第21話 一階 秘書の部屋にも秘密があるの
「じゃ、セオ、聞いてよ。私が感じたのは、この机……」
私室だからか、三階の事務室で見たモノよりは小ぶりではあるものの、しっかりとした造りから、高級品だと思われる。
「……の上の小さな台座に魔法の痕跡があるの」
リィノの言う通り、机の端っこにガラスだろうか、透明な台座が置いてあった。
「で、その台座から縁が、向こうの部屋につながっているわ」
リィノ曰く、縁とは魔力で出来た──魔法という超常現象を現世へ誘うために必要なつながり──ヒモみたいなものらしい。
スキル【魔力感知】はそのヒモを見ることが出来るという。
ヒモには魔法詠唱コードが描いているとか。そのコードの履歴から、知識さえあればどんな魔法が使われているか判明できるとのこと。
魔法を引き寄せるため必要なのは、顔認証もとい魔法詠唱コード認証ってことなのだろう。
でも、コードまで浮かび上がらせるには、もっと高度なスキルが必要で、リィノのスキルでは、魔法が使われたという痕跡がわかる程度だ。
だから、使われた魔法が何なのかまではわからない。
そんな豆知識よりも、つながっているってほうが重要だ。
代償や制約によって魔法が強化されている場合は、その強化に当てられているアイテムがヒモでつながっているので、そこを辿れば目的のモノが見つけられる。
魔法が使用されている場合は突破口のカギになるし、使われた後だとしてもアイテムによっては使用した魔法の手掛かりにもなるので、一見する価値がある。
「へ~。部屋をまたいでいるのか」
「向こうの部屋って、秘書の部屋じゃないかい」
主人の側に仕える秘書なら、部屋も隣ってことか。
「この部屋で見つけた魔法の痕跡はこれぐらいよ」
「つうことは、秘書の部屋に行くしかないってことか」
もともと探索するつもりだったし、丁度いいやと俺たちは秘書の部屋へと足を踏み入れた。
秘書の部屋はエジーナの私室ほどの広さはなかったが、他の作業員とは比べ物にならないぐらい豪華で、住み心地がよさそうな、生活感あふれるところだった。
「人が寝泊まりしているって感じだな」
ほかの部屋は長期休暇で留守にしている感とか、整理整頓されたモデルハウスとか、そんな人の気配が薄いものばかりだったからな。
生活臭のする人間らしい部屋に、思わず一安心してしまう。
「セオ、セオ、これこれ!」
リィノが指さしたのは、上半身は人間、下半身は魚の、人魚の像だった。
そのサイズ、実物大の十分の一。
「人魚は見つかったようだねぇ」
「後は月の雫ってことか」
ユルネはガーデニアのメモのことを即座に振り返ったので、便乗。
すると、リィノの目にはほかにもヒモがつながっていたのか、まっすぐとした足取りで、テーブルにある小物入れへと向かった。
「ん。これも」
小物入れのふたを開けると、三つのキラキラと光るピンポン玉サイズの玉が見えた。
「赤、白、透明、いや角度を変えると青色ってことは……」
カラスの審美眼が光る。
「それぞれ、珊瑚、真珠、アクアマリンってところかな」
生まれ変わってから、本能的に好きなものだからか、光物に詳しくなったよ、俺。
「……おや、よく見ると、この人魚の像。魔法専門の小売店で見たことあるねぇ。なんでも、宝石で強化された人工魔石を砕いて降りかけると魔法が使える、つう触れ込みだった気がするねぇ」
「ええ。人魚の祈りって魔法アイテムでしょ」
知っているのか、リィノ。
「魔術師たちが水属性の魔法を使うため作り出したもので、人工魔石でもレア素材を使用するため、辺境の地ではアルカナムとよく間違えられる。アルカナム人魚姫の祈りの劣化コピー品」
アルカナム(オリジナル)はプリンセスなのね。
「なお、人魚姫の祈りなら、魔力や宝石こそ消費するけれど、どの系列の魔法も使えるから、利便性は圧勝」
消費すること自体は変わらないのか。
でも、どんな魔法でも使えるって強くないか?
使用上の注意とか、制限とかありそうだけど、この場にないアルカナムのことを考えても意味がないか。
「さすが、リィノ。アルカナム関連の知識は豊富だね」
「て、ことはエルフの嬢ちゃん、この小物入れにあるやつは人魚の祈りを使うための燃料だってことかい」
「そう、言っている」
……言っていなかったよ、リィノ……。
ユルネの顔が険しいのは、リィノのふてぶてしい態度が主な要因だろうな。
「じゃぁ、リィノ、この人工魔石で、それぞれどんな魔法が使えるようになるの?」
水属性オンリーなのはわかったが、三つの違う宝石があることから、それぞれ違う魔法が使うためにあるのではないか。
リィノの知識を引き出すには、こちらから促さないと。
ユルネには悪いが、フォローよりも先にリィノから聞き出しておきたい。
「セオの言う通り、人魚の祈りは燃料の人工魔石によって使える魔法も違うわ。だけど、どの宝石でどの魔法が使えるかまでは覚えていない」
「……カラス、先に言っておくけど、あたしは魔法アイテムの知識は一般人レベルだ。魔術師用のアイテムの知識はないよ」
ああ、専門知識。
マニアックすぎて、誰にも知られていない……。
探索をここで切り上げて、魔法ギルドに頼るべきなのか。
というか、本当にここまでなのか。
あとちょっとかもしれないのに?
悔しくて思わず涙が零れ落ちそうだよ。
「ん、涙……」
待てよ。
涙でひらめいたよ。
「なぁ、リィノ、ユルネ。この宝石たちの中に、月の雫って石言葉を与えられた宝石があるか?」
象徴的な意味を与えるのはよくあることだ。
現に真珠は涙の象徴だ。国や地域の文化によっては、月の雫なんておしゃれな言葉を与えられた宝石があってもおかしくない。
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