第9話  情報を見落とすと、だいたい詰む。ゲームで学んだ!

 ──プリンケプス警備隊基地

 基地とされているが、だいたい警察署と規模と内容は同じだ。

 社会文化レベルの差と異世界補正のせいかもしれないが、俺にとっちゃあ、だいたいあってればいいレベル。


 詳しいことは知らない。


 ただ、基地というぐらいだから、なんか怪しいことをやっているかもしれないな。

 俺には関係ないけど。

 今となっては進みなれた廊下を歩み、死体安置所とこの世界の文字で書かれた扉の前に立つ。


「心の準備は出来ているな」

 死体と対面するのは初めてじゃなくなったけど、不気味だものな。

 あと、非業の死を遂げた遺体が多いせいか、苦痛に歪んでるものも多い。覚悟なしで観察するのは精神的にきついのである。


「うん」

「わかった、今開けるぞ」

 ニッキーに扉を開けてもらい、中に入ると、白い布で全身を覆った、いかにも死体といったものがベッドを占拠していた。


「検視結果の資料はここにあるが、どうせ直接見ないと信じられないのだろう。気が済むまでじっくり眺めていいぜ」

「直接見ないと、アルカナムの神秘は感じにくいからね」

 俺は資料と一緒に見るのをお勧めするがな。


 異世界知識が浅いから、現地人の考え方については完全に他人任せってところがあるけど、やはり、捜査のエキスパートの方々の資料は論理的でわかりやすい。


 そんなことを前に話したら、直感力のほうを重視しているリィノにはわからないって顔された。


 と、いうわけで、俺は羽ばたいて資料のある机まで移動し、くちばしと二本足を器用に動かして、紙をめくる。

 異世界に生まれたとわかった瞬間とったスキル【言語翻訳】が火を噴くぜ。


「ふむふむ。早朝の五時ごろ、付近の住民の通報によって発見されたと」

 単語を見るだけで、自動的に翻訳され、文章が読めるようになるというもので、発動させると、意識して文字を見つめると字幕スーパーがついてくる、そんなスキルだ。

 そのため、上は現地語、下は翻訳された日本語と、見た目ごちゃごちゃしている。だが、現地語で書かれた筆跡も重要な情報だから、見逃さなくて済むのがいい。


「セオ……お前、本当に話がわかるやつだよな……」

 俺が資料を読むたびに感動の涙をこぼす、ニッキー。

 教会も魔法ギルドのやつも、警備隊が用意した資料をないがしろにするからな。


「俺は、あらゆる情報を照らし合わせて、皆で共有するのが、解決の糸口になると信じているから、貧よくに求めるべきだと思っている」

 例え魔法で社会が成り立っている世界だろうと、なぞを解くカギは情報の中に眠っているはずだ。


「……よく情報過多にならないね」

 リィノの視線がそこはかとなく冷たい……。

 言いたいことは分かるよ。情報をとりすぎると、容量オーバーで頭がパンクしてしまうってこともあるだろう。


「情報の選別は知った後でいくらでもすればいいからね」

 頭に収めきれないから、資料とメモ帳があるのだ。

 忘れても、読み返せばいい。

 それに……。


「だから、リィノも頼りなんだ。君以上に(俺にはほぼ意味不明な魔法に関して)信じられるのってないからね」


 スキル【魔力感知】を発動させたリィノの意見ももちろん貴重なのだと、俺は期待に満ち溢れたキラキラした瞳を向ける。


 かわいいは作れる!


「……くぅ。この山が終わったら覚悟して、セオ」

「覚悟?」

「ああ、もう、首をそんなにかしげないで。かわいいんだから……」

 最後の方、ぼそぼそして聞こえなかったのだが、悪感情はないな。


 単純にリィノは照れているのかな。頼られるって、なんかこう胸の中があったまる気がするモノだし。俺にも覚えあるよ。なんたって、中身、前世の享年合わせて四十代のおっさんだし。


 リィノの初々しい反応にほっこりするよ。


 俺の微笑ましいものを見る目に、さらに顔を赤く染まったリィノ。

 それでも今は仕事の時間と切り替えたのか、赤みを残しつつも、要望通り答えてくれる。


「魔法はかけられていた。ただ……死因は老衰。使用魔法は不明」

 魔法によって急激な変化が訪れると、体内に魔素という物質が大量に残される。その魔素から原因の魔法を特定するわけだが、今回は残留魔素が少なすぎて、不明。つまり、お手上げらしい。


「あ、うん。つまり、栄養剤的な魔法をかけていた可能性もあるってことか」

「見た目の年齢通りなら、あり得るんじゃないか」

 とりあえず、急速に老化させられたというわけではないってことか。


 仮に老化魔法で殺すとしたら、魔素の残量的にかなりゆっくりだ。それなら、途中で気がつくし、速攻で教会に駆けこめばいい。


 時系の魔法なら、基本無償で治してもらえるし、保護される。

 よほど常識がない限り、教会一直線だ。


「警備隊情報だと死体は移動させられたわけではないんだろう」

「ああ。自らの足で現場に赴いていたようだ」

 別の場所で殺されたわけではないか。

 推理モノだと死体が殺された場所と発見された場所が違うということが、事件を解く重要なカギになること多いからな。


「そして、ダンジョン攻略者や危険地帯冒険者、ましてや荒事ハンター業についている人物でもない」

 遅効性の魔法トラップの犠牲者という線も、この異世界ならではのあるあるだ。


 ついこの前なんか──この国のジェミニ海神殿という神々が残した遺跡を探索していた三人一組のチームが犠牲になったものだ。

 探索中うっかりトラップに引っかかって、白い煙に覆われたとか。

 俺なら玉手箱的なものじゃないかって疑って、即教会に行っただろうけど、探索当時何事もなかったので、そのチームはそのままホームへ。そして就寝。


 翌日、三人中二人が老人となった姿で死んでいたのを、運よく生き残った一人が発見し、事件が発覚したとか。


 一晩かけて歳をとっていったから、手遅れとなった、悲しい事件であった。


 そういう事故死があるからこそ、警備隊の人たちに迷惑をかけないためにも、登録は必須だし、免許証などの身元を証明するものを、常に身に着けているのが普通だ。


 それでなくてもプリンケプスはプリムス王国の首都だからか、登録制度は厳格にして絶対。

 町外の人間は紹介状なしでは、この町に入るのも難しい。


 殺人以上に、身元不明の死体が出たことこそが大事件なのである。


 海外ではもっと緩い条件で出入り出来る首都もあるらしいが、少なくてプリンケプスはそうではない。ときどきそういう風習を知らずに奴隷を引き連れてくるバカもいるらしく、その場合は首都とは切り離された地区、人工島へと移動される。


 それなりに体制が整った島なので不自由はないとされている。


 まぁ、嫌なら奴隷を連れてこないか、この場限りでもいいから奴隷の身元保証人となって、問題が起きた場合、奴隷だけの責任にせず、連帯で自らも責任をとれってことだ。


 なんでそこまで奴隷にも登録を促しているというと、プリンケプスはかつて奴隷と身分を偽って、人ではなく道具という扱いで登録なしで街に入られ、貴重な魔法技術が盗まれたという過去があったらしい。それからというもの、奴隷という存在自体を信じなくなったとされている。

 門外不出の魔法が多い国の事情ってことだ。


 まぁ、俺も奴隷という存在を信じていないからな。


 前世日本人ってところもあるけど。震災で一夜にして常識が崩されることが多く、成り代わりも乗っ取りも比較的容易。運と適応能力次第で生き残れる、そんな自然環境。

 いつ反旗を翻されても文句言えねぇ。


 給金を払うのは、拘束というよりも、おとなしく言うことを聞いてくれたことに対するメリットの掲示。希望とチャンスを与え続けなければ、いうこと聞いてもらえない、そんな文化の中で生きていました。


 それに、どんだけ言葉で着飾ろうと、抑圧しようと、生存本能ほど強い性質はないと思っている。


 話を脱線させてしまったが、ここらで戻そう。

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