングで殺したかなんか、俺たちには問題も関係もない」
クーニーが殺された場所には、おそらくジェミニ海神殿。
殺人犯は、冒険者仲間の二人──エスメ・セイシーギとムスリ・ネッロス──のどちらかだとは思うよ。
そりゃ、黒幕は新聞に書かれている某氏ことメナイヨロンでいいよ。ただ、秘密裏に毒を購入していたのではなく、暗殺の依頼をしていた、というのが正しいだろうよ。
なぜなら、ニッキーは……ポルックスを毒針で刺して、倒したからだ。
新聞の推測通り、紅茶に入れた毒で殺害したのなら、毒針ではなく、毒入り紅茶を持ってくるよ。
それをポルックスに浴びせれば、口にしなくても、皮膚にある程度吸収されるわけで。毒針攻撃よりも安全に、楽に、倒せるはずなのだ。
俺とて、ニッキーが不意打ちして、毒針で攻撃した時点で、ある程度の【縛り】を感じてはいたよ。
だけど、リィノの身の安全や、ポルックスの捕獲のほうが優先順位が高いから、後回しにしたのさ。
俺にとってなぞ解きは、好物だが、大事なものを見失うほど、夢中になるべきものじゃない。
守りたいものを守った上で、手を付ける……本気の趣味だ!
「プリムス王国の社会的にもっとも都合がいいのがコレなら、よそ者の俺たちは出しゃばる必要はない」
越権行為はお呼びじゃないのよ。
「ただ、ポルックス自身がしゃべりだした時の責任はとらないけど」
ポルックスは性質上クーニーが殺されるところを目撃しているのだ。
ウソをつくことも沈黙することも選べるとはいえ、そう遠くない未来に教会から脱走とかして、娑婆に戻って、嫌がらせで言いふらすって可能性は無きにしも非ずってことだ。
それが原因で、社会情勢が混乱したとしても、アルカナム興信所は責任を一切負わないということだけは、ここではっきりさせておく。
「……本当にセオは察しがいいな」
苦笑するニッキー。
そりゃ、真相自体は察せられる範囲だったよ。
沈黙を選んでやっても良かったよ。
でも、言葉にしておかないと、心が落ち着かなかった。
だから、言ってやったのさ。
この件で変に罪悪感を覚えて、プリンケプス警備隊の言いなりになるのは、ごめんだからね。
線引きはちゃんとしておかないと、後々苦労するものさ。
「ま、こういう大人の事情もあるから、俺たちアルカナム興信所は、プリムス王国で特殊扱いされるわけさ」
一枚岩じゃない、複雑な異世界。
俺的には楽しめるから、悪くないと思っているよ。
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