第11話 二日目スタート! 見た目と年齢は一致しないことは多いけど、種族的な問題もあるって、異世界らしいよね
──次の日。
俺とリィノは待ち合わせ場所である時計台に向かおうと、商業街に足を踏み入れた。
ノームロードは基本、人通りが多く、にぎわいと活気にあふれた街だ。
通常営業のレンガ造りの店はもちろん、一定期間だけ運営している露店が並んでいる。そこには、軽食はもちろん、いろんな土地の伝統的工芸品や装飾品物なども並んでいて、もの珍しさでいっぱいだ。
東京ほどじゃないけど、そこそこ名がある地方自治体クラスの規模はあるだろう。
そりゃ、異世界の一国の都心だけどさ、人口、億どころか百万も届いていないからな。
新橋・渋谷あたりと比べちゃいけないってことだ。
「今日もにぎわっているね」
「そうだね。でも、いつも以上だよ」
世間では休息日だったか。
アルカナム興信所は事件が発生すれば解決するまで忙しいけど、普段は暇だからな。その間に知識を蓄えたり、自治会の清掃活動に参加するなど、地域住民の方々と触れ合って信頼関係を結ぶよ。
不定期だから、曜日の感覚がづれやすくて困るな。
「つうことで、リィノ、移動頼んだ」
「ああ、頼まれた」
飛ぶのは危険と判断した俺は、リィノの肩にとまり、肩のりカラスとして、行儀よくすることにした。
「真珠とか腕時計を売っている露店はあるかな」
時計台前を待ち合わせ場所にするのは初めてのことではない。
時間も余裕をもって行ける範囲内。
少し露店の中を様子見るぐらいは容易だ。
ニッキーたちがすでに運営から商品の情報を得ていると思うけど、届がザックリしていて、見落としていたってこともあるかもしれない。
貴金属が並んでいる露店なら、ちょっと覗き込むぐらい許されるだろう。
「どうだろう。でも、セオが興味あるならちょっと様子ぐらいは見よう」
これは……。リィノ、昨日のこともしかして忘れていないか?
光物やこういう賑やかな雰囲気好きなのは認めるけど、調査も兼ねているからね。
俺の趣味だけじゃないから!
「リィノ、ちょっと耳……」
貸してと言い切る前に、リィノの腹部ぐらいの大きさの小柄な物体がリィノのマントを掴んできた。
「?」
肩にとまっている俺にもその衝撃は伝わったのもあって、振り向いてマントの先を見ると、耳が少々とがった小柄な少女……童話に出てくる赤ずきんちゃんをベースにしたロリータファッションで身を包んでいるのは、大変愛らしいのだが、内包する魔力から考えると、ハーフリングの中年女性か。
かわいい、作っているなぁ。
ぱっと見、騙されそうになったけど、おばちゃん特有の図々しいオーラは隠しきれませんってことか。
俺はそんな異世界文化に気まずい思いをした。
「エルフの姉ちゃん、姉ちゃん、それならいいものがあるよ」
うわぁ、甲高い声。
むしろ、無理して声色を作ってないか。
俺はボイストレーニングを推奨したいぐらい不自然な声で、大人が思っている少女像の痛々しい演技をするハーフリングに、不審者を見る目を向ける。
「カラスさんは光物に目がないモノね」
俺の疑惑の目を気にしていないようで、ハーフリングはリィノに積極的に声をかけてくる。
「え? え、え?」
グイグイっとハーフリングの積極的な姿勢になすすべがないのか、取り込まれようとしているリィノ。
しっかりしろ。
いつものポーカーフェイスや、傍若無人はどこにいったの。
こういう時こそ、素通り、無視だろうが……。
それとも、図々しいおばさんの前では屈してしまうものなのか。
おばちゃんは強いからな……。
人生経験が少ないと、上手くかわせないものな……。
「ほら、ほら、これ、いいモノだろう!」
赤いスカートの中から取り出したのは、白い光沢の粒々。
長さからネックレス。
しかも、真珠のネックレスだった。
今、俺たちの中で熱いアイテムだよ。
「あ~……」
これじゃ逃げるのも逃がすのもナシっだ。
