第4話 この異世界のメイド服はロングスカートのクラシックスタイルが支流です、やったね!
──モノロギ家。
貿易を生業としている、老舗。
「殺傷能力がないとはいえアルカナムを取り扱うほどの有名店だ。爵位を買ったとはいえ、一応男爵だから、失礼がないようにな」
俺には馴染みがないが、プリムス王国は国が発行する『社会的称号』がないと暮らしづらいところだ。
称号=信用ってことだ。
だから、それなりの商品を扱う商家なら、爵位を購入してでも持ちたがるものなのである。
あとは継続税、人の何倍もの税金を毎年収め続ければ、爵位は維持され続ける。継続税は爵位によって値段が違うらしいけどね。
言い換えれば、税金が納めきれないと爵位は消え、庶民に戻るという。このように金で爵位を得た方々は、この国では購入貴族といい、爵位持ちの中では、最も俗世的で立場が弱い。
それでも、モノロギ家は何代何十年も継続税を払い続けている有能商家でもあるらしく、一般庶民と一線を画している。購入貴族としては限りなく理想に近い家系らしい。
ちなみに、俺たちに注意喚起しているニッキーもまた、『騎士』という称号を得ている。この称号のおかげで、治安維持のための調査ができるとか。
プリムス王国独自の社会構造……面倒くさいが、こういう文化だと認めるしかないのが、プリムス王国に在住するものの定めである。
ただし、従うかどうかは別の話だけどね。
現に、俺たちアルカナム興信所の立場はかなり特殊だから。
とにかく、ここでは、ニッキーと一緒なら、一般人が入り込みにくい、聞き込みにくい爵位もちの家にも正攻法で気軽にいけるってこと。
その事実だけで今は十分。
この国特有の称号の話はここで一端終わりだ。
「ニッキーの顔を立てて、出来るだけ角が立たないようにするわ」
「はは。お手柔らかに頼むよ、リィノ」
無理な話だけどね。
アルカナム興信所はアルカナムのための組織だものな。アルカナムとそれを創造した神には忠実だけど、それ以外は芥に等しく、稀に使用者に優しい時もあるが、気まぐれに近い。
世界規模の貢献はするけど、国や地域の社会に優しいかどうかは不明である。
優しかったら、よかったのにね……。
あきらめて愛想笑いをしているニッキーには、すでに哀愁が漂っているよ。
「まぁまぁ。ややっこしい事件だから、協力し合うしかないわけで。モノロギ家の現当主モノロギ夫人にはたくさん聞かなきゃいけないし、メモの準備をしておけよ、リィノ」
「……わかっている」
口下手なリィノに記録係を任命する。
わりかし重要な仕事を与えることで、リィノ特有の世間知らずゆえの毒舌を封じるのである。
(まぁ、つっこみたいところはたくさんあるけど、たくさんあるからこそ、聞き逃してはいけないのだよ)
逆ギレされて、うやむやに……なんていうオチにしないためにも、言葉を選んでいかないといけない。
(さぁって、ここからはお仕事の時間だな)
ニッキーがモノロギ邸の立派な門構えにあるチャイムを鳴らす。
俺たちの、アルカナム興信所調査員のお仕事が本格的に始まる合図でもあった。
「お話は社長から聞いております。社長が来るまで、こちらでお待ちください」
秘書と名乗る女性に案内されて向かうのは、応接間。
時には海外の商人と交渉するためか、部屋全体プリムス王国を象徴する高貴なデザインに包まれており、家具や調度品もそれなりの年季と品のある高級品が立ち並んでいた。
プリムス王国の文化レベルから考えると、全体的に中の上クラスの佇まいだ。
「ごきげんよう、ミスター・ブライアント。それに、アルカナム興信所の方々」
出されたカラス用の紅茶で喉を潤わせていた時、ヒト族の妙齢の女性が現れる。
「わたくしの名は、エジーナ・モノロギ。今は亡き夫の代わりに、息子が成人するまでの間モノロギ家の当主代理を務めておりますの」
黒を基調としたシックなデザインの衣服を身にまとっている。
いい布地らしく上品な光沢感が美しく、涙を意味する真珠のネックレスも、彼女の魅力を引き出すいいアクセントだ。
整った身なりはバリバリのキャリアウーマンを彷彿させる。
「アルカナム興信所から来たエルフのリィノとカラスのセオだ」
「よろしくお願いします」
契約獣らしく、リィノの肩にとまりながら、とりあえずお辞儀。
ニッキーに注意されたことないから、異世界でもこの姿勢はマナーとして間違っていないのだろう。
文化によっては、お辞儀は決闘以外しないものだっていう地域もあるらしいからな。
俺のあたりまえのマナーがどこまでプリムス王国に通じるか、わからない。だから、この国では常識人枠のニッキーがいるだけで、俺の精神はかなり和らいでいる。
「さっそくですが、ミセス・モノロギ。貴女の家のメイド、ミス・セイシーギのことについてなのですが」
そして、ニッキーに受け答えを任せれば、俺は遠慮なくミセスの動向に注視できるって寸法さ。
会話しながら相手の様子をうかがうって、大変だから。上手く役割分担できるこの状況は推理をする状況的には望ましいモノなのだよ。
「セイシーギ……ガーデニア・セイシーギのことね」
ミセスは苦々しい表情を浮かべた。
「彼女ならおととい出ていったきり、帰ってきておりませんの。どうせ屋敷の仕事に音を上げて、故郷に逃げ帰ったのでしょう。とんだ恥知らずですわ」
セイシーギとは落ちぶれた元経営者の家名である。
モノロギ家に娘の一人が住み込みのメイドとして奉公していたらしい。
「……ところで、そのミス・セイシーギには肩に三つのほくろがありましたか」
「さぁ。わたくし、使用人たちの身体的特徴まで興味がありませんの。存じ上げません」
普通、肩丸出しの服なんか着せるわけねぇか。チラ見した使用人たちもだいたいクラシックスタイルだ。秋葉系の露出が高い肩丸出し、腹チラあり、魅惑の太ももが露わになるミニスカートの萌えキュン☆メイドなんかお呼びではない。
スケベじじいやふろ場で一緒だったとか理由がなければ、まず知らない情報だろうよ。
ミセス・モノロギは見た感じ格式を大事にしていそうだから、使用人たちと裸の付き合いはなさそうだ。
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