第13話 首都へ

 「どうです? この船立派でしょ?」

「…政府で管理している客船にドヤ顔されても…」

「大き~い!」

 目をキラキラ輝かせて客船を見ているベルトリクス。その横には玉城が離れないように付いている。

 「船内のレストランではあちこちの郷土料理をいっぱい用意してあるそうなので、食事も楽しみにしてくださいね」

「本当ですか!?」

さらに目を輝かせるベルトリクス。

「ひょっとして、あちこち寄っていけないから気を遣ったの?」

「『家に帰るまでが旅行』って言葉がありますし、少しでも不自由さを感じさせないための工夫ですよ」

「そんな言葉は無い…」

 とはいえ船旅を少しでも楽しんでもらえるなら良いか、と考えた玉城だった。


 「うわあっ! 玉城さん、部屋が広いです! 海が見えます!」

景色の良い一等客室を用意してくれたので嬉しそうにはしゃぐベルトリクスの姿に微笑む玉城。

「見てください玉城さん! テーブルにこんなにミカンが用意されてますよ!」

 部屋の中央に置いてあるテーブルの上にベルトリクスの好物であるミカンが山盛りで用意されていた。

「そこまで用意するとは…」

さすがに玉城もそれにはあきれてしまった。

 「じゃあ俺は船長と話をしてきますのでゆっくりしていてください」

木守が廊下に出た所で玉城も一緒に付いてきた。

「玉城さんはベルちゃんに付いていていいんですよ?」

「お前までベルちゃん呼び…まあそこはともかく私も挨拶に行ってもいい?」

「…婚前のご挨拶ですか?」

「そうじゃなくって、お世話になるからお礼の挨拶なんだけど…」

「まあ冗談ですよ。でも似たようなものかもしれませんねえ」

「???」

 その言葉に疑問を持った玉城だが、すぐに謎は解明する。

 「初めましてこんにちは。私がこの船の船長で、こいつの兄の木守真人こもりまなとです」

「…こ、こんにちは」

まさか家族を紹介されるとは思っていなかったので緊張する玉城。

 「木守ですがコウモリ羽は無いです…玉城さん、顔色悪いですが大丈夫ですか?!」

「…実は船酔いしやすいの。酔い止めの薬飲み忘れちゃって…」

 その後、首都に着くまでの数日間ほぼ部屋で横になっていた玉城であった。


 明日には首都へ着くという所まで航路は進み、玉城は一人甲板の椅子に座りながら夜の海風を浴びていた。

 「船酔いは大丈夫ですか?」

木守が飲み物を持ってそばに来た。

「うん…なんとか慣れてきたみたい」

飲み物を受け取り、口へ運ぶ。

「ベルちゃんは船旅を満喫してましたよ」

「そう…良かった」

 「そういえばあの教会でプロポーズをすると成功するって話、島の人の唯一のデートスポットで歴代の天使の見張り役と守り役がよくプロポーズするからそんな確率になってるそうですよ」

「そんな理由だったのか…そういえばあの島の別名って」

「『神の島』だそうですね」

「だから鳥居のある島の名前でベルトリクス様が反応したのか」

「あの時はヒヤヒヤしましたよ」

「すまない…」

 知らなかったとはいえ、危うく危険にさらす所だったと反省する玉城。

「まあ俺は楽しかったですけどね」

笑いながら木守が呟く。

 ふと真顔になり木守の方を向く玉城。

「あの…ね? 考えたんだけど…」 

「はいっ!」

ドキドキしながら木守も玉城の方を向く。

 「いきなり結婚とか同棲とかはちょっと…」

「ですよねえ…」

少ししょげる木守。

「だから、住んでいる所ってマンションみたいに部屋があるって聞いたから、まずは別々の部屋に住んで、付き合って、それから同棲とか順序を踏んでいって結婚…ではダメかな?」

 真面目な玉城らしい提案。

それを聞いた木守は何度もうなずいて、

「お、OKです! それでもいいです!」

と言ったが、物陰から、

「頭領、良かったですねえ…」

「ええ話や…」

「弟、グッジョブ!」

という声が聞こえていたのを木守と玉城は聞き逃さなかった…。

 「…恥ずかしい」

「すいません…」

二人で赤面しながら笑うしかなかった。

 

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