第16話 いざ、探索へ~ここで証拠集めではないのは、俺の所属がアルカナム興信所調査員だからだろうなぁ~

 ──モノロギ邸。


 結果として、先日顔を出したアルカナム興信所調査員だからか、スマートに客間へ案内してもらえた。


 新顔であるユルネに関しても、俺たちの助っ人扱いなのだろう。秘書の人は嫌な顔をせずに飲み物まで用意して招き入れてくれた。


 ま、モノロギ邸は今や敵地扱いなので、毒物混入の可能性も考え、飲み食いしないけど。



「奥様は今出かけおりますので、少々お待ちください」

 今は秘書一人ってことか……。

 なぜか知らないけど、モノロギ邸は秘書以外の人の気配がしない。不気味に静まり返った屋敷。

 異常事態という文字が俺の頭の中で浮かび、しきりに警戒音を鳴らしてくる。


「……」

 だから、俺は躊躇しなかった。

 大きく飛び交って、秘書の後頭部に向かって突進。


 ストライク!


 秘書は頭を強打されたことによって気絶した。





「よし、説得完了!」

「どこが説得だい!」

 ユルネは思った以上に常識人だったようだ。


「え、モノロギ邸に行く前に、ケンカを売りに行くってあらかじめ言っていたじゃないか」

「それでも、攻撃……しかも不意打ちをするかい。ずいぶん、行儀の悪いカラスだね」


 ちなみにリィノは慣れた手つきで秘書を魔法で縛りだしている。結界も張ってあげるから、結界内にいる限り、安全安心だ。


「それとも、なんだい。これがアルカナム興信所のやり方かい」

「半分、合っているよ。もう半分は、俺の独断。すでに実害が出ているから、今回は多少乱暴な手段をとっているよ」

 アルカナムに関しては見境ない団体に所属しているわけだし。


「それに、俺たちはまだかわいい方だよ。俺の知っている中で一番ひどいのは、ここら一帯を丸焼きにして、灰の中から出て来たアルカナムを回収したことだし」

 強硬手段っていうのは、こういうのをさすのだよ。

 敵地だと半分わかっているのに足をつっこんでいる時点で、怖いもの知らずの地域に優しいお人好しってことだ。


「あんたらがまだ話がわかる相手だってことは分かったよ」

 ユルネはやれやれとため息、俺たちのやり方を受け入れてくれるようだ。

 聞き分けのいい大人の女性って好きですよ。




「というわけで、まずは、最上階……三階からにするか」


 俺は調査するなら上の階から調べるのが好きなのだ。


 下の階からじっくり調べないと、上に行けないという形じゃない限りは──建物の全体的な構図を頭に入れるには最上から捜索するのが、手っ取り早いと思っている。

 あと、風水的に上の階から調べるほうがいいらしいからね。

 縁起担ぎってやつさ。


「広い邸宅を調べるなら、窓から一瞥したほうがいいってことかい。妥当な考えではあるねぇ」

 ユルネが取り出すのはピッキングツール。


「おお、カギ開け要員だったのか」

「ああ。あたしにはスキル【解錠開門】があるのさ」


 遺跡や古都の探索系チームの一人に必須なスキルである。

 ただし、スキルを持っているからといって、すべての扉やカギを一瞬で開けれるわけではない。


 カギを開けられる範囲は、保持者の技量や道具に依存しているらしく、構造的に難解なカギ穴や、補助錠代わりに高度な魔法が施されているなど、対策が取られていると、開けられないことがあるという。


「アルカナムがらみじゃぁあたしの腕じゃ難しいけど、通常レベルなら、難なく開けられるさ」

「頼りになる~」

 ユルネのおかげで、リィノが魔法で扉を物理的に破壊してはいるという、野蛮なカギ開けの出番が減らせそうだ。







 ──三階。

 全体的に部屋数は少なく、これから取引に使われるだろう高価な商品やラッピング用の道具の数々が部屋を占拠していた。

 書斎の戸棚には顧客情報、机には様々な書類。


 この階はどうやら商品に関する情報でいっぱいのようだ。


「で、この階で埃が一番少ない部屋はここだったわけか」

 俺はリィノの肩から降りて、部屋全体を一瞥すると、さらに何かないか詳しく調べ出す。


「セオ、どうしてこの部屋はきちんと調べなければいけないの?」

「どんなごみ溜めだろうと、重要なモノや大事なモノが置いてある場所だけはきちんと清掃されていることが多いからだよ、リィノ」


 自分の目ですぐに確認できるようにしたいと思うからこそ、無意識にその場所だけを一等きれいにしてしまう。


 不自然なほどきれいな場所ほど、怪しい場所はないのである。


「カラスのくせに人の真理に聡いやつだねぇ」

「褒め言葉として受け取っておくよ」

 俺の事情を事細かにユルネに伝える気がないので、ここはあっさりと受け流す。


「……この部屋は絵画でいっぱいだね」

 直射日光が当たらない、風通しの良い場所なので、保管場所としては適切だとは思う。

 ただし、袋や箱に入れられていなかったので、キャンバスは丸見え状態であった。


「そういえば、女傑ミテルマの肖像画をパーティーで公開したと聞いていたが……」

「関連作品も一緒に公開していたようね」

「便乗商法ってことかい。ここの女当主はやり手のようだねぇ」

 歴史的英雄をモチーフにした作品は数多くの人に愛されやすい故、関連作品が多く作られ、世間によく出回る。

 女傑ミテルマを題材にした作品もまた、クモモ以外にも多くの著名人が手掛けているのだろう。


「ミテルマがミーティア帝国の兵士となって、立身出世していく過程か……」

 兵士になったばかりは少女特有のあどけなさが強調されているが、兵長、将軍へと上りつめていく頃には眼光は鋭くなり、部下を従わせ、女傑に相応しい姿となって描かれている。


 最終的に皇帝の位につき、国を治めるその姿は凛々しく美しい。


「こちらの木製の額縁に入れられているほうは、ミテルマの伝説的エピソードをモチーフにした絵画が集まっているね」

 ピックアップエピソード特集という名目で展示されてそうだ。


「クモモとの出会いもあるわね」


「へ~この子がクモモか……」


 クモモの容貌はソフィア・ノスタールを男体化したらこうなる、といったものだった。


(最初はこの絵のクモモは、彼の子孫を参考してに描かれているかもって思ったけど、他の絵もまったく同じ顔だよ)


 手がけた年代も作者も違うというのに、成長による体格の差はあっても、特徴的な容姿はそう変わらない。

 歴代ノスタール家の血のつながりと遺伝子の強さを感じさせる。

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