第27話 ああ、情報収集~必ず、結果はついてくる~
「私にとって、エジーナの正体についてはどうでもよかった。ただ、事件に関わっている……それだけで、ボコボコにする理由にはなる」
「短絡的だな」
脳筋発想だとわかっている。
事実、昨日のうちにとっとと締め上げて吐かせようとも思った。
でも、パートナーのセオは事件について詳しく調べるべきだと、言わんばかりに、ニッキーの案内の元、リィノをいろいろと連れまわした。
リィノ的には、こんな手間暇をかける必要性があるのかと、何度も思ったのだが、セオは生き生きと目を輝かせて行動しているのだ。それを曇らせるのは忍びなかった。
それに、セオが悩みつつも、真実に向かおうとする、その過程と姿勢……時間が許す限りは協力してもいいぐらい、魅力的なのだ。
だから、リィノはパートナーのセオが納得するまで、強行手段をとらないで、共に事件を調査して、現場に付き添うと、心に決めているのだ。
「でも、あなたはエジーナに上手く化けていた。私があなたをヒトと誤認していたままだったら、正直侮っていたと思う」
白い煙の効果、老化するというモノをもろに浴びていたら……エルフであるリィノは致命傷を負うことはないだろうが、混乱は必須。
態勢を再び整えるほどの時間を、ポルックスが与えるわけがないので、敗北は必定だった。
今までの調査が全く無駄ではなく、役に立っていることを、必要であったことを、リィノは認めている。
やっぱりセオはスゴイと誇らしい気持ちにもなる。
「やはり、調査は大事。セオの言う通りだわ」
リィノは白い煙の呪法効果が切れたのを、感知すると、動き出す。
防御に集中している間、とくに全体に魔力を迸らせるのは、いくら得意でも疲弊はする。
それに、煙の中から相手を見つけて攻撃を当てるなんて芸当、リィノの身体能力ではきつい。
それはクーニーというヒトの形を保っているポルックスも同じようで、白い煙が晴れるまで、口以外は動いていなかった。
「ふん。てめーの力、ある程度は認めてやるがよぉ」
サズオクベ家のエリートの肉体が弱いわけがなかった。
クーニーは冒険者として、ジェミニ海神殿という凶悪なトラップがはびこるダンジョンに挑戦できたぐらいの逸材なのだ。
彼女が愛用していたと思われるムチを取り出すと、ポルックスは自在に動かす。
「俺の目論見がすべて外れたなんて、甘っちょろいことを考えるなよ!」
パリン、パリン。
何かが砕ける音がする。
薄暗い部屋の中だから見えにくいのか、背景に溶け込んでいるのか、はたまた透明なのか……破壊された魔力によってできた衝撃波をムチの先端にのせて飛ばしまくってくる。
「……!」
魔力感知をもつリィノでやっと気がつく、不可視の衝撃波。
サズオクベ家が所有する呪いのアイテムの一種なのか。
クーニー自身の特殊能力か。
「人間技じゃない?」
「いいや。人間技だぜ。俺様は吸収したヤツの潜在能力を引き出せるからな!」
「……そうだったわね」
ポルックスは吸収した人物の力を上乗せすることはできないが、その代わり、その人物のすべてを知っているのだ。
普段、肉体の損傷を考えて、三十パーセントしか出さないのを肉体能力を軽々と百近くまで引き出すことはもちろん、本人さえ知らなかった才能も開花させる。
たかが人間の体と侮ってはいけない。
十全の力を使いこなす……人間ではありえない、怪物。
ポルックスに吸収された時点で、人間ではなく、神話級の化け物へと変わったと認識したほうがいい。
「カストルじゃないのが、不思議だったけど」
「あ~。カストルはなぁ……俺様が吸収したヤツの中で使い勝手がいいし、一番強いよ。正直カストルの方がいいぜ。でもなぁ~、てめーら、対策とってるじゃねぇか。有名になるつうのも、つらい、つらい」
苦々しく表情を歪める、ポルックス。
痛い目を見たのか……。
(そういえば、ポルックスの欠点に、吸収した人物の死因が弱点になるっていうのがあったわ)
斬首されて殺された場合は、斬首されると一発で動けなくなるというが……そもそも斬首自体が難しいので、弱点としてはほぼないに等しい。
だが、体の特定の一部、アキレス腱やら心臓部を射抜かれて殺された場合は、ソレに準じた攻撃を受けると大ダメージを受けることになる。
同じことは火刑にも言え、炎を使った攻撃に弱くなる。
(カストルの死因は、魔力を使いすぎたための過労死)
戦死の中では特別珍しいことではない。
だが、過労死した体に、矢がたまたま心臓に突き刺さったので、心臓が弱点と誤認されていた。
伝説によると、心臓を貫かせて、油断しているところを殺したこともあったという。
三階の絵画に描かれていた、ミテルマとクモモとの決闘では、その仕組みがバレて、持久戦の末に、魔力切れを起こし、起動停止。
そして、封印されている。
(魔力を吸い取るアイテムや魔法に弱いってことね……)
ミテルマとクモモのように持久戦に持ち越すという手もあるが、今の時代なら、魔力を吸い取る方法を選ぶだろう。
現にそういう戦い方も確立されている。
過去の戦いを学ぶことで、解決策を練るのは、当然といえば、当然。
ジェミニ海神殿を探索する際、ポルックスの封印が解かれる可能性も考えて、準備していた関係者がいても、おかしくはない。
(ポルックスがクーニーをいつ吸収されたのかも、そんな戦い──カストルだと危うく負けるところだったけどクーニーでやり過ごした──が、いつあったのかもわからないけど、おそらく最近のこと)
魔法を使った派手な事件を聞いたことがないが……そもそもリィノはプリムス王国の事件に全く興味がないので、自分が知らないだけなのかもしれない。
(セオに聞かなきゃいけないこと、増えた)
不可視の衝撃波を避けつつ、リィノはポルックスへと近づく。
もともと風の加護を受けているリィノは、常人よりも早く動ける。
さらに鍛錬を積んだことによって、人間の潜在能力をすべて引き出しているポルックス相手でも、集中すれば、目で追えなくなっても、魔力がない人間はいないので、魔力感知でだいたいの位置が特定できる。
「そこ!」
リィノは思い切って、ポルックスの胴体めがけて杖でスイング。
「ちっ、思った以上にすばしっこいな、クソエルフっ!」
大振りになってしまったからか、すぐにポルックスが対応したからか、結果は杖先がわき腹をかすった程度。
動きの読み合いは同レベルのようだ。
(かわされた……でも、この距離なら……)
リィノの杖が眩く光る。杖にはあらかじめ必要な魔力を込めていた。
後は魔法を発動させるための呪文を唱えるだけ……。
「ウェントス・コンフリクト」
実はリィノ、攻撃呪文は得意ではない。
魔法自体は生まれ持った素質故難なく使えるのだが、全体魔法はもちろん、単一でも敵に当たるように放出することが上手くできないのだ。
これは遠距離魔法を使うには致命的な欠点だ。
そんなノーコン魔法使いのリィノに、セオはこんなアドバイスを送った。
「リィノの魔法ってさ、杖から出てくるんだろう。だったら、杖に宿した魔法ごと直接殴ればいい!」
いわゆるゼロ距離射撃である。
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