第22話 一階 残せるものは、残すもの
「ああ、それなら真珠さ。そうか、ハハハ。なるほどねぇ」
ユルネは不機嫌な顔から一転、笑い転げる。
「石言葉、魔法と絡まっているときもあるけど……」
リィノは真珠に月の雫という言葉が与えられていたのを知らなかったからか、不機嫌だ。
悔しいのはわかるよ。
質問した俺だって、無知をひけらかしたようなものなので、恥ずかしいよ。
でも、この俺の恥ずかしさなんかより、なぞを解くほうが重要だから。
ガーデニアが残したメモと想いを汲み取れるなら、この程度の恥、なんでもない!
……と、かっこいいようなこと考えて、内心、慰めているけど、ね。
俺は、こんなことぐらいで、傷ついたような顔をするわけにはいかないから。
虚勢を張るのもつらい、ツライ。
「いやぁ、ガーデニアって娘さんは少女らしく、こういうことを覚えていたわけかい。あたしは、真珠を売すためにちょいっと頭の片隅に入れた程度なのにさぁ」
若い娘の中には、こういう神秘的なものに飛びつくタイプが一定数いるのが世の常だ。
そんなタイプの娘っ子の気を引いて商品を売り出すなら、石言葉は役に立ちそうな知識だな。
「真珠ね……真珠には、邪気を払う効果があって、かけられている魔法、具体的には呪いとかを打ち消すこともできるかもしれないわ」
お、リィノはリィノで知識の組み合わせロール始めたな。
連想することで、求めている答えに限りなく近いものが出てくる、ひらめき力。
是非鍛えておきたいものである。
黙って聴取しておこう。
「なるほどね」
つまり、エジーナの部屋には常時魔法がかけられていて、真珠を消費しないと秘密の扉的なものが見つからない仕様なのか。
魔法社会ではありえない話ではない。
そして、ガーデニアのメモの最後の文を付け足すと……。
「話をまとめると……」
ユルネとリィノの意見を聞き終えた後、俺は数分の脳内推理タイムから導き出した答えを出す。
「エジーナの部屋でガラスの台座に人魚の涙を置き、粉々にした真珠を降りかけて、開けって言えば何かが起こるってわけか」
何かの動力はもちろん魔法。
開けと言わないといけないのは、わざわざ魔法を解いたというのに、最後に合言葉が必要だと思い付けるかどうかってところかな。
実際やられたら難しいところだよな。
二重プロテクト、恐るべし。
「試してみるのかい?」
「実はちょっと悩んでいる」
僕の遠回しの待ての言葉にリィノの手が止まる。
真珠を砕こうとしていたな。
ユルネみたいに尋ねるというワンフレーズを置かないからな……。俺の言葉が間に合ったことに少し安堵しつつも、俺は俺なりの意見を述べる。
「ニッキーと合流してから試そうとも考えたけど、遅すぎる気がする」
ニッキーが来るまで待ったほうがいいって気がするのだけど……。
サズオクベ家に情報収集しに行ったとしても、時間がかかりすぎている気がする。
「いや、むしろ……外で何か悪いことが起きているかもしれない。ニッキーの所属先の関係上、優先順位は治安維持や人命救助だからな。外に大きな怪物なんか現れたら、俺たちよりもそっちの方を優先するだろう」
「おや、怪物なんて荒唐無稽すぎないかい?」
「アルカナムが関わっている事件だから、何が起きても俺は驚かないよ」
離れてしまったら互いの情報を即座に交換できないって、本当に不便だ。
とくに連絡を取りたいこういう時、携帯電話とかスマホがないこの異世界に、苛立ちを覚える。
「ただぼうっとしているのも癪だし、ニッキー宛にこれまでの情報をまとめたものを残しておくか、リィノ」
「ええ」
リィノが取り出すのは、カラス印以外はどこにでもありそうな分厚い本。
ただし、ただの本じゃないよ。
中身をくり抜いているから、実質小箱みたいなものだ。
なお、リィノ秘密のメッセージを入れておく本型小箱を持たせているは、何かさせておかないと、考える時間なしに何でも試そうとするからだ。
シンキングタイムを作るために、必要なことなのさ。
「この本の中に、俺たちがこれまで調べた結果を書きつづったメモと入れておいて……本棚にシュート! 超エキサイティング!」
あとは堂々と本棚を間借りしてしまえば、あら不思議。本一冊程度なら紛れてしまっても、何の違和感もありません。
「ここは魔法を使わないのかい?」
「ああ。こういうのは、ちょっとした小細工程度に抑えて、密集しているところに紛れ込ませただけぐらいが、案外見つからないものなのだよ」
ガーデニアほどモノロギ邸に精通していないから、スマートに隠せないってところもあるよ。
あと、魔法を使うと、リィノみたいに感知能力が持つ人たちに即バレてしまうからね。
要は木を隠すなら森の中ってことさ。
「……カラス印の本には気をつけておくわ」
「一つ増えたところで気がつけるかな、ユルネ?」
事件が終わったら即回収するし。
正式に調査報告書を書くときに、このまとめメモは役に立つ。
万が一の用心にも、先の未来の資料にも、対応しているのよ。
「やれることはやったな……よし、試してみようか、リィノ」
「待っていたわ、その言葉」
本当、俺の契約者様は行動力があって頼もしい限りですよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます