第15話 これが少年漫画だったら、行くぜ、気合を入れた声を出して立ち並ぶところかな
「リィノ、その判断は正しいよ。だけど……」
リィノの成長に喜んでばかりじゃいられないのよね。
意識を日記に戻す。
「サズオクベ家に確認をとる余裕があるかどうか」
ガーデニアが破れたであろう、一ページの後には、
【奥様を助ける。たすけて】
……と、いう悲痛の決意ととれる文字が書かれている。
ページが破けているところも気になるが、俺の悪い予感は、日記に残されているこの最後の文字によって集約され、裏付けられてしまっている。
「それでも、確認は必要な行為だ。ニッキーは警備隊にこの情報を伝えてくれ」
「セオ、まさか君たち……このままモノロギ邸に行くつもりか」
「ああ、時間稼ぎのためにな」
正直分担は戦力的に痛いけど、背に腹は代えられない。
「……もめ事を起こさないでくれよ」
「それはあちらさんの出方次第だな。俺たちアルカナム興信所は、ホーラ神のアルカナムがモノロギ邸に秘密裏に持ち運ばれているという情報を耳にして、調査しに来たと言い張るから」
ツンツンと軽く日記帳をくちばしでつつく。
これを持って、根拠があるといちゃもんつければ、あちらさんも非協力的な動きはできないだろう。
「うわぁ……」
相手が何らかしら抵抗してきたとしても、魔法抵抗力が高いエルフとそのお供の不思議生物なら、反撃されても時間が稼げるし、それを決定打に警備隊、教会、魔法ギルド合同で袋叩きにすればいいだけだ。
「最悪天気の話とかして引き延ばすから、その間にサズオクベ家に確認をとってくれ」
事件の犯人の影こそ見つけたが、決めつけには程遠い。
だからこそ、これ以上悲しい事件が起きないよう居座って、犯人を揺さぶるつもりだ。
おとりというよりも起爆剤になるように頑張ります!
「かわいい見た目してえぐいこと考えるねぇ」
ユルネが何やらゴソゴソと動き出す。
自分の家だから何をしてもいいのだけど、あまり動かれると、心がざわめくのは、俺が気を許していないからなのだろうか。
「でも、気に入ったよ、アンタ。善良な一般市民の手でもいいなら貸してあげるよ」
「え?」
ユルネが仲間になりたそうにこちらを見ている。
仲間にしますか?
→はい
いいえ?
そんなもの、俺の心の選択肢画面にはなかったぜ。
「本当にいいのか?」
一応、気の迷いではないか確認するのは、中身四十代のおっさんゆえの慎重さと考えてくれ。
ノリだけに身を任せられないのだよ。
「ちょうど刺激が欲しいと思っていたところだしねぇ。あと、この日記の持ち主の気持ちに応えたくなっちまった。損な役割だってわかっているのに、ね」
そう自嘲するのは、ユルネ自身思う所があるということか。
「まったく、他人の日記は読むものじゃないね。つい……お節介をかきたくなっちまうよ」
飲み込んだ言葉と浮かべる表情にあるのは、切ない哀愁感。
これ以上手助けする動機はユルネ自身のプライバシーに関することになりそうだから、詳細は聞かないほうがよさそうだ。
ただ、このユルネの気迫から、ガーデニアに同情し、彼女の無念を晴らしたいという想いが伝わってくる。
仲間にしない手はないね。
「まぁ、感謝状は期待しているよ、警備隊のブライアントさん」
自身をケチな女と称したハーフリングの精一杯の憎たらしさだった。
「ああ。事が終わったら、期待してくれて構わないよ」
プリンケプス警備隊からじゃなくても、ニッキーのポケットマナーから金一封が出そうな雰囲気だ。
その金で飲み食いするなら、是非誘ってほしい。
見た目はカラスだけど、実態は不思議生物。なんだって食べられるし、お酒だって飲める。ただ一羽で飲食店に行くと信用されにくいのだ。誰かと同伴するのは必須だ。
それに、影のあるいい女との酒は、時に飲みたくなるものだよ。
「──話がまとまったな」
うまい酒の話は事件が解決した後だ。
「というわけで、リィノ。警戒心バリバリでモノロギ邸にケンカを売りに行くぞ」
「セオ、もう少し隠す気ないか?」
ニッキーに論されたけど、俺とリィノの間柄じゃ、ストレートに包み欠かさず、わかりやすく作戦を口にしたほうが効果があるのだ。
それに……。
「戦争と言わないだけマシだって思ってくれよ、ニッキー」
「戦争って……」
もっと悪い状況なら戦争という言葉を使っていたわけで。
これでも話し合いの余地があるのことアピールしていたのよ。
これでも俺ってば、平和主義なの。
「わかったわ」
リィノは俺の言葉の意味と思いを汲んでくれたようで、いい返事をしてくれる。
こういう時、パートナーって関係っていいよな、て思う。
「モノロギ邸にどんな蛇がいるか……情報不足だからまだはっきりしないけど、隠れている尻尾を引っこ抜けってことでしょ、セオ」
「そうそう。わかってるじゃねぇか、リィノ」
改めて言葉にすると、行き当たりばったりだなって思うよ。
だけど、世の中、百パーセントにはなかなかたどり着けない。
証拠固めするためにも、敵地に潜り込まないといけない時だってある。
俺とリィノのアルカナム興信所調査員とお節介焼の善良な市民ユルネは、ニッキーと別れると、ガーデニアの日記をもって、モノロギ邸の門扉のベルを鳴らした。
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