第31話 解説編~カラスの目で見る、星の海感謝祭~
身元不明の老婆遺体事件が解決して、数日後──星の海感謝祭でひと際にぎわっているノームロードの時計台前に、俺とリィノは待ち合わせをしていた。
なんでも、ニッキーが事件解決のお礼で、屋台の食べ物をおごってくれるとか。
デートかな。
「ま、ただ飯にありつけるうえに、星の海感謝祭の過ごし方を実地で教えてくれるなんて、ありがたいよね!」
仮にデートでも、断るなんて選択肢は存在しないと、俺は堂々と言えるよ。
それに……祭りの流儀は地域によって多少違う所があるからなぁ。
差しさわりのない行動には、ちょっと自信があるけど……教えてくれるという機会を逃すほどの、たいそうなモノじゃない。
あと、地元由来、地元独特の楽しみ方っていうニュアンスが単純に好きってところもある。
俺の胸はときめいているよ。
「セオはただ飯が好きよね、どうして?」
幼子のようにコトリと首をかしげる仕草のリィノ。
今日も、かわいいね!
「リィノ、それはね……ただ飯ほどおいしいものはないからだよ。値段を気にせず、好きなものを、好きな人たちと食べる……これ以上の物はそうそうないね」
思い出、プライスレス。
「ふ~ん……待つことになっても?」
約束の時間より早く来たからなぁ。
「待つという行為を楽しめばいいだけだよ、リィノ。ほら、あのベンチなんかいい感じじゃないか」
リィノは俺の言われるままにベンチに腰かけ、俺はその太ももに行儀よく座る。
そして、待ち合わせ時間の暇つぶしにと、先ほど買ったプリンケプスの情報が詳しく載っている、プリンケプス・タイムズ──いわゆる地元新聞を広げる。
短時間でできることと言えば、活字を流し読むのが定番だからな。
「さあって、どんな話題が記事になっているかなぁ」
「セオは新聞を読むの、本当に好きね」
他人の評価なんてどうでもいいを地で行くリィノにしてみれば、事件の結果も世間の好奇も、知る必要がないと、気に留めないどころか、調べようともしないからな。
「まぁね。一応、俺たちの生活基盤であるプリンケプスのことだけでも、知っておいて、損はないから。むしろ、お得だよ」
「セオがそういうなら……少しは読もうかしら」
ポルックス戦で何があったのか、リィノは少しこの街の情報に興味を示すようになった。
いい傾向だ。
「うんうん。じゃ、一緒に読もう」
リィノはそのままでも読めるだろうけど、俺はいつもの言語翻訳を発動させた。
新聞記事の見出しは──
クーニー・サズオクベを吸収したポルックス
ジェミニ海神殿の遺跡探索は成功していた? ポルックスとは気がつかずに道具袋に紛れ込んでいた!
クーニーを殺していたのは、ひと月前変死していたホーラ治定団の古参幹部?!
──と、この前の事件のことが一面に書かれていた。
気になる内容は、というと……時空系のトラップを無効化する利点があるとはいえ、魔力を放てないという弱点がある魔術師の女が、ホーラ治定団の上層部に入ることを兼ねてから良しとしていなかった、当団のご意見番メナイヨロン氏……もう某氏でいいや。
いちいち覚えて読むの、面倒臭いし。
ふむふむ……この某氏が一連の事件の発端だとされているな。
どこの世界でも、世間様に迷惑をかける老害は生息しているらしい。
と、俺は失礼なことを思いつつ、記事を読み進めた。
──プリンケプス警備隊の発表によると、某氏はクーニー殺害時に、秘密裏に毒を購入していたそうだ。
クーニー氏を呼びだした際、紅茶に毒を入れ、飲ませて殺したのではないかと推測される。
道具袋に紛れていたポルックスは居合わせてしまったために、クーニー氏を吸収したと同時に、某氏を殺害。
その殺害方法は心臓だけを老化させるというもの。奇天烈な発想だが、クーニー氏は新しい呪いのアイテムとして、サズオクベ家内では報告済みだったのを考慮すると、潜在能力を百パーセント使いこなすポルックスならば、できて当然だったかもしれない。
その後、某氏から数えて七親等まで祟ろうとしたと同時に、女傑ミテルマの肖像画をノスタール氏が購入しようとしているのを知る。
女傑ミテルマとその右腕クモモによって、ポルックスは力を失ってジェミニ海神殿に封印されていたのは、皆さんご存知の通り。
目覚めたポルックスはクモモ自身には勝てなくても、せめて嫌がらせだけでもしようと、女傑ミテルマの肖像画に目をつけた。
丁度クーニー氏の仕事の関係で、肖像画の売却者であるモノロギ氏の邸宅に行く予定だったので、そのまま何食わぬ顔で訪問。
