第10話 考えられる可能性は無限大。その可能性を潰していくためにもさらなる調査が必要だ!

「で、ニッキーは肩にある三つのほくろから、ミス・セイシーギことガーデニアではないかと疑っている……でいいよね」

「現時点立証が難しいけどな」


 仮にこの老婆がガーデニアだったら、なんで老衰で殺されるまでの間に、教会に駆け込まなかったのか、が焦点になるものな。

 事件を洗い上げる必要性、大切にしたい。


「彼女が身に着けていた衣服も見よう。もしかしたらそっちに呪いがかけられていたかもしれないし」 

「着ると歳をとる呪いか」

「とっくに調べ終わっていると思うけど、ある条件下で発動するとか、ややっこしい制約がついている可能性もあるしね」


 遺留品が置いてある台へと移動する。

 靴や小さなカバン……下着に黒い衣服。

 ちょっとしたお出かけに着られていても違和感がないラインナップだ。


「で、下着に家族の絵とお金が縫われていたわけか」

 キャミソールの裏側にある、この小さなポケットの中に入っていたのだろう。

 隠し場所としてはごく一般的だ。

 自衛手段として共感できる。


「遺留品には魔力の痕跡はないね」

 リィノは杖を振るい、スキル【魔力感知】を発動。

 魔法的に目ぼしい情報はなかったようだ。


「なら、やはり肉体に呪いをかけられたってことか」

「いや、それは早計かもよ、ニッキー。リィノは遺留品には、としかいっていない」

「え?」


「正確には、ここにある遺留品の中に呪われたアイテムがなかったってことだろう、リィノ」


「そう言っている」

 言ってないんだけどな……リィノ。

 言葉が少ないリィノの言葉の補足にも慣れてきたけど、もうちょっとどうにかならないかな。


「それって……」

 ニッキーは早くもオレが言いたいことがわかったようだ。

 そう死体を先に見たときから、腑に落ちない点があった。


 リィノの言葉で、確信したね。


「ああ。この遺留品の中に無いだけだ」

「その根拠は?」

「彼女の首元と手首、不自然な光沢があるから」

 光物に目がないカラスじゃなかったら見逃していたよ。


「つまり、何らかの装飾品をつけていたということか」

「それに、この黒い服……魔法の絵マジックグラフの服と特徴が一致する」

 ノスタール氏の執事はかなり細かいところを覚えていた。


「胸元のレース部分。黒の布地の上にあるから見にくいんだけど、ほつれているんだ」

 真珠のネックレスのせいで余計分かりにくいのだが、左右対称のはずのレースが、一か所だけ、米一粒大ほど広がっている。


「よく気が付けたな」

「執事も俺もってことかな、ニッキー」

 胸元どアップの魔法の絵マジックグラフは何も、胸の大きさという身体的を教えてくれたわけじゃないのだよ。


 エロと断定して忌諱しちゃいけないものが、世の中にはたくさんある。


「つうことは、この遺体こそが偽モノロギってこと?」

「装飾品は女傑ミテルマの肖像画と一緒に盗られたといいたいのか」

 リィノとニッキーが怪訝な顔をする。


「どうだろう。この黒い服は偽モノロギが着ていたものだとしか、わからない」

 服は着替えられる。

 死体に着せ替えたかもしれないし、物々交換し合ったかもしれない。あるいは、捨ててあった服一式をこの老婆が拾って着たのかもしれない。

 真珠のネックレスと腕時計をつけた跡があるが、捜査のかく乱を狙ってわざと残したかもしれない。

 かもしれない、が多いな。


「あ……」

「確かに……判明したことはそれだけだな」


 懸念事項はたくさんある。

 狭めるためにも、さらなる情報が必要だ。


「装飾品を捜すのはありだと思う。アルカナムと比べれば足がつきにくいから、すでに売られているかもしれないし、捨てられているかもしれない」

 真珠のネックレスと腕時計、探す価値はありそうだ。


「とりあえず、ニッキーは警備隊のみんなとこの情報を共有しておいて。とくに、呪われたアイテムかもしれないから、気をつけるようにも言っておいてよ」

「わかった、セオ。呪い判定紙カースジャッチも所持するように伝える」


 呪い判定紙カースジャッチとは、一見するとリトマス紙と変わらない見た目の紫色の紙だ。


 呪われたアイテムに貼り付けると色が変わり、大まかではあるが、呪いの種類と危険度がわかる。


 魔法ギルド他、専門の小売店でも販売されている、入手は比較的簡単な、呪い専門の試験紙ってことだ。



「ああ、そうしてくれ。で、俺たちはもう遅いから、いったん家に帰るね」

 モノロギ邸にホテル・ゴージャス、プリンケプス警備隊基地と三か所も巡った。

 そろそろ夜だ。夕日が目に染みる。


「もう、こんな時間か。そうだな、続きは明日……ノームロードの時計台前でいいか」

 ノームロードとは、プリンケプスの商業街だ。

 ニッキーは商業街で軽く聞き込みした後に、俺らと合流するつもりらしい。


「わかった」

 俺があっさり承諾したのは、世間知らずのリィノを連れて、となると、打倒だと思ったからだ。

 リィノは対人交渉能力が低いし、直感重視なので、遠慮なく物事をズバズバと言ってしまう。


 そのため、突拍子もない行動や失礼な質問をさせないため、俺やニッキーが先んじて行動して、出来るだけリィノに口を開かせないようにしているのだ。


 甘やかしすぎって思われるだろうけど、事件の捜査は遊びでも学習の場でもないのだ。今あるカードを適切に使わないと、ずる賢い犯人に逃げられる。


 ない能力には頼れない。


 ある能力を駆使して、犯人に立ち向かえ。


 なぞ解きアドベンチャーっていうのは、そういうものだよ。


「頭をスッキリさせるためにも、今日はもう帰って寝るよ。いいよね、リィノ」

「セオがそういうなら……」

 人酔いとまではいかないが、それなりに街を歩いたからか、リィノの顔が少々くたびれている。

 休んだほうがいいだろう。


「よし。明日の十時な。それまで体調と魔力を回復させておけよ」

「お気遣いありがとうな」

 ニッキーと別れ、俺とリィノは家兼事務所へと帰った。


 俺としてはまだまだ判断材料が足りないので、ゆっくり羽と頭を休めて、明日に備えることにした。

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