重要参考人としてキープしたい。
「リィノ、リィノ」
さて、問題は……どうやってこのハーフリングと一緒にニッキーとの待ち合わせ場所である時計台へ向かうか、である。
小柄なハーフリングとはいえ、リィノの腕力では組み敷くことは難しいだろう。
応援が欲しい。
魔法で拘束するっていう異世界ロマンあふれる捕物も、賑わいつつあるノームロードじゃ悪目立ち。
逆にこっちが、おまわりさん案件。
(こうなったら、お財布はニッキーが持っているから~とかで言いくるめるしかないか)
失敗したら、二度と会えなくなる可能性があるけど。
演技力がイマイチなハーフリングとはいえ、出し抜くとなると難しいか。
俺はなかなか次の行動に移せない。
判断が遅くてスマヌ……スマヌ……。
「どうしの、セオ……おや」
ここでリィノの翡翠のような目にハーフリングが持つ真珠のネックレスがうつった。
リィノはおばちゃんパワーとノリにパニックになっていただけだからなぁ。何をちらつかせていたのか、何を押し売りされようとしていたのか、全然見てなかった。
「これ、欲しいの?」
「……」
おしい。
確かに真珠のネックレスは欲しいよ、証拠品的な意味で。
あとソレを持っているハーフリングもセットで。こちらは聴取的な意味で。
「やっぱり、姉ちゃん、興味あるのか」
「セオが興味ある」
リィノ……。
真珠のネックレスに気がついていないのか。怪しすぎるハーフリングの行動に無関心なのか。
察しが悪い。
「セオってその肩にとまっているカラスのこと?」
「ああ。私の相棒だ。私は相棒が興味津々でソレを見ているから、気になる」
真珠のネックレスに興味持って、リィノ。
「じゃぁあ、姉ちゃん、これを買ってよ。そして、そこのセオって子にあげればいいじゃない」
ハーフリングもハーフリングで、何で名案って顔ですすめてくるの。
強引にもほどがあるよ。
と、いうか、売りたいの?
まぁ、売りたいよね。
キャッチセールスをしようと迫ってきているぐらいだし。
やはり言いくるめしかないかと思った時だろうか……
「あ、リィノにセオ、丁度いいところにいた!」
ニッキーの声がする。
俺たちがいざこざの中心部にいたから目立ったのだろう。
「お、ソレはこちらのセリフ……あ?」
プリンケプス警備隊のコートを着たニッキーが手を振ってこちらに近づいている。
いつもは私服で、密偵のように町の人たちに溶け込んで調査しているのに……。
どうやら、ニッキーはニッキーで何やら緊急性の高い事件に駆り出されていたようだ。
「っ」
逃げようとするハーフリング。
警備隊から逃れようとしたからか、世間知らずのリィノもやっとその怪しさに気がついたようで、ハーフリングの腕を強くつかむ。
「放せ」
「放さないよ。だって、セオが目に着けたから」
無表情に。
そう断言するリィノは、先ほどまでおばちゃんパワーにタジタジしていたのがウソだったかのようにカッコイイ。
リィノの朴念仁っぷりを知らない他人なら、その豹変に不気味を感じ、恐怖し、おののいているのも、都合がいい。
通常の状態なら難しい拘束が上手くいった。
「どうしたんだ……と」
ニッキーはハーフリングの手にある真珠のネックレスを見るなり、察したようだ。
「え~、あ~……うん。リィノはこのまま離さないで、こっちに来てくれ」
リィノの能力が必要ってことか。
どんなのが待ち受けているかわからないけど、時計台までいかなくて済むのはありがたい。
逃げられないとわかったハーフリングは抵抗せずに、リィノに捕まれたまま従ってくれているし。
単純に逃げるタイミングを見計らっているだけかもしれないけど、今は十分。
警備隊の皆さんに引き渡せれば万々歳。
俺は安堵の表情を浮かべつつ、ニッキーに案内されるまま、路地裏の方へと足を進めた。
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