第11話 守り役と見張り役
「念のために買っておいて良かった…」
玉城は買っておいた角煮まんじゅうをカバンから取り出しそこにいる皆に配った。
「角煮まんじゅう、思っていた通り美味しいです!」
片手に卵、片手に角煮まんじゅうを持って頬張るベルトリクス。
「島から全然出られないんじゃが、テレビで観てから一度食べてみたかったんじゃ。これは柔らかくて美味しいのう…」
その場にすっかり馴染んで、角煮まんじゅうを置くためのテーブルを運んできてからモリモリ食べ始める神父。
「木守、結崎は大丈夫なの?」
黒焦げ状態で横たわっている結崎。とりあえず手錠をはめておいたが、息はしているようだ。
「コウモリの翼を出している時は頑丈で回復力も高いから、すぐ復活すると思いますよ。
あと、木守の一族の方に連絡したんで引き渡す予定になってます。
まあ、結崎の方にも何かしらのペナルティが行く事は必須ですがね」
こちらも角煮まんじゅうを食べながらケロッとした表情で話す木守。
「そうか…」
後輩に裏切られた事はショックだが、まず腹ごしらえしなければ次の行動に移せないと思い、玉城も角煮まんじゅうを食べる。
「玉城さん、まだありますか?」
たくさんある角煮まんじゅうがどんどん減っていく。
「前に来た天使も食いしん坊だったと父が言ってましたのう…」
ベルトリクスを見ながら目を細めて神父が呟く。
「そういえば木守」
「ん? ひゃんでふか先輩」
食べている途中で口をモゴモゴしながら返事をする。
「あの卵のカラと羽根は何だったの?」
「あれは…カラはベルトリクス様が入っていた卵で、羽根は…」
「先代、ベルちゃんの母のじゃろう。天使は死ぬと羽根だけ残るそうじゃ。
ここには弔いと次世代への引き継ぎ、又は国を滅ぼすかを何十年に一度決めるために訪れると言い伝えられているのじゃ。
各国に一人必ず天使がおって、この国と同じく高い塔に住んどるそうじゃぞ」
木守が言いにくそうにしていたのを神父が説明してくれた。
「神父、ベルちゃんって呼び方…、
ん? ひょっとして…歴史上滅んだ国があるのって…」
「察しの通り。文字通り『天使の加護の元、人々は安心に暮らし、人の行動が国を左右する』という事です」
それを聞いて、
(国が滅びなくて本当に良かった! ミカンに救われるとは思わなかった!)
と、玉城は正直に思ったのだった。
改めてこの旅の責任の重大さを感じていると、ふと結崎が目に止まった。
そこでさっきの言葉を思い出す。
「結崎は『見張り役にはなれない』って言っていたけどそれってどういう意味?」
「あー、それは」
口の中の物をゴクンと飲み込んだ後、木守が説明する。
「ベルトリクス様をここまでお送りする守り役と見張り役が二人一組で行動するんですが、それは出発地点から変更は出来ないんですよ。だから途中で結崎さんが守り役になる事はルール的に不可能なんです」
「あれ? それじゃ木守は?」
新幹線内で合流したのでどうなのか疑問に思っていると、
「俺は生まれた時から見張り役なのが決定事項なんで、旅の途中から参加でもOKなんです」
「そうなんだ…」
生まれた時からレールが敷かれているのも大変だなあ、と玉城が思っていると、
「それよりも玉城さん、重要な事を言わなければならないんですが」
あらたまった態度で玉城に話す木守。
「実は…守り役は卵と天使をずっと守る事になるんです」
「そりゃ、首都に戻るまでは任務だって分かっているけど」
「そうじゃないんです。玉城さん、あなたはベルトリクス様とあの塔でベルトリクス様のお世話係となって次世代の天使が成長するまで過ごさなくてはならないんです」
「…えっ?!」
突然のほば終身雇用宣言に驚く玉城。
「ただし、塔の最上階…10階分は天使族のスペースですが、その下は俺達コウモリ族の住居スペースなんですよ。で…」
ニコッとしながら、
「俺と一緒にそこに住みませんか?」
「は!? 何で!?」
どこまで木守の意図を汲んでいいのか迷う玉城だった。
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