エピローグ

 晴れ晴れとした5月の日差し。

窓のそばに佇むウェディングドレスを着た玉城。

 「とっても綺麗よ。お父さんにも見せたかったわねえ…」

「お母さん…」

玉城の父の写真を持ち、ウェディング姿を見た母がそっと目元を拭う。

 コンコンとノックをして木守が控え室に入ってきた。

「玉城さ、じゃなかったナツメさん、用意は…」

木守が玉城を見たとたん見惚れてしまい固まる。

「花婿がそんな事でどうするのよ! ほら、入った入った!」

木守の後ろから留め袖を着た恰幅のよい中年の女性が木守の背中を叩いて中に入るように促す。

 「あら藤枝さん固まっちゃってるじゃないの! 何かジョークでも言ってあげてよ。

これじゃ花嫁と一緒に歩く時ロボットダンスになっちゃうわ~」

 入り口のそばで藤枝部長が直立不動で動かないでいる。

「亡くなった父の代わりにバージンロードを歩いてもらいたいとお願いしたんですが、

まさか緊張しちゃうとは思っていなかったので…」

済まなそうな顔をする玉城。

「情けないなあ、それでも俺の後輩か?」

「すいません先輩…」

 後から知ったが、木守の父はSPの仕事をしていて藤枝部長の先輩にあたるのだそうだ。

そして木守の父母はベルトリクスの母の見張り役と守り役を勤めた事がきっかけで結婚して、今でも仲が良いのだと初顔合わせの時木守が教えてくれた。

 木守の父母に続いて木守の兄姉も部屋に挨拶に来た。

 「ナツメさんキレイ! 私もウェディングドレスを着た~い!」

「サツキ姉さん…相手いるの? って痛たた!」

言った瞬間、姉に脇腹をつねられる木守。

「全くこの弟は、一言多いってーの!」

「まあまあサツキも雲英きらもこういう時にまでケンカしないでよ」

兄の真人が二人をなだめる。そのやり取りに思わず笑ってしまった。

 「そろそろお時間ですので式場へご移動をお願いいたします」

係の人がやって来て移動を促す。


 扉が開き、玉城は藤枝部長と共にバージンロードを歩く。

 「家族だけは挙式に参列しますが、世界中で同じ仕事をしているコウモリ族もリアル配信で参加します」

と、木守には言われていたが、チラリと席を見ると、座席にはタブレットが置いてあり、ネットで画像通信出来るモードになっていた。

 思ってはいけないと思いつつ、真っ先に、

(シュールな光景だなあ)

と思ってしまった玉城。

まあ各国の時差もある中、参加していただけるだけでもありがたい。


 挙式もスムーズに進み、緊張していた藤枝部長もなんとか父親の代役をこなした。

タブレット画面からは拍手喝采が聞こえ、皆から祝福されているのを玉城は肌で感じていた。

 式の最後に、式場内に運ばれた大きなテレビ画面にスイッチが入り、そこに映されたのは、

「玉城さん、木守さんご結婚おめでとうございます!」

 ベルトリクスが拍手と満面の笑みで祝福の言葉を述べる。

その後ろで天使の羽根をバタバタ動かしながら飛ぶ一歳位の子供が映っている。

 それを見たコウモリ族の人達は、

「「「可愛い…」」」

「あんな可愛い娘がこの国の天使…うらやましい!」

「うちなんてマッチョな大男だぞ!」

「うちもだ! 最近なんて筋トレに夢中になるから余計にムキムキで暑苦しいんだ!」

 タブレットから羨望と嫉妬の声が各国の言葉で寄せられてくる。

 その光景を見て、

「なんか、色々言われているんだけど…」

と、木守に聞く玉城。

「父母の時はあちこちからビデオメッセージでの参加だったそうですが、全部終わるのに半日かかったそうですし、他の国の天使なんてお目にかかれなかったそうです。それに比べたらまだ生の声を聞けるだけ良いのかと」

「半日…」

想像するが、ただ見ているだけでは途中で眠りそうだと、玉城は思った。

 「それはともかく、今後ともよろしくお願いしますナツメさん!」

笑顔で言う木守。

「こちらこそ、末永くお願いします雲英きらさん!」


 こうして天使の護衛から始まった旅は、幕を閉じ…てはいなかった。

 「玉城…じゃなかったナツメさん! オムツ替えようとしたら逃げちゃいました!」

「ベルトリクス様! ダメです離しちゃ!」

 ほぼ子育て奮闘記と化していく日常。

どこにも出掛けられない塔での生活。

でも、玉城ナツメはその中で100%の幸せを感じていたのだった。

              ─ 完 ─

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SPの心遣い─依頼者は天使?!─ 東寒南 @dakuryutou

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