すると、ポルックスはメイドの一人にターゲットがいることに気がつく。メイドの名はガーデニア・セイシーギ 。某氏とは、一応親戚関係となるが……某氏の母親の従姉の息子の娘という遠縁であった。
ポルックスはモノロギ邸の女亭主エジーナ・モノロギ氏に幻術をかけ、秘書として常に側に置き、自身はエジーナ氏に成り代わった。女亭主という身分を振りかざし、ガーデニア嬢を精神的に追い詰め、ある犯罪に加担させる。
それが、女傑ミテルマの肖像画窃盗事件と身元不明老婆遺体遺棄事件の真相へとつながるだ。
ガーデニア嬢に老化ガスを浴びせ、見た目肉体年齢とも、エジーナ氏と同じにする。変装道具を使用して、偽物へと仕立て上げた。
ノスタール氏に女傑ミテルマの肖像画を売らせた後は、今度は老衰死するまで老化の呪いを付与した老化ガスを浴びさせ、殺害。
遺体は放置し、老化ガスを噴出する腕時計と、老化ガスを無効化させる効果がある真珠のネックレス、そして肖像画を売ってできた大金を回収したという。
女傑ミテルマの肖像画を合法的に取り戻し、従神クモモに嫌がらせを行うと同時に、共犯者のガーデニア嬢を祟り殺した。
ノスタール氏からせしめた金を、モノロギ邸への迷惑料にすると考えたのは、関係ない第三者を巻き込んだことによる運命力によるペナルティを緩和させようとしたからだと思われる──。
「ふ~ん……」
後は、俺が実際体験してきたことが、ダイジェストで書かれている。
そこら辺は飛ばしていいな。
「封印札によって力を失ったアルカナム・ポルックスは教会に保管されている……ここまでは俺もリィノも知っていることだな」
「ええ。ポルックスの復讐代行を停止させる方法は教会しか知らないらしいわ」
なお、教会自体、クモモが人間だった時代はなかった団体だという。
詳しく知らないけど、アルカナムによって引き起こされる【暴走】に対する救済措置は、時代によって多様化したそうだ。
「あと気になるところは、これかな?」
俺は女傑ミテルマの肖像画の所在について書かれている記事を読む。
記事からすると、お金はノスタール氏に、女傑ミテルマの肖像画はモノロギ氏の元に戻ったそうだ。
だが、改めてソフィア・ノスタールは当初の二倍の値段をつけ、モノロギ氏に交渉、そして購入。女傑ミテルマの肖像画は、晴れてノスタール氏の所有物となったそうだ。
二倍の値を付けたのは、おそらく、価値上昇のきっかけを作ったお礼と、迷惑料が入っているのだろう。
「まぁ、いろいろと事後処理は大変そうだけど……なんとかなるだろうな……」
俺は俺の役割をこなし、事件を解決させた。
後、ちっぽけな俺にできるのは、上手く収まればいいと願うだけだ。
(そう、だよな……)
俺はふと新聞から目を離し、星の海感謝祭で普段よりもにぎやかな広場を見つめる。
その中で、俺の視界の中では、一際目立っていたのは、肩だしのワンピースを着る少女だ。
少女の右肩には、つい最近見たことがある三つのほくろがあった。
少女は俺の視線に気がついたのか、微笑んで手を振った。
そして、その少女の手を、誰かがつかむ。
冒険者らしき親子ほど年の離れた女性の腕だった。女性の顔はどことなく少女の顔に似ている。親子ではなくても、血縁はありそうだ。
少女にとっても見知った相手というか、親愛なる人物なのだろう、安心した表情を女性に向け、改めて腕と手をつなぐ。
二人はこれから祭りを楽しむため、見て回るつもりなのか、雑踏の中へと消えていった。
『ありがとう』
と、いう文字を宙に浮かばせて……。
「ま、この結末で当人たちが納得しているなら、俺は口うるさくツッコまねぇよ」
これが彼女たちの救いなら、いいのだ。
俺は少しだけ誇らしげな気分になる。
「ん、急にどうしたの、セオ」
俺の独り言は思った以上に大きかったらしい。
「いや、何でもないよ、リィノ。ただ、ちょっと気になることが一つ解決したってだけだ」
羽毛百パーセントの体をリィノの膝に擦り付ける。
よし、この愛くるしい姿で、ごまかすぞ。
「セオがそういうなら」
新聞に目を通し終えたのか、リィノは新聞をたたみ、俺をモフモフしだす。
ん~、手つきはまだ微笑ましいけど、一生懸命なのが伝わってくるよ。
ニッキーたちが来るまで、俺はリィノにひたすら撫でられるのであった。
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